ヘリはマンハッタンの夜景の上を遊覧する様に飛行すると、道明寺ホールディングスニューヨークビルのヘリポートへと着陸した。5月のニューヨークの夜はさほど寒さは感じられない。今夜は珍しく空気が澄んでいるように感じられる。
二人は互いに考えていることがあるのか、珍しく無口だった。
「わりぃ、忘れものがある、ちょっと寄ってもいいか?」
司はヘリポートから執務室へと続く扉をくぐった。
黙って大人しくついてくる牧野。
そんなあいつのロイヤルブルーのイブニングドレスは、ニューヨークの夜空に溶け込むようだ。艶やかで豊かな黒髪は夜会巻に整えられ、襟足の美しさを一層際立たせていた。
その美しい襟足に手を回してキスしたい。
その美しく整えられた髪を乱したい。
61階の執務室に忘れものなんてある訳がない。
それは口実だ。
広々とした執務室である副社長室のインテリアは、ここを訪れる者たちの気持ちを委縮させるように豪華で威圧的だ。大理石の床に配置されたモダンなワインレッドの革張りのソファ。壁には本物の絵画がかかり、その価値を知る者はこの絵がここにある事に嫉妬と称賛を見せる。
世界中のコレクターが欲しがっていた絵。
匿名で落札された絵がここにあることに誰もが驚く。だが司にとっては単なる投資対象だ。
デスクの後ろに見えるニューヨークの街並み。背面のすべてが一枚のガラスで出来た窓。
昏い夜空をバックに美しく浮き上がるさまざまなビルのシルエット。まるで世界を独り占めしているようなその風景。それもまるで一枚の絵画のように見えた。
「なにか飲むか?」
返事はなかった。
司はキャビネットからバーボンを取り出し、グラスに注いで口にする。
どうだ牧野?
ここからの眺めは世界を手にした者だけが眺められる風景だ。
おまえが昔この街に来たとき、目にした風景に、この場所から見た以上の景色は無かったはずだ。
無口な女はその風景に引き寄せられるようにして窓へと近づいていた。
司は後ろから近づき、身体を寄せ、ドレスアップしても胸の高さまでしかない女を後ろから抱き寄せた。
どうした?いつもなら騒々しいくらいの女が大人しくされるがままだ。
「きれいな夜景だね・・」
「・・今日のおまえの方がきれいだ」
両手をウエストに這わせ、振り向かせた。
どちらからともなく、交わされたくちづけ。
ドレスは2人の身体を隔てるには薄すぎた。
肌の感触を手に感じながら両手で牧野の身体をなでまわす。
「くそっ」
この場には似合わない不謹慎な言葉が司の口から出たが、今やめないと止められそうにない。
そう思いながら、切迫感に追われキスが止められないでいる。
牧野は身体を引くどころか、なおも一層激しくキスを返してくる。
執務室の中、これほど昂っている自分に司はショックを受けていた。
つくしが閉じた瞼を開いたとき、そこに見たのは、司の熱を帯びた瞳の中に揺れる昏い炎。 抱きしめられた身体に伝わる彼の男としての欲望も感じられた。
それに、つくしの頭の中で小さな声が告げる。
二人のあいだに多くの問題があったとしても、今は構わない。
道明寺があたしのことを思い出し、再び自分を好きだと言ってくれなくてもいい。
お金も権力も欲しくない。あたしの最大の望みは道明寺に愛してもらうことだけだ。
地下駐車場に待機していたシルバーのストレッチ・リモに抱きかかえられるように乗せられ、ペントハウスに向かう。
眠らない街、ニューヨークの喧騒を感じながら。
司は身を屈め、リムジンの中をのぞきこんだ。
「来るんだ・・さあ」
つくしは手を伸ばして彼と手のひらを重ねた。
手はまるで火傷でもしたかのように熱かった。
道明寺も熱を感じたのかあたしの手をぎゅっと握りしめてきた。
つくしはとても目を合わせる勇気がなくて司の胸元を見つめるしかなかった。
これまで見て来た恋愛映画を思い浮かべてみた。
こんな時、ヒロインはどうしたらいいの?
あたしはヒロインになれるのだろうか?

