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2022
08.08

金持ちの御曹司~背広の下のロックンロール~<前編>

「ねえ。このモデル。カッコいいと思わない?」

「そう?顏がクドイと思うんだけど」

「そんなことないわよ。この顏のどこがクドイのよ?」

「だってほら阿部寛っぽいじゃない?あの顏がクドクないって言うなら誰をクドイって言うのよ」

「確かに阿部寛はクドイと思うわよ?でもこのモデルは阿部寛ほどクドクないわよ」

「じゃあ誰レベルよ?」

「そうねえ…..北村一輝じゃない?」

「北村一輝?北村一輝も阿部寛も似たり寄ったりの顏の濃さだと思うけど?」

「そうかなあ…..でも言われてみれば確かにそうかも。あの二人どっちも濃厚。濃い顏してる!二人が並んでいるところを見たら胸やけするかもね。ねえ。それはそうと、うちの支社長もモデル並の顏とスタイルしてるわよね!」

「それを言うなら道明寺支社長はセクシーさとワイルドさを兼ね備えたイケメンよ!それに支社長の顏はクドイっていうのとは違うのよね。目鼻立ちがはっきりしてるけど、あの彫りの深さは品と美しさを備えているもの」

「うんうんその通り!それに道明寺支社長って脱いでも凄いんでしょ?ただでさえゴージャスなのに、さらに鍛え上げた肉体美の持ち主なんて、道明寺支社長の恋人が羨ましい!あたし硬い腹筋と彫刻のような胸に抱かれるなら1億円出してもいいわ!」

「1億円?なにあんた1億持ってるの?」

「まさか!でもそれくらい出しても価値があるってこと。ほんと。恋人が羨ましいわ!」











恋人は蟻と同じで甘いものが大好きだ。だからこの場所にいると思ったがアイスクリームの自動販売機が置かれているその場所に姿はなかった。
その代わりいたのは女子社員がふたり。だから彼女たちの会話に耳を傾けていたが、司は阿部寛という社員も北村一輝という社員も知らない。だが、どうやらクドイ顏をしたふたりの男は女性社員の間では有名らしい。だから執務室に戻ったら社員のデータを検索してみようと思った。

それにしても、何故女性社員は司の身体に興味があるのか。
確かに体脂肪6パーセントの司の身体は鍛え上げられている。だがそれを知っているのは恋人だけであり、他の女の前で裸になったことは一度もない。
それにこれから先も他の女の前で裸になるつもりはない。

そして司は過去に一度だけモデルをしたことがある。
あれは姉の頼み事。姉の椿は結婚してロスで暮らしているが、夫はホテルを経営している。
そのホテルのブライダル部門のカタログモデルなのだが、前からではなく後ろ姿の写真が欲しいと言われた。他ならぬ姉の頼みだ。それに後ろ姿だけならと引き受けたが、モデルを引き受けたことは恋人には内緒にした。

司は執務室に戻ると、社員名簿から顏がクドイと言う阿部寛と北村一輝を探した。だがそんな社員は見当たらなかった。その代わり目に止まったのは市村正親という部長職の男。何故か写真の下に趣味はミュージカル鑑賞と書かれていた。
そう言えば、つい最近、司は恋人と一緒にベトナムを舞台としたミュージカルを見たが、劇場で部長職の男に似た男を見かけたような気がする。
そしてあの日。舞台を見終えたふたりは、メープルで遅いディナーを取ると、最上階にある司の部屋で愛し合った。
そんなことを思い出しながら司は目を閉じた。













司は駐車場に車を止めると建物の3階に上がり部屋のチャイムを鳴らした。
すると中から女が出てきて司の全身を眺めた。
そして「あなたが代わりの人ね?私がカメラマンの牧野です」と言った。
司は親友の類に頼まれてこの部屋を訪ねたが、そこは牧野フォトスタジオ。
類はファッションモデルで今日はこのスタジオで撮影に臨むことになっていたが、急病で撮影に臨むことが出来ないからと司に代役を頼んできた。

「ゴメン。今朝起きたら熱が40℃近くあってフラフラで立っていられないんだ。だから悪いんだけど俺の代わりにスタジオに行ってくれない?セレクトショップの洋服のカタログ撮影だから、ちょっとポーズを取ればいいだけで簡単だよ。カメラマンには司が行くって連絡しとくから。それに司なら充分モデルとして勤まるから」

確かに司はこれまで何度もモデルにならないかと声を掛けられたことがある。
だが司は自分の姿を売り物にするつもりはなかった。
だが幼馴染みの親友がどうしても仕事に穴を開けることは出来ないから代役を頼むと言ってきた。だから引き受けたが、「じゃあさっそくお願いね」と言われて案内された場所に用意されていたのは、テーブルの上に乗った大きなダンボール箱。

