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2021
11.26

記念日 1

Category: 記念日(完)
テーブルの上には手のひらに収まる小さな箱が置かれていた。

「宮本。どうしてわたくしがこの箱を届けなければならないの?」

「楓様。わたくしはおじい様から、楓様にそちらの箱を先方に届けるように伝えろと申し付けられましたので、そのことをお伝えしたまでです」

「おじい様が?」

「はい」

「でも何故わたくしが?」

「わたくしは、ただの執事でございますので理由は存じません。ただ、おじい様はこちらの箱を楓様の手で元の持ち主に返して欲しいとおっしいました」

楓の家は旧華族の家柄であり、都内の一等地に広い邸を構えている。
戦後没落する華族も多いなか、楓の家が今でもこうして広い邸を構えているのは、祖父が商才に長けていたから。先見の明があったからだ。

楓の祖父は、かつての武家屋敷や江戸藩邸があった土地を手に入れると開発を進め不動産業に進出した。そして都内中心部に数多くのビルを所有すると、宅地造成やリゾート開発、マンション分譲といった分野にも手を広げ、ディベロッパーとして地位を確立した。
そんな祖父は一族の中興の祖だと言われていた。
だが今は後継者である楓の父に全てを譲りビジネスの第一線から退いていた。

そして宮本は楓が物心ついた頃からいる家令、執事だ。
その執事は楓の祖父の信頼が厚く、この家で起こること全てを知っている。
それに祖父の言うことは絶対という執事は楓の反論を許さない。だから「お届け先はこちらでございます」とだけ言うと一礼して部屋から出て行った。

楓は箱の横に置かれた紙を手に取った。
届け先だと言ったが書かれているのは住所だけ。
だが楓はその場所を知らない。
けれど知らなくてもいい。
運転手にこの住所を伝えればいいだけの話だ。
だが何故、住所だけで名前が書かれていないのか。
それに相手は祖父とはどういった関係にあるのか。
友人なのか。
それともビジネスの相手なのか。
だが「元の持ち主に返して欲しい」とう言葉から友人のような気がするが、それでも楓は相手が誰で、どんな関係にある人物なのかを知っておきたかった。



こちらのお話は短編です。
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