自宅に戻った司は強い酒を飲み、頭の中を整理しようとした。
バーで西田の口から王女を誘惑して欲しいという言葉を訊き、むせそうになった。
そして親友たちから、お前がその立場にピッタリだと言われ脇腹を殴られたような気がした。
「まさかな…….」
親友たちには話さなかったが司は王女を知っていた。
いや。少し言葉を交わしただけでは知っているとは言えない。
それに王女は司のことを覚えていないだろう。
司が王女と会ったのは17歳のとき。
初めて出会った日のことは覚えている。
司が通っていた高校は小学校から大学まで全ての学校課程のある一貫校。
だから図書館も大きく立派なものがあるが、司は誰もいないその場所に置かれたソファで寝ていた。
そこに現れた王女は、目が覚めた司と視線が合うと、「お休み中のところごめんなさい。私が探している本がこの辺りにあるの。見つけたらすぐに立ち去るわ」と言った。
司は出会ったそのとき彼女が王女だとは知らなかった。
何しろお付きの人間はおらず、たったひとり。それに服装は飾り気のないセーター。
そして長い黒髪を三つ編みにしていた。だからここの学生だと思った。王女など思いもしなかった。
だが彼女には凛とした雰囲気があった。
それに司を見て頬を染めることもなければ、周りにいる女達のように色目を使ってくることもなかった。むしろ探している本以外は無関心といった態度で二度と司の方を見ようとしなかった。
だから司は自分に興味を示さない彼女に興味を抱いた。
何年生の誰なのか。
だがその日、司は機嫌が悪かった。
それは着たくもないスーツを無理矢理着せられたから。
だから意地悪な笑みを浮べて言った。
「お前、勉強だけが取り柄のブス女か」
すると彼女は司をじっと見つめて言った。
「じゃああなたは顏だけがいいバカ男ね」
「なんだと!お前誰に向かってそんな口を訊いてると思ってるんだ!」
司は自分を侮辱する人間に会ったことがない。
だから身体を起こすと立ち上がったが、背の高い司にすれば彼女は背が低く小さな子供のようだった。
だが彼女は司に臆することなく小さな鼻をツンと上に向けて言った。
「あら、ごめんなさい、顏だけがいいバカ男じゃなくて図書館は勉強する場所なのにそこで寝ているバカ男かしら?」
「なんだと……..」
司は一歩前へ出た。
すると司はその瞬間、胃に衝撃を感じた。
それは彼女の右手が司の腹に加えた衝撃。
そして彼女は司に背中を向けて駆け出した。
「テメェ、待ちやがれ!」
司は彼女を追った。だが書架の間を駆け抜ける彼女に追いつくことは出来ず、彼女は図書館の外へ出た。そして見失った。
だが司は、この学園の生徒ならすぐに見つけることが出来るという思いから、それ以上追わなかった。捜さなかった。
だが見つけることは出来なかった。それもそのはずだ。彼女はこの学園の生徒ではなかったのだから。それに彼女はこの国の王女。
そして、そんな彼女が司の初恋の人だった。

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バーで西田の口から王女を誘惑して欲しいという言葉を訊き、むせそうになった。
そして親友たちから、お前がその立場にピッタリだと言われ脇腹を殴られたような気がした。
「まさかな…….」
親友たちには話さなかったが司は王女を知っていた。
いや。少し言葉を交わしただけでは知っているとは言えない。
それに王女は司のことを覚えていないだろう。
司が王女と会ったのは17歳のとき。
初めて出会った日のことは覚えている。
司が通っていた高校は小学校から大学まで全ての学校課程のある一貫校。
だから図書館も大きく立派なものがあるが、司は誰もいないその場所に置かれたソファで寝ていた。
そこに現れた王女は、目が覚めた司と視線が合うと、「お休み中のところごめんなさい。私が探している本がこの辺りにあるの。見つけたらすぐに立ち去るわ」と言った。
司は出会ったそのとき彼女が王女だとは知らなかった。
何しろお付きの人間はおらず、たったひとり。それに服装は飾り気のないセーター。
そして長い黒髪を三つ編みにしていた。だからここの学生だと思った。王女など思いもしなかった。
だが彼女には凛とした雰囲気があった。
それに司を見て頬を染めることもなければ、周りにいる女達のように色目を使ってくることもなかった。むしろ探している本以外は無関心といった態度で二度と司の方を見ようとしなかった。
だから司は自分に興味を示さない彼女に興味を抱いた。
何年生の誰なのか。
だがその日、司は機嫌が悪かった。
それは着たくもないスーツを無理矢理着せられたから。
だから意地悪な笑みを浮べて言った。
「お前、勉強だけが取り柄のブス女か」
すると彼女は司をじっと見つめて言った。
「じゃああなたは顏だけがいいバカ男ね」
「なんだと!お前誰に向かってそんな口を訊いてると思ってるんだ!」
司は自分を侮辱する人間に会ったことがない。
だから身体を起こすと立ち上がったが、背の高い司にすれば彼女は背が低く小さな子供のようだった。
だが彼女は司に臆することなく小さな鼻をツンと上に向けて言った。
「あら、ごめんなさい、顏だけがいいバカ男じゃなくて図書館は勉強する場所なのにそこで寝ているバカ男かしら?」
「なんだと……..」
司は一歩前へ出た。
すると司はその瞬間、胃に衝撃を感じた。
それは彼女の右手が司の腹に加えた衝撃。
そして彼女は司に背中を向けて駆け出した。
「テメェ、待ちやがれ!」
司は彼女を追った。だが書架の間を駆け抜ける彼女に追いつくことは出来ず、彼女は図書館の外へ出た。そして見失った。
だが司は、この学園の生徒ならすぐに見つけることが出来るという思いから、それ以上追わなかった。捜さなかった。
だが見つけることは出来なかった。それもそのはずだ。彼女はこの学園の生徒ではなかったのだから。それに彼女はこの国の王女。
そして、そんな彼女が司の初恋の人だった。

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