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2021
12.04

記念日 7

Category: 記念日(完)
楓は長い廊下を歩く男の後ろ姿を見ていた。
男は結婚するなら好きな人と、と言ったがそういった女性がいるのだろうか。
楓は恋をしたことがない。
それに好きな人もいない。
だから人を好きになる気持が分からなかった。
だが今、奇妙なことに目の前を歩く男に興味を持った。
楓の周りにはいないタイプの男に未知の世界を感じた。
胸の奥が熱くなるのを感じた。
そして短い笑いだったが、男の笑顔に引き込まれた。

「あの!」

「何?」

男は立ち止まって振り向いた。

「あなたは結婚するなら好きな人と言いましたよね?」

楓が挑戦的な目をしながら訊くと、男は「そうだが?」と言って片方の眉を上げた。
楓には、その態度が訊きたいことがあるなら訊けと言っているように思えた。
だから、「それならあなたは好きな人がいるんですか?」と訊いた。
すると男は、「君にはどう見える?私に好きな女性がいるように見えるか?」と言った。
だから楓は「分かりません。だから訊いているんです」と答えたが、男は楓の言葉に面白そうにクスクス笑って答えた。

「いや。いない。今のところはね。だが私は政略結婚をするつもりはない。人生は一度だけだ。だからこそ心から好きな人と一緒に生きたいと思っている」

男はそう言うと「他に何か訊きたいことは?」と言った。だから楓は「いいえ。ありません」と言ってから、ひと呼吸置いた。そして「好きな女性がいないなら私を好きになって下さい」と言った。

男は楓の言葉にまた笑った。

「どうやら君は燃え盛る情熱を胸の内に秘めるタイプらしい。君は自分の気持を伝えることなく相手の気持を自分に向けさせようとしているが、私を好きになってというなら私は君の気持が訊きたい。だから聴かせてくれ。君の気持を」

そう言われた楓は背の高い男と目を合わせると言った。

「私はたった今、あなたに恋をしました。あなたのことがもっと知りたいと思うようになりました」

すると男の顏に優しい笑みが広がった。
そして楓を見つめながら低い声で、「そうか。分かった。では言っておこう。私のことを素性の知れた安全な男だと思っているなら、それは大間違いだ。私は道明寺の跡取りだ。つまり平凡で退屈な人生は送れない。それでもいいのかな?」と言った。
だから楓は「ええ。構いません」と、はっきりとした声で答えた。

男はそんな楓を真剣な表情を浮かべて見た。

「覚悟は出来ていると?」

「はい」

「長く続く人生の時間を私と共に過ごすことになるが、いいんだね?」

「はい」

「では今から始めようか」

男はそう言うと楓を引き寄せた。



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