「お前のかーちゃん、出ぇべーそ!」
「うるせぇ!俺の母ちゃんは出べそなんかじゃねぇ!俺の母ちゃんの腹はスベスベしてキレイだ!」
「へえ~そうかよ、でもなんでお前。母ちゃんの腹がスベスベしてるって知ってんだよ?」
「知ってるって……そりゃ風呂に入ってるとき見たんだよ!」
「お前4年生なのにまだ母ちゃんと一緒に風呂入ってんのかよ?乳離れ出来ねえガキだな!」
「うるせぇ!一緒に風呂なんか入ってねえよ!俺が見たのは昔だ。ガキの頃、見たから知ってんだよ!それに出べそは、お前の母ちゃんじゃねえのかよ!いいか。俺の母ちゃんはお前の母ちゃんと違ってヘソなんか出てねえんだよ!」
駿はそう叫ぶと走ってアパートに帰った。
そして階段を駆け上がり廊下の一番奥の部屋の前に立つと、セーターの襟元から内側に下げていた鍵を取り出し部屋の中に入った。
「ただいま!」
だが返事はない。それは部屋の中は誰もいないから。
だから靴を脱いだ駿は部屋に入るとランドセルを床に置いてから洗面所へ向かった。
そして手を洗い、うがいをするとテーブルの上に置かれている紙を見た。
『駿へ 学校どうだった?今日のおやつはドーナツよ。戸棚に入っているから食べてね。
それから今日は少し遅くなるかもしれないけど、晩御飯までには帰れると思うから』
駿の母親は近所のスーパーの総菜売り場で働いている。
だから駿が学校から帰っても家にはいない。
その代わり、いつもこうして、手紙とおやつを置いて仕事に行く。
そしてクリスマスのシーズンになると忙しい。
それはクリスマスを祝う人たちがスーパーでクリスマス用に調理された料理を買うから。
だからこの季節はいつもより早く家を出て、帰りもいつもよりも遅い。だが駿は家に母親がいないことを寂しとは思わなかった。何故なら駿は母親が帰ってくるまでにすることがあるから。それは宿題を終えること。それに洗濯物を畳むこと。そして窓辺に飾ってあるポインセチアに水をやるという役目があった。
今年、母親は真っ赤な植物の鉢植えを買ってきた。
駿はその植物の世話を任されたが、メキシコが原産のポインセチアは乾燥ぎみに育てる植物。だが駿は葉がしおれているからと、水をやり過ぎて枯らせてしまった。すると母親は二つ目を買ってきた。だから今度は水をやり過ぎないようにした。それに、ポインセチアは暖かさが必要であることから、しっかりと日に当てることにも気を配り、今では葉っぱはスクスクと成長していた。
そしてポインセチアの隣には母親が飾った小さなクリスマスツリーがある。
そのツリーは駿が物心ついた頃から家にあるツリー。
飾りはキラキラしたボール。どこかで貰ってきた布で出来た小さなサンタクロースとトナカイ。そして、てんぺんには銀色の星が瞬いていた。
駿は小学4年生だ。だからサンタクロースを信じてはいない。それでも去年まで朝起きると枕元に箱が置いてあった。そしてその中には欲しいと思っていたラジコンが入っていた。
だからその時は喜んだ。嬉しかった。
だが4年生の今は、母親が無理をして高価なおもちゃを買ってくれたことを知っている。
だから欲しいものを聞かれたとき、特にないと答えた。いや。そう答えれば母親は駿が子供なりに遠慮してそう言っているのだと思う。本当は欲しい物があるのに健気な強がりで我慢していると思うだろう。だから今年のクリスマスにはドライバーセット、プラスやマイナスのドライバーがセットになったものが欲しいと言ったが、それはネジを緩めたり締めたりするための道具。
母親は、「なにそれ?本当にそんなものが欲しいの?」と訊いたが、駿は本当にそれが欲しかった。だが何故駿はそんなものが欲しいのか。
それは組み立て式の家具を母親の代わりに組み立てるために必要だからだ。
他の家ではそういった作業は父親の仕事と言われている。
だが駿には父親がいない。
それは母親が未婚で彼を産んだから。
そしてこれまで父親という人物に会ったことがない。
だが訊いたことがある。
それはちょうど朝食を食べ終えた母親が駿より先に仕事に出掛ける前だった。
「母ちゃん。俺の父ちゃんって誰?」
