「社長さん。もしかして、つくしさんのこと好きなんじゃないですか?」
それは唐突な質問。
そして楽しそうな口ぶりで女の子は言った。
「何故そう思う?」
幸い店に他の客はいない。
だから女の子も躊躇うことなく訊いてきたようだ。
「私、謎めいた社長さんに興味を持ったって言いましたよね。でも正体を見破ることは出来なかった。だけど社長さんのつくしさんに対する気持ちは当たりだと思ってるんです。だって社長さん、ここにお茶を飲みに来るっていうより、つくしさん目当てに来てるんじゃないかって思えるくらいつくしさんのこと見つめてますよね?」
その声には明らかな好奇心が滲み出ていた。
それにしても、司の態度は二十歳前後の女の子に見破られるほど露骨だっただろうか。
「実は私、大学で心理学を勉強しているんです。だからニックネームを付けるのが癖なら人間観察は私の趣味なんです。そんな私の勘は社長さんが、つくしさんのことが好きだって言ってます。だって私が紅茶を運んで行っても顏を上げることも無ければ、ありがとうって言われたこともないんですよ?構ってくれるなって雰囲気を醸し出していて、ただひたすら無言で新聞を読んでいる。だけどつくしさんが運んで行くと読むのを止めてつくしさんを見る。その時の社長さんは目が優しくて明らかに口元が緩んでます」
大学で心理学を学んでいるというアルバイトの女の子は、冷やかすように言った。
「それからいつだったか鉢植えの交換に来た福田園芸の福田さんが、つくしさんと話していた時の社長さんの顏。ムッとしていました。つまり社長さんって謎めいた人だけど案外色々と顏に出る人だなあって思ったんですよ?」
店に置かれている常緑樹はリースで、福田園芸とはその常緑樹の鉢植えをリースしている会社だ。そこの福田何某と言う男が大きな鉢植えの交換に来たのだが、そのとき彼女はその男と親しそうに笑っていた。
「おまけに社長さんは福田さんが帰った後で植物には罪はないのに鉢植えを睨んでるように見えました」
司はポーカーフェイスと言われている。
だがその司がひとりの女性のことを考えたとき、自分では気づかないうちに心の裡が顏に出ていたのだろうか。
「それから社長さん。常連さんなのに私の名前の名前知らないでしょ?」
そう言うと女の子は、社長さんにとって私は透明人間で興味ないと思うけど、私の名前は平塚由里です。つくしさんには由里ちゃんって呼ばれてますと言ったが、司の記憶の中にその名前はひとかけらも無かった。
それに初めて名前を知った由里という女の子とは、これまで親しく口を訊いたことが無い。
「それで?つくしさんのこと、どうするんですか?社長さんつくしさんのことが好きなんですよね?」
司は若く屈託のないアルバイトの女の子から、自分の思いをさらりと口にされたことに動揺していた。
「それに男の人って好きな人がお見合いしてるって訊いたら止めに行くんじゃないですか?あ、あれは結婚式でしたっけ?私、古い映画も好きなので見たんですけど、昔のアメリカ映画で元恋人が結婚式を挙げているところに駆けつけて異議ありって叫んで式を妨害して花嫁を奪い去る映画。あの映画みたいなこと。しなくていいんですか?」
司もその映画は知っている。
それはダスティン・ホフマンが主演の『卒業』。
花嫁を結婚式の最中に、花婿から奪って逃げるシーンは余りにも有名だ。
「社長さん。つくしさんが居ないから言いますけど、つくしさんも社長さんのこと好きですよ。社長さんが暫くお店に来ないから病気じゃないかって心配していたことは言いましたよね?でもそれ以前でも社長さんがお店に来たら嬉しそうな顏をしてました。社長さんが来ると声が弾んでます。近くで見ている私だから分かるんです。だけど社長さんが高級外車から降りて来たことや、ボディガードに囲まれていたことを話してから、つくしさんは社長さんのこと本当に社長さんだと思っています。つくしさんの態度は表向きは変わっていませんけど、社長さんのことは手の届かない人だと思ってます。つまり立場が違うって言うのか。社長と喫茶店の女性店主じゃ身分が違うって言うのか。そんなことを気にしてるんだと思います。だから自分の気持ちを伝えることはしなかったんだと思います。でも社長さんは社長じゃなくてただの会社員ですものね?それならつくしさんも立場の違いを感じる必要ないですよね?」
司はまさか彼女が自分に好意を寄せてくれているとは思いもしなかった。
「それにしても大人って回り道するのが好きですよね。好きなら好きだって言えばいいのに、変な躊躇いがあるんですよね?うんうん。違う。自分の気持ちに蓋をしちゃうって言うのかな?遠慮があるんですよね?それで?社長さん。つくしさんのこと。どうするんですか?私は学生でまだ経験はありませんが、お見合いって結婚を前提にするものですよね?
