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2021
04.17

最愛 最終話

Category: 最愛(完)
娘は3日間の滞在後、「お父さん。身体に気を付けてね」と言って慌ただしく日本を発ったが、次に娘と会うのはパリを引き払い日本に戻って来た時になる。
フランスの学校には卒業式が無い。いや、卒業式だけではなく入学式もない。それは自由の国フランスらしいと言えばらしいのだが、親としては晴れやかな表情で卒業式を迎える娘の姿が見たかった。
だが娘は二十歳を過ぎた大人だ。だから余程のことが無い限り、これからの人生に干渉することはしない。それに幸せの道は人それぞれだ。だから息子たちにも親が敷いたレールの上を走れとは言わなかった。むしろレールなどない。人生は世襲ではない。自分の道は自分で切り開けと言った。
すると、道明寺に入社した長男は現場第一主義だと言って営業から始めた。だが差し出した名刺の名前を見れば取引先が気を遣っていたのは間違いない。
そして次男も同じで、親父の威光が及ばない場所に行くと言って、アフリカで水インフラの整備に携わることから始めた。そして長男は今、親子4代の経営者になるべく修行中だ。

名残の桜が咲いている。
あれから22年、と庭に出た司は思い出す。
赤ん坊が生まれた司の元に集まった友人たちは、昔の恋人と結婚したことを喜んだ。
赤ん坊の顏を見て司に似ていると言った。友人達の誰も「事情」は知らない。今後も知らせるつもりはない。どれほど信頼できる人間だとしても、暁子のことは司と亡くなった妻だけが知っていればいい。
だから、「当たり前だ。俺の子供だからな」と答えた。

妻と育んできた暮らしは、ふたりの息子と暁子が中心の生活。
だが、そのさらに中にあったのは妻となった女性への愛だ。
家のために結婚したが好きな男が出来たという女と別れた。初めから愛などなかったのだから、言い争うことなく離婚が成立した。そのときもう生涯自分はどんな女性にとも係わることはないと思っていた。だが、かつての恋人と再会したことで止まったと思われた運命の歯車は再び周り始めた。すると彼女を好きだった頃の自分自身が甦った。
彼女が愛しているものなら自分も愛せる。だからお腹の中に別の男の子供がいることは気にならなかった。むしろ夫を病気で失くしたばかりの彼女も、その子供も守りたかった。
だから子供の父親になりたいと言った。だが彼女は躊躇った。けれど、司の気持ちは定まっていた。だから自分の気持ちを押し通すようにして彼女と結婚した。

頑固者で芯が通っている彼女は、筋の通らないことには首を縦に振らない。
相手が男だろうが女だろうが、年上だろうが関係ない。それは恋人同士だった頃から変わらない彼女のスタンス。そんな彼女は正しいことはとことん褒める。教職についていた彼女は、子供たちは褒めれば伸びるという考えで育てた。
だから子供たちの成績が悪くても、ここまで頑張ったら十分だと褒める。下手なピアノを弾く姿も、よく出来たと褒める。そしてスポーツで負けても次に頑張ればいい。だが悔しいと思うなら努力しようと言った。
そして司が知る限り、彼女が何かを子供たちに強制したことはない。自ら望まない限り習い事をさせたことはない。
それに司自身の経験を踏まえれば、親から強制されるほど腹が立つことはない。
だから息子たちの自発性を重んじた。

そんな息子たちが犬を飼いたいと言ったことがあった。
それは柴犬。自分達で世話をする。散歩に連れて行くからお願いと言われた。
だが邸には番犬として飼われている大型犬が何頭かいた。だからそれではダメなのかと訊いた。すると息子たちは言った。

『あんな大きな犬じゃダメだよ』

『散歩に行くなら柴犬くらいの大きさがいいよ』

『そうだよ。だって大きな犬は暁子が怖がるだろ?』

そこで娘が犬を飼いたいこと望んでいることが分かった。
だから司は妻と相談して柴犬を飼うことにした。
娘が小さな頃から傍にいた雄の柴犬の名前はサスケ。
娘はサスケが大好きで学校から戻ると邸の広い庭で遊んでいた。サスケも娘の傍にいつもいた。息子たちも飼う前に約束した通り世話をした。
だがそのサスケも、暁子がフランスへ留学することが決まると、まるで役目を果たしたとばかり亡くなった。もしかするとサスケは暁子の亡くなった本当の父親だったのかもしれない。
我が子の傍にいたいと姿を変えて現れたのかもしれない。


