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2021
11.29

記念日 4

Category: 記念日(完)
「楓さん」

「はい」

「あなたは勘違いをされている。私の話を聞いて物事を悪い方へと考えているのでは?」

「え、ええ……」

道明寺亘の言う通りで楓の脳裏に浮かぶのは、祖母が目の前の男性を裏切り楓の祖父に走る姿。だから裏切られた道明寺亘は祖母を恨んでいたのではないかということ。

「楓さん、それは違う。私とあなたのお祖父さんは仲が悪いということはありません。それに私は敦子さんを恨んではいません」

そう言った男性の目元には皺が寄っていた。

「私たちの時代は親が結婚するに相応しい相手を見つけてくる。それは家同士の繋がりを意味する結婚だからです。だから相手が好きか嫌いか分からないまま結婚をする。いや。好きも嫌いもない。決められた相手と結婚して子供を作り育てることが普通だった。
だが私には好きな人がいた。私は敦子さんではなく別の女性と結婚することを望んだ。
それに敦子さんも父親に命じられて私と結婚することを決めたに過ぎない。
それが分かっていたから私は敦子さんをあなたのお祖父さんに紹介した。それはもしかするとお祖父さんが敦子さんを好きになるのではないかと思ったからだ。すると思った通り、お祖父さんは敦子さんに好意を抱いた。それに敦子さんも私と話しをするより、あなたのお祖父さんと話しをする方が楽しそうだった」

遠い昔を思い出しながら話す男性の声は穏やかで言っていることに嘘はないように思えた。

「楓さん。あなたは恋におちたことがありますか?もしそうなら分かるはずです。恋におちるのはあっと言う間です。あなたのお祖父さんは敦子さんと恋におちた。だから敦子さんは私とではなく、あなたのお祖父さんと結婚した。それは私にとって非常に喜ばしいことだった。何故なら二人が結婚したおかげで私は好きな人と結婚出来たのですから」

男性はそう言って、手のひらに乗せていた小さな鳥のブローチを箱に戻した。
だが楓には疑問があった。訊きたいことがあった。だからその思いを口にした。

「それなら何故祖父はこのブローチをあなたに返すのでしょう。あなたと祖父と祖母の関係が良好だったのなら、祖父は祖母の形見となったブローチをあなたに返すようなことはしないと思います」

楓は箱の中に戻された小鳥に視線を落とした後、再び男性を見た。

「その通りだ。それに私はふたりが結婚する時、このブローチは敦子さんに差し上げたもので返す必要はないと言った。それでもお祖父さんがあなたにこのブローチを持たせたのは、お祖父さんにとっての可愛い小鳥、つまりそれはあなたのことですが、お祖父さんはそんなあなたを私に合わせたかったからだと私は思っています」



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