「それってつまり王女様を誘惑して欲しいという意味ですか?」
あきらは真剣な顏で訊いた。
「はい。王女様は今年の12月で26歳になられます。しかしご結婚の意思がございません。
つまりこのままでは直系の子孫が生まれることがないということです」
西田はひと呼吸おくと言葉を継いだ。
「我が国は直系の方が国を継ぐことが決められています。王子であった弟君が亡くなられた今、王女様が結婚をなさならいということは、この先この国を継ぐ者がいない。そのことが意味するのは、この国が隣国の一部になってしまうということなのです」
「この国が隣国の一部になるってどうして?」
総二郎の言葉には好奇心が覗いていた。
「はい。我が国は遠い昔、国の一部が隣国に占領されたことがあります。しかし奪還したという歴史がございます。そのとき我が国は隣国と条約を結んだのです。いえ、正確には結ばされたといった方が正しいのですが、こののち君主は直系の子孫に限る。そしてもし直系の子孫がいない場合は隣国の旗の下に入ると。とても友好的とは言えない条約ですから、どうしても王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです」
「ふぅん。なんだかよくわからない約束だけど、王女様が結婚して子供を作らなければこの国は隣の国に統合されてしまうってことか。それは大変だね」
類は女性に興味はないが政治にも興味がない。
だからその声は平坦だ。
だが「でもいいかも」と言って司に向けた瞳には面白そうな光が浮かんだ。
「ねえ司。王女様を誘惑して欲しいって話。お前に丁度いいんじゃない?」
類の悪戯っぽいその声に、あきらと総二郎も声を揃えて言った。
「おい類。お前いいこと言うな。そうだな。この役目、司にピッタリだ。おあつらえ向きだ」
「まったくだ。この役目は司にうってつけだ」
「おい待て!なんで俺がうってつけなんだよ!」
司は親友たちの言葉に不服を唱えた。
「だってさ、お前この前言ったよな?」
「またその話か。言っておくが俺は言ってない!」
司は総二郎を睨んだ。
「いや俺たちはちゃんと聞いた。アレは訊き間違えなんかじゃなかった。
司、お前はあの時こう言った。罠にかけられるのが嫌で女と長続きしたことがない。それに自分から女を口説いたことがない。だから一度くらい女を口説いてみたいってな」
司はそんなことを言った覚えはなかった。
だが四人で酒を浴びるほど飲んだ日に、そんな言葉を口にしたらしい。
「だから司。お前が王女様を口説け。誘惑しろ」
「おい総二郎。口説け誘惑しろというが、その意味を分かって言ってるのか?」
「ああ分かってる。お前が王女様と結婚して永遠のエスコート役になればいいって話だ」

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あきらは真剣な顏で訊いた。
「はい。王女様は今年の12月で26歳になられます。しかしご結婚の意思がございません。
つまりこのままでは直系の子孫が生まれることがないということです」
西田はひと呼吸おくと言葉を継いだ。
「我が国は直系の方が国を継ぐことが決められています。王子であった弟君が亡くなられた今、王女様が結婚をなさならいということは、この先この国を継ぐ者がいない。そのことが意味するのは、この国が隣国の一部になってしまうということなのです」
「この国が隣国の一部になるってどうして?」
総二郎の言葉には好奇心が覗いていた。
「はい。我が国は遠い昔、国の一部が隣国に占領されたことがあります。しかし奪還したという歴史がございます。そのとき我が国は隣国と条約を結んだのです。いえ、正確には結ばされたといった方が正しいのですが、こののち君主は直系の子孫に限る。そしてもし直系の子孫がいない場合は隣国の旗の下に入ると。とても友好的とは言えない条約ですから、どうしても王女様には結婚してお世継ぎをお生みいただかなければならないのです」
「ふぅん。なんだかよくわからない約束だけど、王女様が結婚して子供を作らなければこの国は隣の国に統合されてしまうってことか。それは大変だね」
類は女性に興味はないが政治にも興味がない。
だからその声は平坦だ。
だが「でもいいかも」と言って司に向けた瞳には面白そうな光が浮かんだ。
「ねえ司。王女様を誘惑して欲しいって話。お前に丁度いいんじゃない?」
類の悪戯っぽいその声に、あきらと総二郎も声を揃えて言った。
「おい類。お前いいこと言うな。そうだな。この役目、司にピッタリだ。おあつらえ向きだ」
「まったくだ。この役目は司にうってつけだ」
「おい待て!なんで俺がうってつけなんだよ!」
司は親友たちの言葉に不服を唱えた。
「だってさ、お前この前言ったよな?」
「またその話か。言っておくが俺は言ってない!」
司は総二郎を睨んだ。
「いや俺たちはちゃんと聞いた。アレは訊き間違えなんかじゃなかった。
司、お前はあの時こう言った。罠にかけられるのが嫌で女と長続きしたことがない。それに自分から女を口説いたことがない。だから一度くらい女を口説いてみたいってな」
司はそんなことを言った覚えはなかった。
だが四人で酒を浴びるほど飲んだ日に、そんな言葉を口にしたらしい。
「だから司。お前が王女様を口説け。誘惑しろ」
「おい総二郎。口説け誘惑しろというが、その意味を分かって言ってるのか?」
「ああ分かってる。お前が王女様と結婚して永遠のエスコート役になればいいって話だ」

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