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2021
11.04

金持ちの御曹司~Make my day~<中編>

そうだ。
失敗しないと言いながら故意に失敗して司を亡き者にしようとしているのではないか。
だがもしそうなら、それほど司に忘れられたことが許せなかったということになるが、「私、失敗しないので」、という腕を持つ医者なら腹から石を取り出す手術を失敗させる方が難しいのではないか。つまり唇の端を上げたように見えたのは、司の見間違いであり笑みではなかったのかもしれない。

だが司は長い間彼女のことを忘れ他の女と結婚していた。
それに男としての生活を存分に楽しんできた。
だから彼女の手で手術され殺されるなら、それは受け入れなければならないことなのかもしれない。

しかし司は彼女に償いをしていない。
もし殺されるとしても、それが心残りだ。
だからこの先彼女が生活に困らないように、いや、医者の彼女が生活に困るかどうか分からないが、それでも老後を不自由なく過ごせるようにしたいと思った。
だから生命保険の受取人を彼女の名前に書き換えた。
それに父親が亡くなったとき受け取った莫大な遺産がある。その遺産をすべて彼女に贈るという遺言書を作ったが、それが愛のしるし。そうすると司は手術台に横たわる覚悟が出来た。
そして不思議なことだが、彼女の手で手術されることに心が浮き立つのを感じた。


「牧野」

司は手術台に横たわると名前を呼んだ。

「なに?」

手術着姿で目だけを覗かせている女は凛々しかった。
そしてその姿は、かつて司に立ち向かってきた女の姿に似ていた。

「もし俺に何かあったとしても俺はお前を恨みはしない」

「アンタ。なに言ってんの。なんで私が胆石の手術で失敗しなきゃならないのよ」

「いいんだ。牧野。お前の気持は理解してる。お前はお前のことを忘れた俺のことが許せないんだろ?だから俺を____」

麻酔をかけられた司はそこで意識が途絶えた。








つくしは病院に運び込まれた男を見て息を飲んだ。
道明寺系列の病院で働けば男に会う可能性があると理解していたが、まさか急患で運ばれて来るとは思わなかった。
そして男と再会することになったが、記憶を取り戻しているとは思いもしなかった。
それに男には胆石だと言って石が写ったレントゲン写真を見せたが、男の肝臓には腫瘍が見つかった。

沈黙の臓器と呼ばれる肝臓。
人体の右上腹部にあり、あばら骨の内側で守られていることから、痛みを感じるまで気づくことがないと言われる肝臓の病。
だから男も自分の身体の異常に気付かなかった。
そして痛みを感じた時には遅いと言われるが、やはり男の病も進行していたことから、手術しても助かるかどうか分からなかった。
だから他の医者は抗がん剤と放射線治療を勧めた。
だがつくしは手術することを主張した。
それは腫瘍を取り除くことができる自信があったから。
それに男を愛していたから。
だから本当の病名を隠し、石が写った他の人間の写真を男の物だと偽り、沈鬱な面持ちを隠し男と対峙すると、つくしが手術をすることを承諾させた。



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