「ねえ里美。美味しいパンケーキを出すお店が新しくオープンしたらしいんだけど、食べにいかない?」
「パンケーキ?」
「うん。パンケーキ」
「マリトッツォじゃなくて?」
「うん。マリトッツォじゃなくてパンケーキ!」
「ねえ、なんか今更感があるんだけどパンケーキの流行はもう終わってるんじゃないの?」
「里美。今更も何も好きな物に流行は関係ないわ。あたしはただパンケーキが好きなだけ。だから一緒に…..ね?」
「そうねえ……最近食べてないし……」
「そうでしょ?最近食べてないでしょ?」
「うん。じゃあ久し振りに食べに行こうかな」
「ホント?じゃあ今度の土曜日。どう?」
「土曜?あ、ゴメン。土曜は用事があるの」
「じゃあ日曜は?」
「日曜だったらOKよ!それで場所はどこなの?」
「表参道よ」
「了解。表参道ね。じゃあ待ち合わせは….」
司は女性社員が立ち去った後の休憩室に足を踏み入れた。
そこにはいくつかの自販機が置かれていて、社員たちはここで飲み物を買っていた。
司は時々社内を巡ったあと、ここに来る。
何故ならここは彼女のフロアであり、もしかすると彼女がいるかもしれないからだ。
そして彼女がお気に入りのミルクティーを買っているかもしれないからだ。
だが、彼女はいなかった。
だから執務室に戻ったが、椅子に腰を下ろすと女性社員たちの会話を思い出していた。
司は甘いものが苦手だ。
だがパンケーキは食べたことがある。
それは恋人から「パンケーキが食べたいな」と呟かれたからだ。
だから邸のコックに作るように言ったことがある。
するとコックは恋人のために張り切ってパンケーキを焼いたが、そのとき恋人に「これフワフワで本当に美味しい。ほら。あんたもひと口食べてみて」と言われ、蜂蜜がかかっていない部分を、ひと口だけ食べたが、リコッタチーズがふんだんに使われたそれは、昔口にしたキャラメルパフェに比べれば甘さは感じられなかった。
そして司は、その時のことを思い出しながら目を閉じた。
司は10代で凄みを身に着けていた。
そして荒い声を立てずとも相手を射すくめる能力がある。
だから司が人前に立つと、そこにいる誰もが全集中で彼の言葉を訊く。
「我社はお客様第一主義に徹し、地域の皆様に愛されるスーパーを目指す。そのことをいつも心に止めて仕事をして欲しい」
司は紺色のジャケットを着て胸に名札を付けていた。
それはD&Yホールディングスと呼ばれる持ち株会社が、日本中に店舗を展開する総合スーパーの店長の制服。
司は30代前半の若さで全国一の床面積を持つ店の店長になった。
そして司が店長を務める店は、全店舗の中で一番の売り上げを誇る超優良店だが、彼は閉店後の店内で棚に並んだある商品を見つめていた。
それは醤油。その容器は司の鋭い視線に怯えることもなければ、後ろに下がることもなく静かにそこにあった。
司は最近ある問題を抱えていた。
それは空目、つまり見間違えをすることがあるということ。
何を見間違えてしまうのかといえば、醤油の容器に書かれた『しぼりたて生しょうゆ』の文字が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまうこと。
すると脳内に思い浮ぶのは縄で縛られた醤油の容器。
そして何故かその醤油の容器が、ある女性の姿に置き換わってしまうのだ。
そう。
司には好きな人がいる。
思いを寄せる人がいる。
その人はエリアマネージャーの牧野つくし。
彼女の仕事は本社の意向を店長である司に伝え、店の運営についてのアドバイスや業績管理をすることこと。それにライバル店の調査をするのも彼女の仕事だ。
そして彼女は司よりも年下だが立場は店長の司よりも上だ。
そんな彼女のルックスで司が一番好きなのは大きな黒い瞳。
話すとき、彼女はいつも真っ黒なその瞳で司を真正面から見つめるが、その瞳は美しい。
そして司はビジネススーツ姿の彼女しか見たことがないから、その下に隠された身体については、ひたすら妄想するしかないが、『しぼりたて生しょうゆ』の容器を見るたび、裸の彼女が縄で縛られた姿が脳内に浮かんでいた。

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「パンケーキ?」
「うん。パンケーキ」
「マリトッツォじゃなくて?」
「うん。マリトッツォじゃなくてパンケーキ!」
「ねえ、なんか今更感があるんだけどパンケーキの流行はもう終わってるんじゃないの?」
「里美。今更も何も好きな物に流行は関係ないわ。あたしはただパンケーキが好きなだけ。だから一緒に…..ね?」
「そうねえ……最近食べてないし……」
「そうでしょ?最近食べてないでしょ?」
「うん。じゃあ久し振りに食べに行こうかな」
「ホント?じゃあ今度の土曜日。どう?」
「土曜?あ、ゴメン。土曜は用事があるの」
