恋の予感は突然に 15

事態がこれ以上悪化することはないだろうと思う司の予想はものの見事にはずれ
つくしは引き下がることをしなかった。

「親としての権利ってどう言う意味よ！」
「そんなもん決まってるだろうが！　結婚すんだよ！」
「な、なんであたしがあんたと結婚しなきゃならないのよ！」
「黙れ！」

子供が出来たから結婚だとか、今どきそんな考えばかりの人じゃないのよ？
そ、それに脅されて結婚するなんてありえないってば！
「俺だっておまえとなんか結婚なんてしたくなんてねぇぞ！」
「だがな、おまえが妊娠を企んだ時点でおまえにはあらゆる選択肢はなくなってんだよ！」
「勝手に・・・」
俺から何かを盗むなんてことが許されるわけがない。
・・・だから結婚は一定期間だけする・・・

「いいか！俺の望みはその・・子供の幸せだけだ！なんなら・・・その子供、俺が買い取ってやるぞ？」

言うに事欠いて子供を買い取るだなんてなんて男なのよ！
こ、こんな男にあたしの子供を取られてたまるもんですか！
ダメ！ダメよ！絶対にダメ！
そりゃ、この男の協力があったからこの子が出来たんだけどね・・


「おまえの自分勝手な望みのために他人が傷ついているなんて考えは頭にないのかよ！
学者センセーにはよお！」

つくしはその言葉に答えることが出来なかった。
なんと言えばいいのかわからなかった。
確かにこの男にはショックなことかもしれない。
知らないうちに・・勝手に子供の父親にさせられたことに対しての怒りは理解できる。

「で、でも・・あんたは子供なんて・・欲しいわけじゃないでしょ？」
「ああ。そうだ。子供なんて俺の人生で全くの予想外だ。けどな・・その子供は俺の血を別けた子供であることは確かなんだろ？」
そうじゃないと言えたらどんなに良かったことか！
が、どちらにしてもＤＮＡ検査なんてされたら嘘なんてすぐにバレてしまうから・・
「あ、あたりまえじゃない！あたしはそんな女じゃないわよ！」
「フン。そんな女じゃないってどんな女だって言うんだよ！」
「あ、あんたが付き合ってるような女性とは・・」
「おまえ、俺の何を知ってるって言うんだよ？俺がどんな女と付き合おうがおまえに何か迷惑がかかんのかよ？」

つくしは我に返った・・・
そうよ、この男がどんな女と付き合おうがあたしには何も関係はない。
むしろ大歓迎だ！
だから結婚なんてしなくてもいいじゃない！
あたしは・・・ただ、この子が欲しいだけなんだもの。
あんたなんて要らないわよ！

「じゃあ、あんたは今まで通りす、好きな人と付き合っていけばいい。
あたしと結婚なんてしなくてもいいじゃない。だからあたしのことはほっといてよ。
あんたには絶対に迷惑はかけないから・・お願い！」


この女・・小さくて無防備に見えた。
こんな華奢な肢体で俺にしがみついて、あんな大胆なことをしてきたわりには迷子の子犬みてえな目ぇして俺を見ていやがる。
全く見知らぬ他人に誘いをかけてきたと思えば、目的は達成したとばかりに思いっきり拒絶してきやがった。
チビで嘘つき女のくせして・・・
けどこいつが男に対して見境のない女じゃねぇことはわかったけど・・


司はこれ以上ごちゃごちゃ言うその口を塞いでやりたくなった。


司は目の前で文句を言う女を、いきなり引き寄せると女がつま先立ちになるまで引っ張りあげるとキスをした。



柔らかく小さな身体を思いっきり引っ張りあげられるようにされてつくしは慌てたが、それも一瞬のことで、次の瞬間にはこの男にキスをされていた。
掴まれた腕を振りほどこうともがいてみても男の強い力にかなうはずがない。

なんとか男の身体を押し返そうとしてみたが、結局どうにもならなかった。
が、いきなり放されてバランスを崩したつくしは転びそうになっていた。
そのとき、男の腕が伸びてきてつくしを支えてくれなければ後ろへと倒れ込んで尻もちをついていただろう。
しっかりと引き寄せるようにしてくれたおかげで、なんとかそうならずに済んだ。



「な、なんてことするのよ！あ、頭がおかしくなったの？」
「け、けがをしたらどうするのよ！」
つくしはいきなりキスをされたことにも驚いたが、突き放されたことに対して怒りのこもった声で言った。

男は身長１８０センチ以上もある身体を屈めてくるとつくしの目の前に顔を合わせた。

「いいか？俺は女のことはよく知ってる。どんな女も身勝手で、自分のことしか考えていない女ばかりだ・・・。だが俺の子供は・・子供については別だ。俺は絶対にその子を諦めるつもりなんてない」

つくしは頭を左右に振って拒否の態度を見せた。

「いいか！牧野つくし！おまえ、あの夜俺たちが何をしたのかよーく思い出しとけよ？」
司はにやにやと笑いながら言った。
「じゃあな、裁判所で会おう」　
と鼻で笑われた。
　　






司は頭が痛くなってきた。
なんでこんなことになってんだ？

自分の望みの為に子供が欲しいとあの女に男娼扱いされたことにプライドが傷ついたのか？
だから俺はあんな子供みたいな女にケンカをふっかけているのか？


だが、このタイミングでこの降ってわいたような出会いが自分にもたらされた理由を考えてみた。
結婚とか、子供を持つとか、全く考えたことはなかったが今の俺の状況からいけば
この巡り合わせもある意味で絶好のタイミングかもしれないと思われた。







明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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