つくしさんがお見合いをすることを決めたのは、社長さんのこと諦めたからで、もし相手の人がつくしさんのことを気に入ったら話は早いってことですよね?」
彼女が諦めることなどひとつもない。
司も彼女のことが好きなのだから。
それに身分だの立場など関係ない。
そのとき、司の背後で店の扉が開いた。
「あ!つくしさん。お帰りなさい!」
「由里ちゃんただいま。ごめんね。遅くなって」
「うんうん。大丈夫です。社長さんが久し振りに来てくれたのでお話ししていたんです!」
司が振り返って見た彼女は、いつも店に立つ時のエプロン姿ではなくワンピース姿。
顏には、やはりいつもよりきれいに化粧が施され手には小さな鞄が握られていた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね?」
彼女にそう言われた司は口を開こうとした。
だが司の言葉は「由里ちゃん、お客様にその呼び方は失礼よ」と由里を窘める言葉にさえぎられた。
すると由里は「ごめんなさい」と言って「それでつくしさん。どうでしたか?」と言った。
「うん。楽しかったわよ?」
それを訊いた司は不愉快だった。
見合いが楽しかったとすれば、それは話が早いということになるからだ。
「へえ。そうですか。楽しかったんですか?行って良かったですね!」
「うん。楽しめたわ。本当に行って良かったわ」
司は楽しいが強調されるほど不快を覚える。
「牧野さん」
司は意を決したように彼女の名前を呼んだ。
「あなたは今日お見合いに行って来たそうですね?そしてそれが楽しかったと言う。ですが、そのお見合いの話はなかったことにしていただきたい」
「あの….いったい….」
「ですからそのお見合いは断っていただきたい」
司は当惑している彼女に言った。
「あの….」
「牧野さん。伯母様からのご紹介で断ることが難しいとしても断わって下さい」
「伯母からの紹介?おっしゃっている意味が分からないんですが?」
「牧野さん。あなたは今日伯母様からのご紹介の見合いに行った。
そしてその見合いが楽しかったと言う。しかし私はあなたのことが好きです。だからその見合いは無かったことにして下さい。そして私と結婚を前提に付き合って欲しい」
すると彼女は、「あの何か誤解していませんか?私、今日は伯母に会いに施設へ行ったんです。今日は施設で伯母や伯母と同じ月に生まれた皆さんの誕生会があってそれに参加して来たんです」と答えた。
彼女の伯母は一人暮らしが難しく施設にいる。
司はアルバイトの女子大生、平塚由里を見た。
すると由里は悪戯っぽい顏でチロッと舌を出し「表の掃除して来まーす!」と言って店の外に出た。
司は誰もいなくなった店内で意を決して彼女に言った。
「私の名前は道明寺司と言います。今はまだ社長ではなく副社長ですがいずれ社長になります。だが私の立場が何であろうが、あなたが誰であろうが、そんなことは私には関係ない。いや、私たちに関係ない。だから牧野つくしさん。改めて言います。私と結婚を前提に付き合って欲しい」
「5年振りにここに来るけど、あれから何年になるのかしらね?」
「30年だ。あれから30年が経った」
「そう、もうそんなになるのね。時間が経つのは本当に早いわね?」
「ああ。そうだな。時間が経つのは早い」
ふたりが出会った喫茶店は今はもうない。
その代わり今そこにあるのは小さな花屋。
ふたりはニューヨークで暮らしていたことから、5年振りに参加した茶摘みの儀式の帰り、この場所に来た。
そして司はその店で花を買うと妻にプレゼントをした。
「奥さん。これまで支えてくれてありがとう。これからもよろしくな」
来年の1月に65歳を迎える司は春に定年を迎える。
だが単体で五千人、連結で九万人の従業員を抱える道明寺ホールディングスの社長である司に、役員の多くはまだ現役でいてくれと言う。
けれど司は来年春に社長を退き会長に就任することが決まっている。いや、正式には決まっていないが人生にひとつの区切りをつけることを決めた。
そんな男が自分の人生を支えてくれた妻を伴いこの場所に来るのは、ふたりの思い出を大切にしているから。
司は喫茶店があったこの場所で彼女にプロポーズをした。
だが彼女は司との違いを強調して結婚出来ないと言った。だから司は彼女を説得するために喫茶店に通った。自分の姓は単なる記号であり、その記号がたまたま他の姓よりも世間に知られているだけであり、自分は好きな人と一緒にいることを望むただの男だと言った。