「あなたが身に着けるは、あの箱の中に入っているわ。それから安心して。沢山あるけど全部じゃないから。あなたのサイズに合うものだけ選んでくれたらいいから。
それからこの会社の商品はバラエティに富んでいるから、あなたの好みで選んでもらって構わないわ」

司はそう言われ箱に近づくと蓋を開けたがギョッとした。
サイズが合うも無いもない。司が開けた箱の中にあるのは色とりどりの下着。
恐る恐る一枚だけ取り出したが、それはかろうじて股間を覆うだけのヒョウ柄のブリーフ。
そしてもう一枚取り出したが、それは生地が薄くハンカチほどの重さしかない紫色のブリーフ。さらにもう一枚取り出して見たが、それは前だけを覆い尻の部分は布がない紐状の赤いヒラヒラの物体。そしてその赤いヒラヒラの物体に絡まっているのは、メタリックブルーのメッシュのブリーフ。女性は箱の中はバラエティに富んでいると言ったが正にその通り。どれもこれも奇抜な物ばかりだ。いや、それ以前にこれは類の言ったモデルの仕事とは違う。

「くそっ。類の野郎……」

類は昔から確信犯的なところがあったが、熱を出して撮影に臨めないと言った仕事は、セレクトショップの洋服の撮影などではなく下着カタログのモデル。
そして恐らく類は本当は熱など出しておらず、ただ事務所が受けたこの仕事をこなしたくないから、熱が出たと言って司に代役を頼んできたのだ。

「それから撮影だけど、今回は下着のアップの部分をメインで撮るのでよろしくね。そうねえ…..枚数は20枚くらいかしら。つまり20種類の下着を選んで欲しいの」

司はそう言われてカメラマンの牧野という女をまじまじと見た。

「おい、ちょっと待ってくれ。アップって….それに20種類って…」

女の言う通りなら、司はあられもない下着を付けた局部をアップで20枚以上撮影されるということだ。それに間近でその部分をジロジロと見られるということだ。

「聞いてない?」

「聞いてないもなにも俺は今日来るはずだった男の代役で詳しい説明は何も受けてない!」

「あらそうなの?それなら説明するわ。今回は男性下着メーカーのカタログの撮影なの。
その会社はマネキンじゃなくて生身の男性に自社の下着を付けてもらって撮影することを望んでいるの。それに下着の撮影だってことはモデル事務所にも伝えてあるし、一番カッコいいモデルを寄越して欲しいって頼んだわ。だから花沢さんというモデルさんも下着の撮影だってことは知っていたはずよ?あなたも花沢さんと同じ事務所なのよね?だからてっきり聞いてると思ったんだけど?」

「いや。俺はあの男と同じ事務所のモデルじゃない。それどころかモデルじゃない。あの男のただの友人だ!」

司は叫んだが、女は司の顏を見つめ、それから頭から爪先まで眺めまわした。

「あらあなたモデルじゃないの?でもあなたもモデルが出来るくらい素敵よ。だから自信を持ってもいいわよ」

女はそう言うと次に部屋の隅を指さした。

「着替えはあのカーテンの後ろでしてね。それからシェービングが必要なら、バスルームに案内するから言ってね」

「シェービング?」

シェービングとは剃ることだが、まさか___

「ええ。ムダ毛の処理よ。写ったら困るもの。それからスタジオは隣の部屋よ。着替えが終ったら来てちょうだい」

「おい!ちょっと待て!俺はこの仕事を引き受けるとは言ってない!」

司はそう言ったが女は司を部屋に残すとバタンと扉を閉めた。




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コメント
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dot 2022.08.09 15:54 | 編集
s**p様
日曜の御曹司が平日に!(笑)
長くなりましたので三話に別けて書きましたが、楽しんでいただければ幸いです!(≧▽≦)
拍手コメント有難うございました^^
アカシアdot 2022.08.12 21:45 | 編集
ふ**ん様
品と美しさを持つ司の股間だけとか勿体ない(≧▽≦)
そうですよね~
勿体ないですよね~
ぜひ全身の写真を!と思うのは同じです。
それにしても司の毛はどうなっているのか?
え?詳細希望ですか?( *´艸`)
そちらはミケランジェロが作ったダビデ像でお許しを。

部長職にいる市村正親。
お元気ですよね~あの声量は本当に凄いです。
コロナ禍で人が大勢集まる場所に行くことがなくなりました。
と、いうことで最近舞台は見ていないのですが濃い顏として登場していただきました(笑)

久々の御曹司。三話に別れていますが楽しんでいただければ嬉しです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2022.08.12 22:36 | 編集
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