すると母親は一瞬の間を置き答えた。
「あのね。駿のお父さんは宇宙から来た人でね。お母さんとお父さんは恋におちたんだけど、ある日、出身地の星に戻らなきゃならなくなって帰っちゃったの。お母さんはその時お腹に駿がいることが分からなくてね。お父さんが星に戻ってから知ったの。だからお父さんに駿が生まれたことを伝えられずにいるの」
「母ちゃん。言っとくが俺はその辺のバカな子供じゃない。だから俺の父ちゃんが宇宙人だなんて、そんな子供騙しは言わないでくれ!」
「あはは!バレちゃった!やっぱり駿は賢いから騙されないわねえ」
その日の前の夜。テレビでは宇宙人と人間が恋におちる映画を放送していた。
だから母親はその映画の話を駿にしたのだ。
それが10年近く昔に母親と交わされた会話。
母親はそれ以上、駿の父親について何も言わなかった。
だが思春期を迎えた駿は考えた。自分に父親がいないのは、写真一枚すらないのは、母親が相手のことを話さないのは、相手が妻子ある男性だから。
だから父親を探し出して会いたいと望んでも、父親に妻子がいれば駿の存在は迷惑であり、会うことを拒否されるだろう。
それに母親は父親と恋におちたと言ったが、もしかすると望まない妊娠で駿を出産することになったのかもしれない。だから駿は父親を探さなかった。
ところがつい一週間前。
ひとりの男性が駿の前に現れた。
「牧野駿さんですね。わたくし、こう言う者です」
と言って差し出された名刺に書かれた名前は西田紘一。
「わたくしは道明寺ホールディングス社長、道明寺司の秘書をしております」
こちらのお話は短編です。

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「うるせぇ!俺の母ちゃんは出べそなんかじゃねぇ!俺の母ちゃんの腹はスベスベしてキレイだ!」
「へえ~そうかよ、でもなんでお前。母ちゃんの腹がスベスベしてるって知ってんだよ?」
「知ってるって……そりゃ風呂に入ってるとき見たんだよ!」
「お前4年生なのにまだ母ちゃんと一緒に風呂入ってんのかよ?乳離れ出来ねえガキだな!」
「うるせぇ!一緒に風呂なんか入ってねえよ!俺が見たのは昔だ。ガキの頃、見たから知ってんだよ!それに出べそは、お前の母ちゃんじゃねえのかよ!いいか。俺の母ちゃんはお前の母ちゃんと違ってヘソなんか出てねえんだよ!」
駿はそう叫ぶと走ってアパートに帰った。
そして階段を駆け上がり廊下の一番奥の部屋の前に立つと、セーターの襟元から内側に下げていた鍵を取り出し部屋の中に入った。
「ただいま!」
だが返事はない。それは部屋の中は誰もいないから。
だから靴を脱いだ駿は部屋に入るとランドセルを床に置いてから洗面所へ向かった。
そして手を洗い、うがいをするとテーブルの上に置かれている紙を見た。
『駿へ 学校どうだった?今日のおやつはドーナツよ。戸棚に入っているから食べてね。
それから今日は少し遅くなるかもしれないけど、晩御飯までには帰れると思うから』
駿の母親は近所のスーパーの総菜売り場で働いている。
だから駿が学校から帰っても家にはいない。
その代わり、いつもこうして、手紙とおやつを置いて仕事に行く。
そしてクリスマスのシーズンになると忙しい。
それはクリスマスを祝う人たちがスーパーでクリスマス用に調理された料理を買うから。
だからこの季節はいつもより早く家を出て、帰りもいつもよりも遅い。だが駿は家に母親がいないことを寂しとは思わなかった。何故なら駿は母親が帰ってくるまでにすることがあるから。それは宿題を終えること。それに洗濯物を畳むこと。そして窓辺に飾ってあるポインセチアに水をやるという役目があった。
今年、母親は真っ赤な植物の鉢植えを買ってきた。
駿はその植物の世話を任されたが、メキシコが原産のポインセチアは乾燥ぎみに育てる植物。だが駿は葉がしおれているからと、水をやり過ぎて枯らせてしまった。すると母親は二つ目を買ってきた。だから今度は水をやり過ぎないようにした。それに、ポインセチアは暖かさが必要であることから、しっかりと日に当てることにも気を配り、今では葉っぱはスクスクと成長していた。