亡くなった人を思えば、天国でその人の周りに花が咲くと言う。
だから司はいつも妻を思う。
今はきっと黄色いミモザの花が彼女の周りに咲いているはずだ。

我が子の成長をもう少し見たかったはずの妻。
しかし、それは叶わなかった。
だがもし人生が何度も繰り返せるのなら、来世も彼女に巡り会いたい。
また彼女と一緒に過ごしたい。
そして今の人生よりも長く一緒にいることを願う。

「つくし。俺たちの娘は立派に育ったぞ。どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ」

司は空に向かって呟いた。
そのとき背後に気配を感じ振り向いた。
だがそこには緑の芝に覆われた庭があるだけで誰もいなかった。
けれど、そこにミモザの匂いを感じた。
彼女が好きだった黄色い春の花の匂いを。
すると司の口元に桜の花びらが舞い降りた。
それは名残の桜。
それが司には最愛の人の口づけのように思えた。





< 完 > *最愛*
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コメント
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dot 2021.04.17 09:31 | 編集
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dot 2021.04.17 18:53 | 編集
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dot 2021.04.17 22:59 | 編集
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dot 2021.04.18 02:05 | 編集
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dot 2021.04.18 05:17 | 編集
S**p様
えっ?このお話の二人の再会からを長編で?
スミマセン(>_<)。今、余裕がなくて書けそうにありませんm(__)m

機種変更したらパスワードが拒否される!
時々そういったご連絡をいただくのですが、何が理由なのでしょうねえ。
でも問題解決して良かったです(^^)/~~~
アカシアdot 2021.04.19 20:39 | 編集
ふ**ん様
危険な春の短編(笑)
おひとり様シリーズ来ましたよー(^^)/~~~

司は実の娘ではないとしても、暁子のことが愛おしいのです。
愛する人が産んだ愛する人は司にとっても愛する人でした。
柴犬。くるん、と丸まった尻尾が可愛いですよね?
そしてサスケという名前にあの番組を思い出す!(≧▽≦)
何故サスケと名付けたのでしょうねえ(笑)
>司の空のように大きな愛
大人の深い愛です。
おひとり様。また書いてもいいですか?(笑)
アカシアdot 2021.04.19 20:44 | 編集
切**様
血は繋がっていなくても暁子は司の娘であり、お兄ちゃんズにとっては大切な妹です。
そして柴犬のサスケは亡くなった実の父だったのかもしれません。
そんなサスケ。夜は暁子と一緒に寝ていたような気がします。

え?あちらのお話の司の記憶が戻って変な声が出たんですか?(≧▽≦)
そして変態御曹司が読みたい!いや、変態な話ばかりじゃないですからね!
こちらこそ、ご感想をありがとうございましたm(__)m
そう言えば、最近御曹司ゴブサタですねぇ….(*’ω’*)
アカシアdot 2021.04.19 20:48 | 編集
ふ*******マ様
亡くなった人を思えば、その人の周りで花が咲く。
そう訊いたことがあります。
そして多分、きっとそうなんだと思います。
だからその人のことを思えば、その人は天国で花に囲まれている。
沢山の花に囲まれて笑っているはずですよ。
花に囲まれて怒る人はいませんから(*^-^*)

アカシアdot 2021.04.19 20:53 | 編集
ま**ん様
無償の愛。
親から子への愛はまさにそれですが、司と暁子の間に血の繋がりはありません。
しかし、司の愛する人が産んだ子なら、たとえ血の繋がりはなくても愛せる。
そんな男になったのは、つくしがいたからでしょう。
そして娘の中に妻を感じていることでしょう。
花嫁姿の暁子を見た司は、きっと泣くはずです。
暁子!お嫁に行くまでお父さんを大事にしてね!
アカシアdot 2021.04.19 20:57 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2021.04.19 22:29 | 編集
と****マ様
こんばんは^^
暁子は真実を知ったとき、いろいろ葛藤があったと思います。
でも全てを飲み込んで司が父親だと言いました。
血が繋がらなくても、これまで生きて来た人生の中で司からの愛を常に感じていたのでしょうね。
えっ!司の先妻が気になる(^^;)
道明寺ブランドよりも自分の気持ちに正直な人だったようです。
今年のGWも自粛ですねぇ。来年の春こそは!本当にそう願います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.04.22 21:28 | 編集
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