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2021
12.02

記念日 6

Category: 記念日(完)
「久我楓です」と名乗った楓は礼をした。

「道明寺慶です」

男は頭を下げなかった。そして発せられたのは力のある声。
道明寺亘の孫は非の打ちどころがないほど整った顏に猛禽類の目で楓をじっと見ていた。
やがて視線は頭のてっぺんから足先へと降ろされたが、品定めでもしているのか。その態度は不躾だ。
それに男は見るからに前へ前へと行くタイプの人間。だから楓の視界の中で遠くにいたと思われた男が、すぐ近くまで来たとき思わず一歩後ろに退いたが、それ以上後ろに下がるつもりはない。

「君が祖父の友人のお孫さんか」

「ええ。そうですがそれが何か?」

「それが何か…..か」と男は言ったが、その表情から感情は読み取れなかった。
そして男は少し間を置いて、「どうやらあなたは気の強いお嬢さんのようだ」と言った。
楓はたった7歳年上の男から子ども扱いされムッとした。
それに男に言われなくても自分の性格は分っているつもりだ。

楓は思ったことは全部はっきりと口や行動に出す。だがそんな楓に対し周りの人間は気が強いではなく、芯がしっかりしているという言葉を使う。だから初めて会った男に話を始めるや否や気が強いと言われ気分を害した。
それに祖父に箱を元の持ち主に返して欲しいと言われここに来たが、それが見合いをさせるための口実だったことを知り腹が立っていた。
だから、楓は不愉快な気持を表情に表そうとした。
だが何故か上手くできなかった。

「君は学生さん?」

男の声は冷静だ。

「ええ。そうです」

「そうか。年は二十歳くらい?」

いきなり女性に年齢を聞くのも失礼な話だ。
だが男は楓の年齢を知らなかったようだがズバリ言い当てた。

「ええ。そうです」

「専攻は文学?」

「ええ。そうです」

「君は何を聞いても、ええ。そうです、と答えるのか?」

「いいえ。不躾な態度を取る人に対してだけです」

「不躾?」

「ええ。あなたは私のことを気が強いと言いました。でも会ったばかりなのに私のことが分かるとは思えません。それに初対面で相手のことを決めつけるのは失礼です」

楓がそう言うと、「ハハッ!」と男は短く笑った。
「君はおもしろい人だ。それに率直だ。そんな君に言っておく。二十歳なら恋に憧れる年齢だろう。だから私のようなおじさんと見合いをさせられることに反発するのは当然だ。
だが安心していい。私はまだ結婚する気がない。祖父が君のおじいさんとこういったことを仕組んだのは、外国暮らしの孫がこのまま独身を通すことを心配しているからだ。
だが心配しなくてもいずれ結婚する。ただし、その時は好きな人とね」男はそこまで言うと「わざわざ済まなかった」と楓に向かって頭を下げた。そして玄関まで送ろうと言った。



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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2021.12.03 00:07 | 編集
オ**ミ様
こんばんは^^
司もつくしも出てこない話。時々書いてます(*^^)v
楓さんの若い頃。
鉄の女と呼ばれる女にも若かりし頃があったのです。
青春のひとコマとは違いますが、楽しんでいただければ幸いです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.12.03 23:31 | 編集
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