そしてポインセチアの隣には母親が飾った小さなクリスマスツリーがある。
そのツリーは駿が物心ついた頃から家にあるツリー。
飾りはキラキラしたボール。どこかで貰ってきた布で出来た小さなサンタクロースとトナカイ。そして、てんぺんには銀色の星が瞬いていた。
駿は小学4年生だ。だからサンタクロースを信じてはいない。それでも去年まで朝起きると枕元に箱が置いてあった。そしてその中には欲しいと思っていたラジコンが入っていた。
だからその時は喜んだ。嬉しかった。
だが4年生の今は、母親が無理をして高価なおもちゃを買ってくれたことを知っている。
だから欲しいものを聞かれたとき、特にないと答えた。いや。そう答えれば母親は駿が子供なりに遠慮してそう言っているのだと思う。本当は欲しい物があるのに健気な強がりで我慢していると思うだろう。だから今年のクリスマスにはドライバーセット、プラスやマイナスのドライバーがセットになったものが欲しいと言ったが、それはネジを緩めたり締めたりするための道具。
母親は、「なにそれ?本当にそんなものが欲しいの?」と訊いたが、駿は本当にそれが欲しかった。だが何故駿はそんなものが欲しいのか。
それは組み立て式の家具を母親の代わりに組み立てるために必要だからだ。
他の家ではそういった作業は父親の仕事と言われている。
だが駿には父親がいない。
それは母親が未婚で彼を産んだから。
そしてこれまで父親という人物に会ったことがない。
だが訊いたことがある。
それはちょうど朝食を食べ終えた母親が駿より先に仕事に出掛ける前だった。
「母ちゃん。俺の父ちゃんって誰?」
すると母親は一瞬の間を置き答えた。
「あのね。駿のお父さんは宇宙から来た人でね。お母さんとお父さんは恋におちたんだけど、ある日、出身地の星に戻らなきゃならなくなって帰っちゃったの。お母さんはその時お腹に駿がいることが分からなくてね。お父さんが星に戻ってから知ったの。だからお父さんに駿が生まれたことを伝えられずにいるの」
「母ちゃん。言っとくが俺はその辺のバカな子供じゃない。だから俺の父ちゃんが宇宙人だなんて、そんな子供騙しは言わないでくれ!」
「あはは!バレちゃった!やっぱり駿は賢いから騙されないわねえ」
その日の前の夜。テレビでは宇宙人と人間が恋におちる映画を放送していた。
だから母親はその映画の話を駿にしたのだ。
それが10年近く昔に母親と交わされた会話。
母親はそれ以上、駿の父親について何も言わなかった。
だが思春期を迎えた駿は考えた。自分に父親がいないのは、写真一枚すらないのは、母親が相手のことを話さないのは、相手が妻子ある男性だから。
だから父親を探し出して会いたいと望んでも、父親に妻子がいれば駿の存在は迷惑であり、会うことを拒否されるだろう。
それに母親は父親と恋におちたと言ったが、もしかすると望まない妊娠で駿を出産することになったのかもしれない。だから駿は父親を探さなかった。
ところがつい一週間前。
ひとりの男性が駿の前に現れた。
「牧野駿さんですね。わたくし、こう言う者です」
と言って差し出された名刺に書かれた名前は西田紘一。
「わたくしは道明寺ホールディングス社長、道明寺司の秘書をしております」
こちらのお話は短編です。

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Comment:2
コメント
m様
大人になったふたりのお話ですので、それなりにと思っています。
拍手コメント有難うございました^^
大人になったふたりのお話ですので、それなりにと思っています。
拍手コメント有難うございました^^
アカシア
2021.12.29 21:57 | 編集

s**p様
クリスマス!終わってしまいました!(;^ω^)
アカシアサンタのプレゼント、配達遅れてスミマセン(>_<)
クリスマス!終わってしまいました!(;^ω^)
アカシアサンタのプレゼント、配達遅れてスミマセン(>_<)
アカシア
2021.12.29 21:59 | 編集
