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2021
12.30

花束に添えて 4

司は病院の中にある喫茶室にいた。

「はじめまして。牧野駿です。あなたが僕の父親なんですね。よかった。宇宙人じゃなくて」

牧野駿は自然な表情でそう言ったが、司が答えないでいると再び口を開いた。

「道明寺さん?あなたが僕の父親なんですよね?」

司は彼女の面影を宿す息子を見つめていた。
だから駿の言葉にハッとして「あ、ああ。私が君の父親だ」と答えた。

タバコが吸える年まで成長した息子。
眉や目は司に似ているが、鼻から顎にかけての線は司が知る彼女の面影と重なる。
そうだ。写真で見るより今こうして本人を前にすれば、息子の中に彼女の存在を強く感じることができる。それは息子の成長過程を知らなくても、そのたたずまいから彼女が育てた子供は母親の性格を受け継ぎ真面目だということ。
だがそう思う司は、これまで血や家族という言葉から遠く離れた場所にいた。
だから、自分の血を分けた息子を前に言葉を探していたが、我が子は司の視線を真正面から受け止めていた。それは司が愛した人と同じ強い眼差し。
その眼差しが小さく頷くと言った。

「僕は自分の父親が誰であっても受け入れるつもりでいました。
それは、たとえその人が、ろくでもない人間だとしても、僕の中には紛れもなくその人の血が流れているからです。どんな人でも僕の父親であることは変えられない事実なのですから」

司は駿が口にした、ろくでもない人間という言葉が胸に刺さった。
それは息子が高校生の頃の司の行いを知っているのではないかという思い。
学園の支配者と呼ばれイジメを繰り返していた男は駿の母親に出会うまで、正にろくでもない人間だった。

「僕は小学生の頃、母に父親のことを訊きました。すると母は父親は宇宙人だと言いました。
その時は僕が子供だからふざけていると思いました。でも母にとって僕の父親のことは避けたい話だったことは間違いありません。それは今のあなたの立場を考えれば分かるからです」

司の今の立場。それは9万人の社員を抱える道明寺ホールディングスの社長。
生まれた時から全てを手にしていた男は何不自由ない生活を送っていた。
敷かれたレールの上を走ることを拒んだこともあったが、ビジネスの世界に足を踏み入れれば血がそうさせるのか。勝利と成功を勝ち取る面白さを知った。
そして前社長の母親以上に道明寺に成長と発展をもたらした。

「思い返せば僕が母に父親のことを訊いた当時、あなたは道明寺財閥の後継者として前途洋々な立場にいた。それにあなたは母の記憶がなかったんですよね?つまり僕という存在がいることを知らなかった。だから母は小学生とはいえ僕が自分の父親はあなただと誰かに話してしまうことで、あなたの将来に傷が付くことを心配した。そして、やがて思春期を迎えた僕は母が僕の父親のことを言いたがらないのは、父親に妻子がいるからだと考えました。それに望まない妊娠をしたからではないかとも考えました。だから僕はもう母に父親のことを訊くことはしませんでした」

司は目頭が熱くなるのを感じた。
それは、記憶を失っていたとはいえ、深い感動の中で命を授けたはずの我が子に、そんなことを考えさせてしまったことが悔やまれてならなかったから。
そして息子が味わった日々に、本来なら共に過ごせた時間を過ごせなかったことに、後ろめたさと罪悪感を抱いた。

「でも暫く経って望まない妊娠だったのなら、母は僕の父親のことは忌まわしいものであり消し去りたい過去であることから死んでいると言ったはずだと思うようになりました。だけどそうではなかった。母は僕を愛情を持って育ててくれた。だからやっぱり僕の父親だという人は他の女性と結婚して、どこかで生きていると考えるようになりました。結ばれることが許されない相手だったのだと思うようになりました。そして父親の方から会いたいと言わない限り、僕は父親に会えないのだと思いました。
だから秘書の西田さんと椿伯母さんが現れて僕の父親が道明寺ホールディングスの社長の道明寺司…..あなただと訊いた時は正直驚きました」

司は我が子の口から語られる言葉に流れた年月の長さを感じた。
だが、こうして息子がいることを知り、その息子が伝えられた出生の秘密を受け入れていることを知ったが、二十歳を迎える我が子は母親の手を離れ、ひとりの人間として自立しているのを感じた。
そして司は、息子をそんな人間に育ててくれた彼女に感謝の気持ちしかなかった。

「駿……..駿と呼んでもいいか?」

司は躊躇いながら訊いた。

「……いいよ………父さん」

一瞬の間の後に返されたのは砕けた口調のいいよ。
そして父さんという言葉。
長い間我が子の存在を知らなかった司は、掛けられたその言葉に胸が震えた。

「ありがとう。駿」

そして彼女のことを思い出した今、彼女に伝えたい思いがある。
それはどんなに時が流れても変わらない思い。

「それから頼みがある。私はお母さんに会いたいんだが、会ってくれるだろうか」




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コメント
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dot 2021.12.30 14:27 | 編集
s**P様
明けましておめでとうございます^^
お待たせ致しました。こちらのお話、年またぎとなりましたが再開いたします!



アカシアdot 2022.01.03 22:04 | 編集
ふ**ん様
駿。いい子ですよねえ。
つくしの育て方が良かったのでしょうねえ。
それにしてもまもなく二十歳を迎える駿ですが、すでに母親の手を離れひとりの人間として自立している。
つまり大人ということですが、駿は母親のためにも早く大人になったのでしょうね。
そして続き。年またぎとなりましたが再開しまーす(^^)
アカシアdot 2022.01.03 22:14 | 編集
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