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2022
07.25

夏はドラマチック 8

覚えていない___

思っていた通りの答えが返ってきた。
だが口調は丁寧で柔らか。
しかしそれは王女の立場がそうさせているのだろう。
司はあのとき彼女の右手が腹に加えた衝撃を忘れてはいない。
あれは力強いパンチで司が一瞬息を呑んだ隙に彼女は走って逃げたが、その逃げ足も速く見失った。つまり王女は優雅に見える外見とは違い本来は元気で威勢のいいということ。
そして司はそれまで自分に興味を示さない女に会ったことがなかった。それに自分に刃向かう人間に会ったことがなかった。だから生意気な態度と腹に喰らったパンチに怒りが湧いた。
だが時間が経つにつれ、怒りよりも彼女に対し別の感情があることに気付いた。と、同時に彼女が王女であることを知ったが、二度と会うことはなかった。

だが今、その彼女が礼儀正しい顏に困惑の表情を浮かべて目の前にいる。
しかし司のことを全く覚えていないということはないはずだ。
何しろ彼女は司に腹にパンチを見舞ったのだ。その相手を覚えてないなどないはずで、何らかの印象を残しているはずだ。

司はそれを確かめようと口を開きかけた。
そのとき「お待たせいたしました!こちらキャラメルパフェでございます」と言って店員がパフェを運んでくるとテーブルに置いた。そして店員は彼女と司が向き合っているのを見ると、司と彼女をちらちらと見比べた。だから司は、「すまないが席を移る。さっき頼んだコーヒーはこっちのテーブルに運んでくれ」と言った。すると彼女は身をこわばらせ周囲を見回した。
それはボディガードを探している顏。だがいつもいるはずの人間が何故かそこにいなかった。

司は椅子を引くと彼女の前に座った。
すると彼女は司に視線を戻し「ちょっと!勝手に座らないで!」と言って睨んだ。
だが司はその言葉を無視した。
そんな司に「あなた、10年前に会ったって言ったけど一体誰なの?」と言った彼女の声が先程の言葉よりも少し控えめなのは周りの注意を引きたくないから。
そして慎重に司の顏を見つめる様子から、記憶の中から必死に司の顏を思い出そうとしていると感じた。だがやはり思い出せないようだ。

「俺か?俺は道明寺司だ」

司は再び名前を言った。
だがあのときは英徳の生徒なら当然のように自分の名前を知っていると思い名を名乗ることはなかった。しかし彼女は英徳の生徒ではなかった。だから司の事を知らなかった。だから何度名前を言っても意味はないのだが__

「あなたの名前はさっき訊いたわ。そうじゃなくて__」

「慌てるな。説明する。俺は10年前、英徳学園の図書館でお前から腹にパンチを受けた男だ。何故パンチを受ける羽目になったか?それはお前を勉強だけが取り柄のブス女だと言ったからだ」




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コメント
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dot 2022.07.27 12:48 | 編集
ふ**ん様
たとえ思い出してもらえなくても、そこは道明寺司。
堂々としています!(笑)
溶ける前にキャラメルパフェ食べよう(笑)
アカシアもそう思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2022.07.30 21:09 | 編集
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