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2022
08.21

夏はドラマチック 11

司が王女の唇の端に付いたクリームを舐めた日から1ヶ月が過ぎた。
あのとき王女の目は丸くなり言葉を失った。
そして食べ掛けのパフェを置いて逃げだすように店を出て行ったが、司の親指が触れた唇は柔らかかった。それに唇は少しだけ開いた。

司はあの日から毎日王女に手紙を書いた。そしてそれを王女の側近である西田に渡していた。西田は司が王女に恋心を抱いていることを知っている。それに西田は王女が結婚することを望んでいる。だから協力を惜しまなかった。

ただ、王女が司の手紙を読んでいるのか。いないのか。
それは分からなかった。だが司は自分の王女に対する思いを伝えることに決めたからには、その行為が自己満足だと言われても書くことを辞めなかった。
そしてある日、司は西田から宮殿に来て欲しいと言われた。

「道明寺様。王女様があなたに会いたいそうです」

だから司は王女に会うためここに来た。
そして通されたのはとてつもなく広い部屋。
司はその部屋で王女が来るのを待っていた。



***



つくしは道明寺司から届いた手紙の山を見ていた。
それは毎日届けられ積み上げられていくが目を通したことがない。
何しろつくしに関心を持つ男性は多い。過去にはこれほどではないが、同じように手紙を送ってきた男性がいた。
そして近づいてくる男性たちは王女である牧野つくしに興味があるのであって、ただの牧野つくしには興味がない。彼らは皆、王女のつくしに礼儀正しく接し、その言葉に耳を傾けるだけ。だから特別な気持にさせられた男性はいない。

つくしはあの時のこと思い出していた。
高校生の頃、彼女から腹にパンチを受けた男は惚れたと言った。付き合って欲しいと言った。
そんな男の指先がパフェを食べていたつくしの唇に触れたとき、男の視線は熱く親密で思わず呼吸が早まった。だから思わず立ち上ったが、急に立ったせいで眩暈を起こしそうになった。
そして食べ掛けのパフェを残し店を出たが、これまであんなふうにつくしに触れた男性はいない。だからその刺激で頭の中に罰当たりな思いが目覚めた。

あの指先が身体の他の部分に触れたら…….

扉をノックする音が聞こえた。
だからつくしは「どうぞ」と言った。
すると開かれた扉の向こうに立つ男が言った。

「王女様。道明寺司様がいらっしゃいました」




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