そして司は彼女にイエスと言ってもらえると、そこから先、彼女の気が変わらないうちに結婚した。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします。だって私。まだまだ長生きするつもりだから」
と言った妻に司は「ああ、長生きしろよ。俺より先に死ぬなよ」と言って笑った。
今は生きることが難しいと言われる時代。
いや。今だけではなく、どんなに時代が変わっても必ず言われるその言葉。
だが司は、こんな時代でも優しい世界を見つけることが出来た。
それは、共に生きてくれる人がいれば困難も笑い話に変えることが出来る。幸せな時間を過ごすことが出来るということ。
だが優しい世界は人それぞれだ。そして司にとって優しい世界は好きな人といる時間。
彼女がいればそれで充分。
そんな彼女は贈られた花束を抱いて言った。
「好きな人と一緒にいることが一番の幸せよ」
だから司も、「ああ。そうだな」と声に出して頷いた。
< 完 >*好きな人と幸せを*

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それは唐突な質問。
そして楽しそうな口ぶりで女の子は言った。
「何故そう思う?」
幸い店に他の客はいない。
だから女の子も躊躇うことなく訊いてきたようだ。
「私、謎めいた社長さんに興味を持ったって言いましたよね。でも正体を見破ることは出来なかった。だけど社長さんのつくしさんに対する気持ちは当たりだと思ってるんです。だって社長さん、ここにお茶を飲みに来るっていうより、つくしさん目当てに来てるんじゃないかって思えるくらいつくしさんのこと見つめてますよね?」
その声には明らかな好奇心が滲み出ていた。
それにしても、司の態度は二十歳前後の女の子に見破られるほど露骨だっただろうか。
「実は私、大学で心理学を勉強しているんです。だからニックネームを付けるのが癖なら人間観察は私の趣味なんです。そんな私の勘は社長さんが、つくしさんのことが好きだって言ってます。だって私が紅茶を運んで行っても顏を上げることも無ければ、ありがとうって言われたこともないんですよ?構ってくれるなって雰囲気を醸し出していて、ただひたすら無言で新聞を読んでいる。だけどつくしさんが運んで行くと読むのを止めてつくしさんを見る。その時の社長さんは目が優しくて明らかに口元が緩んでます」
大学で心理学を学んでいるというアルバイトの女の子は、冷やかすように言った。
「それからいつだったか鉢植えの交換に来た福田園芸の福田さんが、つくしさんと話していた時の社長さんの顏。ムッとしていました。つまり社長さんって謎めいた人だけど案外色々と顏に出る人だなあって思ったんですよ?」
店に置かれている常緑樹はリースで、福田園芸とはその常緑樹の鉢植えをリースしている会社だ。そこの福田何某と言う男が大きな鉢植えの交換に来たのだが、そのとき彼女はその男と親しそうに笑っていた。
「おまけに社長さんは福田さんが帰った後で植物には罪はないのに鉢植えを睨んでるように見えました」
司はポーカーフェイスと言われている。
だがその司がひとりの女性のことを考えたとき、自分では気づかないうちに心の裡が顏に出ていたのだろうか。
「それから社長さん。常連さんなのに私の名前の名前知らないでしょ?」
そう言うと女の子は、社長さんにとって私は透明人間で興味ないと思うけど、私の名前は平塚由里です。つくしさんには由里ちゃんって呼ばれてますと言ったが、司の記憶の中にその名前はひとかけらも無かった。
それに初めて名前を知った由里という女の子とは、これまで親しく口を訊いたことが無い。
「それで?つくしさんのこと、どうするんですか?社長さんつくしさんのことが好きなんですよね?」
司は若く屈託のないアルバイトの女の子から、自分の思いをさらりと口にされたことに動揺していた。
「それに男の人って好きな人がお見合いしてるって訊いたら止めに行くんじゃないですか?あ、あれは結婚式でしたっけ?私、古い映画も好きなので見たんですけど、昔のアメリカ映画で元恋人が結婚式を挙げているところに駆けつけて異議ありって叫んで式を妨害して花嫁を奪い去る映画。あの映画みたいなこと。しなくていいんですか?」
司もその映画は知っている。
それはダスティン・ホフマンが主演の『卒業』。
花嫁を結婚式の最中に、花婿から奪って逃げるシーンは余りにも有名だ。
