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2016
01.08

恋の予感は突然に 18

二人が車を降りたところにはひとりの女性が待っていた。

その酷い顔をなんとかしろと言われ余計なお世話ですと言いきったが、その女性を見たときつくしの顔は緊張に包まれた。


余計なことを言うな。
俺とおまえとの出会いなんて俺がテキトーに言っとくから間違っても本当のことなんて言うんじゃないと念を押された。
そして本当のことを言ったら酷い目にあうぞと脅された。
酷い目ってなによ!


「姉ちゃん・・」
お、お姉さん? この男のお姉さんなの?
髪はクルクルしてなかった。
弟とは異なり真っ直ぐな黒髪で身体つきはほっそりとして、凛とした美しさがあった。
姉も弟もモデルばりの容姿で不公平だとつくしは思った。
そしてその目の輝きから聡明で魅力的な女性に思えた。


「司っ!あたしは嬉しいわ。やっとその気になったのね!」
と言うと両腕で弟を抱きしめていた。
「あんたは一生結婚なんてしないかと思っていたから本当に嬉しいわ」
姉ちゃんと呼ばれた女性は司の背後に視線をやると、弟を突き放しつくしの両手を握りしめてきた。

司はつくしに視線を定めると、咳払いをした。
「姉ちゃん、こいつが牧野つくしだ」
司の声は姉を呼んだ時とは違い冷たかった。
「つくしちゃんいらっしゃい。待ってたわ。司の姉の椿です」
「はじめまして。牧野つくしです」
「やだ、つくしちゃん。もう牧野じゃないんでしょ?」
司はじろりとつくしを睨んだ。

「つくしちゃんは司とはひとつしか年が違わないって聞いてるわ」
「は、はい・・」
に、睨まないでよ変態!余計なことなんて言わないわよ!

「良かったわ。司ったらどういう訳か自分の年齢に近い女性とは付き合おうとはしなかったのよ・・。あたしのせいかもしれないけど・・若い子ばっかりだったのよ。
それもちょっとおバカな子ばかりで・・」

「人生の伴侶に選ぶようなタイプの女の子じゃなかったしね・・正直心配したの」
「つくしちゃんのお仕事は・・免疫の研究とか?」
「は、はい・・」
ど、どうしよう、何か言うべきよね?

「そう・・司とはどうやって知り合ったの?弟に特別な・・交際相手がいるなんて知らなかったんだけど?」

「姉ちゃん、大の大人がいちいちそんなこと言うわけねぇだろ?」
司はイライラとしているかのように言った。

「あの、えっと・・」
つくしは何と答えればよいのか、聞かれた時の答えを用意していなかった。
いくらこの男が適当に言うと言っても、意にそぐわないような作り話をされたくはなかった。

「この女、いやつくしの研究所にうちの財団から助成金を出したいと思ってたまたま行ったんだ。で、そこで出会った」と棒読みで言った。

「そうなの?でも急な結婚でしょ?」
「まさかとは思うけど・・つくしちゃん・・・?」
男の姉は優しい眼差しでつくしを見た。

深く探りを入れられたくは無かった。
「ああ。姉ちゃんの考えているとおりだ」
と司は意外にあっさりと落ち着いた様子で答えた。


椿は口をあんぐりと開けたまま司を睨みつけてきた。
「あ、あんたまさか無理矢理つくしちゃんを・・」

「姉ちゃん、待て!違う・・」
男はたじろいだ。
つくしは男に視線を投げかけた。
こ、この男まさかあたしに襲われたとか、本当のことをお姉さんに話すつもりじゃないでしょうね?

「お、お姉さん。違います!」
説明するのは非常に難しいんだけど、違いますから・・
つくしは顔から首まで真っ赤になっていた。
だって子供が欲しかったのはあたしであって、今となってはこの男は副産物だ。
ち、父親認知訴訟だって普通女性が訴えるものだろうけど、あなたの弟さんは自分が父親だって認めろっていう訴えを起こそうとしました!