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応援有難うございます。
二人は互いに考えていることがあるのか、珍しく無口だった。
「わりぃ、忘れものがある、ちょっと寄ってもいいか?」
司はヘリポートから執務室へと続く扉をくぐった。
黙って大人しくついてくる牧野。
そんなあいつのロイヤルブルーのイブニングドレスは、ニューヨークの夜空に溶け込むようだ。艶やかで豊かな黒髪は夜会巻に整えられ、襟足の美しさを一層際立たせていた。
その美しい襟足に手を回してキスしたい。
その美しく整えられた髪を乱したい。
61階の執務室に忘れものなんてある訳がない。
それは口実だ。
広々とした執務室である副社長室のインテリアは、ここを訪れる者たちの気持ちを委縮させるように豪華で威圧的だ。大理石の床に配置されたモダンなワインレッドの革張りのソファ。壁には本物の絵画がかかり、その価値を知る者はこの絵がここにある事に嫉妬と称賛を見せる。
世界中のコレクターが欲しがっていた絵。
匿名で落札された絵がここにあることに誰もが驚く。だが司にとっては単なる投資対象だ。
デスクの後ろに見えるニューヨークの街並み。背面のすべてが一枚のガラスで出来た窓。
昏い夜空をバックに美しく浮き上がるさまざまなビルのシルエット。まるで世界を独り占めしているようなその風景。それもまるで一枚の絵画のように見えた。
「なにか飲むか?」
返事はなかった。
司はキャビネットからバーボンを取り出し、グラスに注いで口にする。
どうだ牧野?
ここからの眺めは世界を手にした者だけが眺められる風景だ。
おまえが昔この街に来たとき、目にした風景に、この場所から見た以上の景色は無かったはずだ。
無口な女はその風景に引き寄せられるようにして窓へと近づいていた。
司は後ろから近づき、身体を寄せ、ドレスアップしても胸の高さまでしかない女を後ろから抱き寄せた。
どうした?いつもなら騒々しいくらいの女が大人しくされるがままだ。
「きれいな夜景だね・・」
「・・今日のおまえの方がきれいだ」
両手をウエストに這わせ、振り向かせた。
どちらからともなく、交わされたくちづけ。
ドレスは2人の身体を隔てるには薄すぎた。
肌の感触を手に感じながら両手で牧野の身体をなでまわす。
「くそっ」
この場には似合わない不謹慎な言葉が司の口から出たが、今やめないと止められそうにない。
そう思いながら、切迫感に追われキスが止められないでいる。
牧野は身体を引くどころか、なおも一層激しくキスを返してくる。
執務室の中、これほど昂っている自分に司はショックを受けていた。
つくしが閉じた瞼を開いたとき、そこに見たのは、司の熱を帯びた瞳の中に揺れる昏い炎。 抱きしめられた身体に伝わる彼の男としての欲望も感じられた。
それに、つくしの頭の中で小さな声が告げる。
二人のあいだに多くの問題があったとしても、今は構わない。
道明寺があたしのことを思い出し、再び自分を好きだと言ってくれなくてもいい。
お金も権力も欲しくない。あたしの最大の望みは道明寺に愛してもらうことだけだ。
地下駐車場に待機していたシルバーのストレッチ・リモに抱きかかえられるように乗せられ、ペントハウスに向かう。
眠らない街、ニューヨークの喧騒を感じながら。
司は身を屈め、リムジンの中をのぞきこんだ。
「来るんだ・・さあ」
つくしは手を伸ばして彼と手のひらを重ねた。
手はまるで火傷でもしたかのように熱かった。
道明寺も熱を感じたのかあたしの手をぎゅっと握りしめてきた。
つくしはとても目を合わせる勇気がなくて司の胸元を見つめるしかなかった。
これまで見て来た恋愛映画を思い浮かべてみた。
こんな時、ヒロインはどうしたらいいの?
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コメント
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コ**様
いつもご訪問有難うございます。
ドキドキ、キュンキュンして頂けているようで嬉しいです。
もっとドキドキして頂けるといいんですが(笑)
きっとこの二人の気持ちもドキドキしているはずです。
またご感想などございましたらお寄せ下さいね。
私もご感想にはいつもドキドキしながら読ませて頂いております(笑)
いつもご訪問有難うございます。
ドキドキ、キュンキュンして頂けているようで嬉しいです。
もっとドキドキして頂けるといいんですが(笑)
きっとこの二人の気持ちもドキドキしているはずです。
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アカシア
2015.08.16 00:39 | 編集