「じゃあ日曜は?」
「日曜だったらOKよ!それで場所はどこなの?」
「表参道よ」
「了解。表参道ね。じゃあ待ち合わせは….」
司は女性社員が立ち去った後の休憩室に足を踏み入れた。
そこにはいくつかの自販機が置かれていて、社員たちはここで飲み物を買っていた。
司は時々社内を巡ったあと、ここに来る。
何故ならここは彼女のフロアであり、もしかすると彼女がいるかもしれないからだ。
そして彼女がお気に入りのミルクティーを買っているかもしれないからだ。
だが、彼女はいなかった。
だから執務室に戻ったが、椅子に腰を下ろすと女性社員たちの会話を思い出していた。
司は甘いものが苦手だ。
だがパンケーキは食べたことがある。
それは恋人から「パンケーキが食べたいな」と呟かれたからだ。
だから邸のコックに作るように言ったことがある。
するとコックは恋人のために張り切ってパンケーキを焼いたが、そのとき恋人に「これフワフワで本当に美味しい。ほら。あんたもひと口食べてみて」と言われ、蜂蜜がかかっていない部分を、ひと口だけ食べたが、リコッタチーズがふんだんに使われたそれは、昔口にしたキャラメルパフェに比べれば甘さは感じられなかった。
そして司は、その時のことを思い出しながら目を閉じた。
司は10代で凄みを身に着けていた。
そして荒い声を立てずとも相手を射すくめる能力がある。
だから司が人前に立つと、そこにいる誰もが全集中で彼の言葉を訊く。
「我社はお客様第一主義に徹し、地域の皆様に愛されるスーパーを目指す。そのことをいつも心に止めて仕事をして欲しい」
司は紺色のジャケットを着て胸に名札を付けていた。
それはD&Yホールディングスと呼ばれる持ち株会社が、日本中に店舗を展開する総合スーパーの店長の制服。
司は30代前半の若さで全国一の床面積を持つ店の店長になった。
そして司が店長を務める店は、全店舗の中で一番の売り上げを誇る超優良店だが、彼は閉店後の店内で棚に並んだある商品を見つめていた。
それは醤油。その容器は司の鋭い視線に怯えることもなければ、後ろに下がることもなく静かにそこにあった。
司は最近ある問題を抱えていた。
それは空目、つまり見間違えをすることがあるということ。
何を見間違えてしまうのかといえば、醤油の容器に書かれた『しぼりたて生しょうゆ』の文字が『しばりたて生しょうゆ』に見えてしまうこと。
すると脳内に思い浮ぶのは縄で縛られた醤油の容器。
そして何故かその醤油の容器が、ある女性の姿に置き換わってしまうのだ。
そう。
司には好きな人がいる。
思いを寄せる人がいる。
その人はエリアマネージャーの牧野つくし。
彼女の仕事は本社の意向を店長である司に伝え、店の運営についてのアドバイスや業績管理をすることこと。それにライバル店の調査をするのも彼女の仕事だ。
そして彼女は司よりも年下だが立場は店長の司よりも上だ。
そんな彼女のルックスで司が一番好きなのは大きな黒い瞳。
話すとき、彼女はいつも真っ黒なその瞳で司を真正面から見つめるが、その瞳は美しい。
そして司はビジネススーツ姿の彼女しか見たことがないから、その下に隠された身体については、ひたすら妄想するしかないが、『しぼりたて生しょうゆ』の容器を見るたび、裸の彼女が縄で縛られた姿が脳内に浮かんでいた。

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Comment:2
コメント
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ふ**ん様
お返事が遅くなりました(^^;)
最近色々と忙しくて、ゆっくりパソコンを開いている時間がありませんでした(>_<)
え?ツッコミ所が多過ぎる?(笑)
変態街道まっしぐら?
戻ってきたエロ曹司?
確かに「しぼりたて生しょうゆ」が「しばりたて生しょうゆ」に見えたら危ないですよね(笑)
司が店長のスーパー。高くても買う!(≧▽≦)
同じくです(笑)
そして大変お待たせしました。続き。書きましたのでご査収下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
お返事が遅くなりました(^^;)
最近色々と忙しくて、ゆっくりパソコンを開いている時間がありませんでした(>_<)
え?ツッコミ所が多過ぎる?(笑)
変態街道まっしぐら?
戻ってきたエロ曹司?
確かに「しぼりたて生しょうゆ」が「しばりたて生しょうゆ」に見えたら危ないですよね(笑)
司が店長のスーパー。高くても買う!(≧▽≦)
同じくです(笑)
そして大変お待たせしました。続き。書きましたのでご査収下さいませm(__)m
コメント有難うございました^^
アカシア
2022.02.27 21:21 | 編集