「そ、そう・・でもあたしは嬉しいわ。まさか弟に子供が出来るなんて夢みたいだわ」
椿は大きく息を吐くと言葉を継いだ。
「あたしにとっては甥でも姪でも・・とにかく司、あんたつくしちゃんを大事にしなさいよ!」


「姉ちゃん心配するなよ。俺が今まで結婚なんて面倒なことをしなかったのはつくしみたいな女を待ってたからなんだ」
司はつくしを横目で見ながら意味深に言った。
「だってよ、姉ちゃん!このつくしはすげえんだぜ?計画性に優れてるわ、行動力は抜群でよ、真っ正直で嘘が大嫌いな女で他人を騙すなんてことは考えもしない女なんだぜ」
つくしはそんな嫌味ったらしい言い方をされてあやふやな笑みを浮かべた。

「そう・・そんな素敵な女性なら司にぴったりね」
「つくしちゃん・・司はね、この子の立場からすれば女性に狙われることが多いのよ。昔からそうなんだけど女性が放っておいてくれないのよ。まさかこの子が騙されるとかそんなことにはなるはずだけは無いと思うから心配はしてなかったけど。
なかなか信じられる女性に出会うことがなくてここまで来たの。だからちょっと歪んだ物の考え方もするけど・・チャラチャラして見えるところもあるかもしれないけど、本当は頭の固い子なのよ?」

お姉さん、あたしはそのチャラいとこだけが際立って見えたんです!

「つくしちゃん、司はきっといい父親になるわ」
「司が自分の子供を見捨てるようなろくでなしの男じゃないことだけは確かだわ」
つくしは赤面したままの顔で頷くしかなかった。


何も事情を知らないひとりと、複雑な表情を浮かべる男と後ろめたさを抱えた女は
革張りのソファに座り互いに愛想のいい態度を崩さずに談笑をしていた。
「司、あんたつくしちゃんの身体のこと考えてあげなさいよ?わかってるわよね?」
「ああ、わかってるよ姉ちゃん」
「あんたには幸せになって欲しいわ・・」
と言った椿のその声にさっきまでの明るさは感じられなかった。






司は冷静な目でつくしを見た。
この結婚を正当化するために自分の倫理観にしがみついている俺もどうかしているな。
家族に紹介しないわけにはいかなかった。
特に姉の椿には・・この女と結婚する理由を姉に説明するためにあれこれと考えてはみた。
生まれてこのかた、女のことでこんなに頭を悩ませたことなんて無かった。
そして、自分は間違った選択をしていないと思うことで突然の結婚を正当化した。


だいたいヴァージンの学者センセーと企業経営者である俺との類まれな組み合わせなんてどう考えたらおこりうるんだ?

だから、これから俺たちに必要なのは時間をかけて俺たちの関係がどうなっていくべきかを考えることだ。
俺たちはこうなった以上、現実を見つめていかなければならない・・。
互いに幻想を抱くことなく、現実を見つめることだ!
子供については・・・それはもう少し先で考えてもいいだろう・・・

芝居じみた真似はしたくはないが・・・
「いいか?俺たちは少なくとも姉貴の前では幸せそうな夫婦を演じなくてはいけないんだ」

つくしはお姉さんとの別れ際に抱擁されて「元気な赤ちゃんを産んでね」と言われた。
「ねえ、その理由を聞いてもいい?」

車内に漂う重苦しい雰囲気の中、つくしは聞いた。


司はしばらく考えた。
そして打ち明けるかどうか迷ったが、しずかに言った。
「・・姉ちゃんは・・子供を亡くしたんだ・・」









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コメント
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dot 2016.01.08 10:40 | 編集
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dot 2016.01.08 15:05 | 編集
as***na様
姉思いの弟のようです。
幼い頃に育ててくれた大切なお姉さまですので
今でも頭が上がりません。
こちらはサクサクと進むお話ですので
深刻なことにはなりません(笑)
アップなテンポでお読み下さいませ。
コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2016.01.08 22:41 | 編集
ふき**う様
はじめまして。いつもお読み頂き有難うございます(^^)
ええ。もう興味津々です。目が離せなくなっています。
お互いに理解するようになるまでもう少し時間がかかりそうです。
そしてつくしに巻き込まれ型と言うところが司のセオリーかと(笑)
つくしに振り回される司(´艸`*)
あ、それいいですね! どれもいい感じです!
このつくしちゃん言われそう!で、ムカムカしてる(笑)
こちらのお話はラブコメ風味ですのでこんな感じでドタバタと進んで行きそうです。
こんなお話でもお楽しみ頂けて嬉しいです。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2016.01.08 22:57 | 編集
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