人の幸福は惚れた相手と一緒になること。
だから司は本来なら20年前に彼女に告げるはずだった言葉を言った。
そしてそれは思いの全てを込めた言葉。
だが彼女は黙って首を横に振った。
「アンタとは結婚できない」
司は彼女の言葉にハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
それは二人の息子である駿は椿から司が彼女のことを忘れても、彼女は司のことがずっと好きだったと訊いていたから。だから司もその言葉を信じていただけに、彼女に受け入れられないことがショックだった。
それに彼女は息子に父親が誰であるか告げることはなかったが、それでも小学生の我が子に笑いながら父親は宇宙人だと話した件は司を悪いように言っていないと思えた。
だがそれは司の思い違いであって本当は違うのか。
それに本人の言葉として司のことを怒ってもいなければ、怨んでもないという言葉があったが、その時の態度も司を否定していないように思えた。だがそれは司の勘違いなのか。
だが思い違いだろうが、勘違いだろうが、そんなことは関係なかった。
司は牧野つくしと結婚したい。
だから何故自分と結婚できないのか。その理由を訊いた。
「何故だ?」
「何故?」
「そうだ。何故俺と結婚できない?お前は俺のことを怒ってもいなければ怨んでもいないと言った。つまりそれは俺のことが嫌いじゃないということだ。だから俺と結婚できない理由を教えてくれ」
司のその言葉に彼女は、あの頃と変わらない大きな黒い瞳で見つめながら言った。
「理由?」
「ああ。理由だ。俺と結婚できない理由だ」
司はオウム返しする彼女に思った。
結婚できない理由は昔母親が言ったように家柄が違うといったところだろう。
だが、司にしてみれば、そういったことは取るに足らないこと。
それに婚外子がいても保身を図るつもりはない。
本当なら結婚していたはずの男女が、離れ離れになったのには理由があるのだから。
だから、たとえ銃口を突き付けられても彼女を諦めるつもりはない。
しかし次に彼女の口から出たのは予想とは全く違う言葉であり、ハンマーで頭を殴られた以上の衝撃を受け目の前が暗くなるのを感じた。
「理由は好きな人がいるからよ」
「……….好きな…….?」
「そうよ。好きな人がいるの」
司はこれまで自分を拒否する人間に会ったことがなかった。
だから高校生の頃、交際を申し込んだ彼女に拒否されたのが初めて。
そしてたった今、彼女の口から出た言葉は人生で二度目の拒否。
それも司よりも好きな人がいるから結婚できないというが、まさか相手は_____類。
もしかして類が彼女の孤独を癒していたのか。
「違うわ。類じゃない」
彼女は司の言わんとするその先を正確に予測した。
そして「それに類とは、もう何年も会ったことがないもの」と言って首を振った。
「それなら_」
「ねえ。あたしが誰を好きでもアンタには関係ないでしょ」
司の言葉を遮った彼女はきっぱりと言った。
だが司は即座に彼女の言葉を否定した。
「いや。関係ある。それも大いに関係がある。お前はその男のことが好きだとう言うが、その男はお前のことを愛しているのか?経済力はあるのか?年はいくつだ?駿はその男のことを知っているのか?」
司は知りたいことを選りすぐって訊くことは出来なかった。
だから頭に浮かんだ事をそのまま口にしていたが、言いながら胸は潰れてしまうほど痛かった。そして彼女が言う好きな男に対し嫉妬の気持がこみ上げた。
だが彼女はそんな気持を抱えた司を見てクスッと笑った。
「嘘よ。好きな人なんていないわ」
「嘘?」
「ええ。嘘よ」
それなら何故、彼女は好きな人がいるなどと言ったのか。
だがそれが自分を忘れてしまった男に精神的な苦しみを与えるためだとすれば、それは見事なまでのダメージ。じわじわと効くボディーブローではなく、即効性のあるパンチだ。
だがそれはさておき、好きな男はいないと言うなら司には彼女と結婚できる望みがある。
だから、どんなに断られても引き下がるつもりはない。
「それなら俺と結婚してくれ。俺をお前の夫にしてくれ」
司は再び言った。
すると彼女は瞼を閉じた。
そして考えるふうをしているが、被った瞼の内側にあるのは、かつての司の姿か。それとも今の姿か。やがて閉じられていた瞼が開かれると、かしこまっている司に言った。
「いいわ。結婚するわ。アンタをあたしの夫にしてあげる」