「社長さん。つくしさんが居ないから言いますけど、つくしさんも社長さんのこと好きですよ。社長さんが暫くお店に来ないから病気じゃないかって心配していたことは言いましたよね?でもそれ以前でも社長さんがお店に来たら嬉しそうな顏をしてました。社長さんが来ると声が弾んでます。近くで見ている私だから分かるんです。だけど社長さんが高級外車から降りて来たことや、ボディガードに囲まれていたことを話してから、つくしさんは社長さんのこと本当に社長さんだと思っています。つくしさんの態度は表向きは変わっていませんけど、社長さんのことは手の届かない人だと思ってます。つまり立場が違うって言うのか。社長と喫茶店の女性店主じゃ身分が違うって言うのか。そんなことを気にしてるんだと思います。だから自分の気持ちを伝えることはしなかったんだと思います。でも社長さんは社長じゃなくてただの会社員ですものね?それならつくしさんも立場の違いを感じる必要ないですよね?」
司はまさか彼女が自分に好意を寄せてくれているとは思いもしなかった。
「それにしても大人って回り道するのが好きですよね。好きなら好きだって言えばいいのに、変な躊躇いがあるんですよね?うんうん。違う。自分の気持ちに蓋をしちゃうって言うのかな?遠慮があるんですよね?それで?社長さん。つくしさんのこと。どうするんですか?私は学生でまだ経験はありませんが、お見合いって結婚を前提にするものですよね?
つくしさんがお見合いをすることを決めたのは、社長さんのこと諦めたからで、もし相手の人がつくしさんのことを気に入ったら話は早いってことですよね?」
彼女が諦めることなどひとつもない。
司も彼女のことが好きなのだから。
それに身分だの立場など関係ない。
そのとき、司の背後で店の扉が開いた。
「あ!つくしさん。お帰りなさい!」
「由里ちゃんただいま。ごめんね。遅くなって」
「うんうん。大丈夫です。社長さんが久し振りに来てくれたのでお話ししていたんです!」
司が振り返って見た彼女は、いつも店に立つ時のエプロン姿ではなくワンピース姿。
顏には、やはりいつもよりきれいに化粧が施され手には小さな鞄が握られていた。
「いらっしゃいませ。お久しぶりですね?」
彼女にそう言われた司は口を開こうとした。
だが司の言葉は「由里ちゃん、お客様にその呼び方は失礼よ」と由里を窘める言葉にさえぎられた。
すると由里は「ごめんなさい」と言って「それでつくしさん。どうでしたか?」と言った。
「うん。楽しかったわよ?」
それを訊いた司は不愉快だった。
見合いが楽しかったとすれば、それは話が早いということになるからだ。
「へえ。そうですか。楽しかったんですか?行って良かったですね!」
「うん。楽しめたわ。本当に行って良かったわ」
司は楽しいが強調されるほど不快を覚える。
「牧野さん」
司は意を決したように彼女の名前を呼んだ。
「あなたは今日お見合いに行って来たそうですね?そしてそれが楽しかったと言う。ですが、そのお見合いの話はなかったことにしていただきたい」
「あの….いったい….」
「ですからそのお見合いは断っていただきたい」
司は当惑している彼女に言った。
「あの….」
「牧野さん。伯母様からのご紹介で断ることが難しいとしても断わって下さい」
「伯母からの紹介?おっしゃっている意味が分からないんですが?」
「牧野さん。あなたは今日伯母様からのご紹介の見合いに行った。
そしてその見合いが楽しかったと言う。しかし私はあなたのことが好きです。だからその見合いは無かったことにして下さい。そして私と結婚を前提に付き合って欲しい」
すると彼女は、「あの何か誤解していませんか?私、今日は伯母に会いに施設へ行ったんです。今日は施設で伯母や伯母と同じ月に生まれた皆さんの誕生会があってそれに参加して来たんです」と答えた。
彼女の伯母は一人暮らしが難しく施設にいる。
司はアルバイトの女子大生、平塚由里を見た。
すると由里は悪戯っぽい顏でチロッと舌を出し「表の掃除して来まーす!」と言って店の外に出た。
司は誰もいなくなった店内で意を決して彼女に言った。
「私の名前は道明寺司と言います。今はまだ社長ではなく副社長ですがいずれ社長になります。だが私の立場が何であろうが、あなたが誰であろうが、そんなことは私には関係ない。いや、私たちに関係ない。だから牧野つくしさん。改めて言います。私と結婚を前提に付き合って欲しい」
「5年振りにここに来るけど、あれから何年になるのかしらね?」
「30年だ。あれから30年が経った」
「そう、もうそんなになるのね。時間が経つのは本当に早いわね?」
「ああ。そうだな。時間が経つのは早い」
ふたりが出会った喫茶店は今はもうない。
