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2023
02.20

金持ちの御曹司~違う、そうじゃない~<前編>

「違う、違う。そうじゃない。そうじゃない!まて、待ってくれ!誤解だ!」

男は叫んだが女は背中を向け去って行った。

叫んだ男は金も権力も持つ男。
体脂肪が4.8パーセントしかない男。
おかしいくらい濃くて長い睫毛を持つ男。
そして、コンプレックスなど無いと言われる男。
つまり男は男性的魅力を持つ男で神の憐憫の情を必要としない男。
そんな男が恋人にフラれた。

そしてそんな男の前にいるのは心配する男。
面白そうに笑う男
それから喜ぶ男だ。

「おい司。お前、牧野に何をした?」

「わはは!司。お前、ついに牧野にフラれたか!」

「ふーん。司、牧野にフラれたんだ。じゃ俺、シャンパン持って牧野んとこ行かなきゃ」

最後の言葉を発した男はかつての司の恋のライバル。
だから司はその男が立ち上がろうとしたところで睨んだ。

「それにしてもお前。何でフラれた?」

それは三人の男達の誰もが知りたいこと。
だが司は口を閉ざしたまま開かなかった。
しかしそれでは問題は解決しない。

「………た」

「は?何だって?」

「あいつに見られた」

「見られたって…..何を見られたんだ?」

「だから他の女とキスしているところを見られた」

「おいお前….他の女とキスって…..」

「やるじゃん司。ついにお前も牧野以外の女とキスしたいと思ったってわけか」

「へえ….司が牧野以外の女とキスねえ」

司は牧野つくしと知り合う前まで挨拶のひとつとしてキスを受け入れていたことがあった。
だが好きでキスをしたことはなく、女たちが勝手に唇を合わせていただけ。
だから彼女を知って他の女とのキスは気持ちの悪いものになった。
それ以来彼女以外の女と唇を重ねたことはない。
そんな司にキスしてきたのはニューヨーク留学時代の同窓生。
父親はフランス人のダイヤモンド商で母親は日本人。
そして女性は新進気鋭のジュエリーデザイナー。

司は恋人に特別なジュエリーを贈ることを決めた。
それは二人が出逢ったことを記念するためのもの。
だからその制作を同窓生の女性に依頼した。
だが何故その女性に依頼したか。それは女性が建築学を学び独創的でありながら、繊細かつ女性らしさを意識させるデザインを得意としているから。
だから司は女性に恋人のことを話し、彼女をイメージしたジュエリーを作らせた。
そして仕上がったと連絡を受けた司は待ち合わせをした店で、そのジュエリーを受け取り、女性に礼を言ってふたりで店の外に出たが、彼女はフランス人の習慣で別れ際に司の頬にキスをした。だがそれは頬を合わせてリップ音を立てる「ビズ」というフランスでは定番中の定番の挨拶であり唇はどこにも触れていない。だがその瞬間を見た恋人はふたりがキスをしていると誤解をした。そして、よりにもよって司が喜んで女のキスを受け入れ、女を抱きしめようとしていると勘違いをした。

司は背中を向けて走り出した恋人を追いかけた。
追いついて腕を掴んで振り向かせた。
だが振り払われた。
そして浮気をしていると疑って決めつけた。

本来、恋人はやきもち焼きかと言われれば、そうではない。
恋人は、さっぱりとした性格をしている。
だが、こと恋愛に関してはいじいじと考え込む。
だから居もしない女の話を勝手にこじらせて、ひとりで思い詰めていく恐れがある。
挙句の果てに考え過ぎてどうすればいいのか分からなくなってしまう。
そして渡るはずの石橋を叩いても渡ることを止め、別の橋を渡ろうとする。
それはかつて司と恋人の間に起きた雨の日の別れ。

だから今回のことは説明すれば分かってくれるはずなのだが事実を話したくなかった。
何故ならこれは秘密にしておきたいプレゼント。
だから司は幼馴染みである三人の男達にどうすれば彼女の誤解を解くことができるか訊くことにした。そして聖書に出て来る東方の三賢者よろしく問題を解決する知恵を授けてくれることを期待したのだが、彼らから返されたのは、「司よ。お前もいい年をした大人だろ?自分の身に降りかかった災難は自分で解決しろ」だった。

司は恋人以外の女に1ミリたりとも興味を持ったことはない。
それに司は誰かと違って何人もの女と同時に付き合えるような器用な男ではない。
だから司は、あれは誤解だと説明しようとした。
しかし、恋人は電話にも出てくれなければ会ってもくれなかった。
そしてそれから数日後、司は恋人に会えないまま仕事でニューヨークへ向かった。



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