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だから司は本来なら20年前に彼女に告げるはずだった言葉を言った。
そしてそれは思いの全てを込めた言葉。
だが彼女は黙って首を横に振った。
「アンタとは結婚できない」
司は彼女の言葉にハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
それは二人の息子である駿は椿から司が彼女のことを忘れても、彼女は司のことがずっと好きだったと訊いていたから。だから司もその言葉を信じていただけに、彼女に受け入れられないことがショックだった。
それに彼女は息子に父親が誰であるか告げることはなかったが、それでも小学生の我が子に笑いながら父親は宇宙人だと話した件は司を悪いように言っていないと思えた。
だがそれは司の思い違いであって本当は違うのか。
それに本人の言葉として司のことを怒ってもいなければ、怨んでもないという言葉があったが、その時の態度も司を否定していないように思えた。だがそれは司の勘違いなのか。
だが思い違いだろうが、勘違いだろうが、そんなことは関係なかった。
司は牧野つくしと結婚したい。
だから何故自分と結婚できないのか。その理由を訊いた。
「何故だ?」
「何故?」
「そうだ。何故俺と結婚できない?お前は俺のことを怒ってもいなければ怨んでもいないと言った。つまりそれは俺のことが嫌いじゃないということだ。だから俺と結婚できない理由を教えてくれ」
司のその言葉に彼女は、あの頃と変わらない大きな黒い瞳で見つめながら言った。
「理由?」
「ああ。理由だ。俺と結婚できない理由だ」
司はオウム返しする彼女に思った。
結婚できない理由は昔母親が言ったように家柄が違うといったところだろう。
だが、司にしてみれば、そういったことは取るに足らないこと。
それに婚外子がいても保身を図るつもりはない。
本当なら結婚していたはずの男女が、離れ離れになったのには理由があるのだから。
だから、たとえ銃口を突き付けられても彼女を諦めるつもりはない。
しかし次に彼女の口から出たのは予想とは全く違う言葉であり、ハンマーで頭を殴られた以上の衝撃を受け目の前が暗くなるのを感じた。
「理由は好きな人がいるからよ」
「……….好きな…….?」
「そうよ。好きな人がいるの」
司はこれまで自分を拒否する人間に会ったことがなかった。
だから高校生の頃、交際を申し込んだ彼女に拒否されたのが初めて。
そしてたった今、彼女の口から出た言葉は人生で二度目の拒否。
それも司よりも好きな人がいるから結婚できないというが、まさか相手は_____類。
もしかして類が彼女の孤独を癒していたのか。
「違うわ。類じゃない」
彼女は司の言わんとするその先を正確に予測した。
そして「それに類とは、もう何年も会ったことがないもの」と言って首を振った。
「それなら_」
「ねえ。あたしが誰を好きでもアンタには関係ないでしょ」
司の言葉を遮った彼女はきっぱりと言った。
だが司は即座に彼女の言葉を否定した。
「いや。関係ある。それも大いに関係がある。お前はその男のことが好きだとう言うが、その男はお前のことを愛しているのか?経済力はあるのか?年はいくつだ?駿はその男のことを知っているのか?」
司は知りたいことを選りすぐって訊くことは出来なかった。
だから頭に浮かんだ事をそのまま口にしていたが、言いながら胸は潰れてしまうほど痛かった。そして彼女が言う好きな男に対し嫉妬の気持がこみ上げた。
だが彼女はそんな気持を抱えた司を見てクスッと笑った。
「嘘よ。好きな人なんていないわ」
「嘘?」
「ええ。嘘よ」
それなら何故、彼女は好きな人がいるなどと言ったのか。
だがそれが自分を忘れてしまった男に精神的な苦しみを与えるためだとすれば、それは見事なまでのダメージ。じわじわと効くボディーブローではなく、即効性のあるパンチだ。
だがそれはさておき、好きな男はいないと言うなら司には彼女と結婚できる望みがある。
だから、どんなに断られても引き下がるつもりはない。
「それなら俺と結婚してくれ。俺をお前の夫にしてくれ」
司は再び言った。
すると彼女は瞼を閉じた。
そして考えるふうをしているが、被った瞼の内側にあるのは、かつての司の姿か。それとも今の姿か。やがて閉じられていた瞼が開かれると、かしこまっている司に言った。
「いいわ。結婚するわ。アンタをあたしの夫にしてあげる」

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ま**ん様
好きな人って誰よ!←確かに。
そして司はなんとか旦那さんにしてもらそうです。
そしてお待たせしました(^^;)
次回が最終話となります。
コメント有難うございました^^
好きな人って誰よ!←確かに。
そして司はなんとか旦那さんにしてもらそうです。
そしてお待たせしました(^^;)
次回が最終話となります。
コメント有難うございました^^
アカシア
2022.02.13 21:35 | 編集

ふ**ん様
司にダメージを与えることができる人間は、世界広しと言えども、ひとりだけ。
それは牧野つくしという女。
そして司は彼女に何度フラレても諦めません。
次回が最終話となります。短いお話ですがお待たせしてしまいました(^^;)
コメント有難うございました^^
司にダメージを与えることができる人間は、世界広しと言えども、ひとりだけ。
それは牧野つくしという女。
そして司は彼女に何度フラレても諦めません。
次回が最終話となります。短いお話ですがお待たせしてしまいました(^^;)
コメント有難うございました^^
アカシア
2022.02.13 21:46 | 編集