その代わり今そこにあるのは小さな花屋。
ふたりはニューヨークで暮らしていたことから、5年振りに参加した茶摘みの儀式の帰り、この場所に来た。
そして司はその店で花を買うと妻にプレゼントをした。
「奥さん。これまで支えてくれてありがとう。これからもよろしくな」
来年の1月に65歳を迎える司は春に定年を迎える。
だが単体で五千人、連結で九万人の従業員を抱える道明寺ホールディングスの社長である司に、役員の多くはまだ現役でいてくれと言う。
けれど司は来年春に社長を退き会長に就任することが決まっている。いや、正式には決まっていないが人生にひとつの区切りをつけることを決めた。
そんな男が自分の人生を支えてくれた妻を伴いこの場所に来るのは、ふたりの思い出を大切にしているから。
司は喫茶店があったこの場所で彼女にプロポーズをした。
だが彼女は司との違いを強調して結婚出来ないと言った。だから司は彼女を説得するために喫茶店に通った。自分の姓は単なる記号であり、その記号がたまたま他の姓よりも世間に知られているだけであり、自分は好きな人と一緒にいることを望むただの男だと言った。
そして司は彼女にイエスと言ってもらえると、そこから先、彼女の気が変わらないうちに結婚した。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします。だって私。まだまだ長生きするつもりだから」
と言った妻に司は「ああ、長生きしろよ。俺より先に死ぬなよ」と言って笑った。
今は生きることが難しいと言われる時代。
いや。今だけではなく、どんなに時代が変わっても必ず言われるその言葉。
だが司は、こんな時代でも優しい世界を見つけることが出来た。
それは、共に生きてくれる人がいれば困難も笑い話に変えることが出来る。幸せな時間を過ごすことが出来るということ。
だが優しい世界は人それぞれだ。そして司にとって優しい世界は好きな人といる時間。
彼女がいればそれで充分。
そんな彼女は贈られた花束を抱いて言った。
「好きな人と一緒にいることが一番の幸せよ」
だから司も、「ああ。そうだな」と声に出して頷いた。
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- 好きな人と幸せを <後編>
- 好きな人と幸せを <中編>
- 好きな人と幸せを <前編>
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s**p様
s**p様もダスティン・ホフマンを想像されたんですね!(≧▽≦)
あの映画のラストシーンのように、他の男性と結婚しようとしているつくしを奪って逃げる男。坊っちゃん、そんな役も似合うかもしれませんね^^
s**p様もダスティン・ホフマンを想像されたんですね!(≧▽≦)
あの映画のラストシーンのように、他の男性と結婚しようとしているつくしを奪って逃げる男。坊っちゃん、そんな役も似合うかもしれませんね^^
アカシア
2021.05.09 21:02 | 編集

ふ**ん様
ふたりで長生きシリーズ!(≧▽≦)
新しいシリーズ命名ありがとうございますm(__)m
いつも短命なので長くしてみました(;^ω^)
わ~!間違えていました!
由里ちゃんですよ、由里ちゃん!
アレ?どうして由香になったのでしょう?(笑)
脳内変換を間違えたとしか言えないのですが、教えていただきありがとうございますm(__)m
そしてその由里ちゃん。
いい仕事しましたねえ。
おっしゃる通り、きっと司のつくしに対する思いはダダ洩れだったんでしょうねえ(笑)
そして30年経っても仲良し夫婦。
摘んだ新茶を飲んで長生きしてね~(≧▽≦)
ふたりで長生きシリーズ!(≧▽≦)
新しいシリーズ命名ありがとうございますm(__)m
いつも短命なので長くしてみました(;^ω^)
わ~!間違えていました!
由里ちゃんですよ、由里ちゃん!
アレ?どうして由香になったのでしょう?(笑)
脳内変換を間違えたとしか言えないのですが、教えていただきありがとうございますm(__)m
そしてその由里ちゃん。
いい仕事しましたねえ。
おっしゃる通り、きっと司のつくしに対する思いはダダ洩れだったんでしょうねえ(笑)
そして30年経っても仲良し夫婦。
摘んだ新茶を飲んで長生きしてね~(≧▽≦)
アカシア
2021.05.09 21:21 | 編集

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