司は手に持っていた写真立てを机に置いた。
「一体誰がそんなことを?」
そう言った司に娘は手にしていた鞄の中から茶封筒を取り出した。
「これ。吉岡先生から受け取ったの」
吉岡は道明寺家の顧問弁護士だ。
「先生、お母さんから手紙を預かっていたって…..私が大学を卒業して社会人になることが決まったら渡して欲しいって言われていたって…..」
司は娘から差し出された茶封筒を受け取ったが、その封筒の中に、さらに白い封筒が入っていた。その中から取り出した便箋は5枚。目を落としたそこに書かれた懐かしい文字は『暁子へ』という書き出しで始まっていた。
『あなたに話しておきたいことがあります。
本当ならあなたが社会人として独り立ち出来たとき、私自身の口から話すつもりでした。
でも私に残された時間は少なくなりました。だから手紙を書きます。
暁子。驚くかもしれませんが、あなたがお父さんと呼ぶ道明寺司は、あなたの本当の父親ではありません…….』
司は、そうか….と息をついた。
そして妻が、自分が余命いくばくも無いことを覚悟したとき、この手紙を書いたことを知った。
それは司が本当の父親ではなく養父だと娘に告げる手紙。
だが司にも覚悟は出来ていた。いつかは本当のことを話さなければならないということを。
そのいつかは、娘がフランスの大学を卒業して日本に戻って来た時と決めていた。
そしてその日は父と娘という関係が壊れる日になるのではないか。
娘がこれまで疑うことなく父親だと信じていた司に対しての信頼が崩れてしまう日になるのではないか。娘自身がこれまで疑うことがなかったアイデンティティを壊してしまう日になるのではないかという思いがあった。だからその日が娘を傷つける日になると考えていた。
だが妻も同じタイミングで娘に告げることに決めたようだ。
そうだ。このキラキラとした輝きを持つ娘の命は司が生み出したものではない。
そしてこのことは、司と暁子の母親以外は知らない。だから母親が亡くなった今、そのことを知るのは司以外にいない。
『決して隠すつもりがあったのではありません。いつかは話さなければと思っていたことです。でも驚いたと思います。だってあなたは、お父さんのことが大好きなのですから』
手紙には、実の父親は暁子が生まれる前に病気で亡くなったこと。
そしてお腹に暁子の命が宿ったことを知ったとき司と出会ったこと。
その司とはかつて恋人同士だったが、事情があって別れたこと。
生まれた暁子の目は、司が自分を守ってくれるただひとりの父親として見ていたこと。
ふたりの兄たちは暁子が自分達の父親である司の娘だと思っていること。
血の繋がりがなくても司が暁子のことを実の娘以上の愛情を持って育てたことが書かれていた。
司は読みながら過去を思い出していた。
暁子の母親との結婚は司にとって二度目の結婚。
司が妻のつくしと出会ったのは高校生の頃。ふたりは恋におち将来を誓いあった。
だが人生は望んだ通りには行かない。ずっと結ばれていると思っていた糸は切れた。
司は家のため別の女性と結婚した。
だがその女性は好きな人が出来た。どうせあなたとは政略結婚ですから、と言って息子たちを置いて家を出て行った。
そして息子たちが小学生の頃、司は昔の恋人と再会した。それは今と同じ春。
教職に就いていた彼女は職場結婚した夫を病気で亡くしたばかりだった。
そんな彼女のお腹には亡くなった夫との間に新しい命が芽生えつつあった。そしてそのことを知るのは彼女だけだった。
司はそんな彼女と結婚したいと伝え、お腹の子供の父親になることを望んだ。
だから司と暁子の間に血の繋がりはない。
だが戸籍に記されている暁子の父親は司だ。
そして当時小学生だったふたりの息子たちも、母親は違えど妹が出来たことを喜んだ。
初め、どう接すればいいのか分からなかったが、赤ん坊の世話を焼き、義理の母である彼女にも懐いた。彼女のおかげで息子たちは、司の小学生時代とは違いまともな人間に育った。特に長男は今でも年の離れた妹のことを気にしていて、フランスに出張するたびに会っていた。
そして最後に書かれていたのは、『暁子。たとえ血の繋がりがなくても道明寺司があなたのお父さんよ。どんな時もあなたが一番だと言って愛情を注いでくれたのは、あなたを育ててくれたお父さんよ。それに天国にいるお父さんは、暁子が幸せに暮らしていることを喜んでいて、お父さんに感謝しているはずよ.....』
手紙を読み終えた司の目に熱い膜がかったが、娘がこの手紙を読み終えたとき、何を感じ何を思ったのかを感じ取ろうとした。
それに司は、何があっても暁子の父親として課せられた使命を果たすつもりでいる。
それは、妻が亡くなるときに約束をした、この世の災いの全てから娘を守るということ。
たとえ親子関係を否定されても、それだけは守ると決めていた。
だが、「お父さん……」と言って司を見つめる娘の目にあるのは以前と変わらない光り。
和らいだ表情の娘は、「手紙を読んだ時は驚いた。でも私のお父さんはお父さんひとり。私は道明寺司の娘。だから、これからもずっと私のお父さんでいて…. .私ね、そのことをお父さんに伝えに来たの。それにお母さんが私にこの手紙を残したってことは、お父さんも同じようなことを考えてるって思った。だってふたりは夫婦でしょ?夫婦って考えてることが似て来るって言うじゃない?だからお父さんに言われる前に伝えようって….私はお父さんとお母さんの娘だからって」と言って司の胸の中に飛び込んで来た。

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「一体誰がそんなことを?」
そう言った司に娘は手にしていた鞄の中から茶封筒を取り出した。
「これ。吉岡先生から受け取ったの」
吉岡は道明寺家の顧問弁護士だ。
「先生、お母さんから手紙を預かっていたって…..私が大学を卒業して社会人になることが決まったら渡して欲しいって言われていたって…..」
司は娘から差し出された茶封筒を受け取ったが、その封筒の中に、さらに白い封筒が入っていた。その中から取り出した便箋は5枚。目を落としたそこに書かれた懐かしい文字は『暁子へ』という書き出しで始まっていた。
『あなたに話しておきたいことがあります。
本当ならあなたが社会人として独り立ち出来たとき、私自身の口から話すつもりでした。
でも私に残された時間は少なくなりました。だから手紙を書きます。
暁子。驚くかもしれませんが、あなたがお父さんと呼ぶ道明寺司は、あなたの本当の父親ではありません…….』
司は、そうか….と息をついた。
そして妻が、自分が余命いくばくも無いことを覚悟したとき、この手紙を書いたことを知った。
それは司が本当の父親ではなく養父だと娘に告げる手紙。
だが司にも覚悟は出来ていた。いつかは本当のことを話さなければならないということを。
そのいつかは、娘がフランスの大学を卒業して日本に戻って来た時と決めていた。
そしてその日は父と娘という関係が壊れる日になるのではないか。
娘がこれまで疑うことなく父親だと信じていた司に対しての信頼が崩れてしまう日になるのではないか。娘自身がこれまで疑うことがなかったアイデンティティを壊してしまう日になるのではないかという思いがあった。だからその日が娘を傷つける日になると考えていた。
だが妻も同じタイミングで娘に告げることに決めたようだ。
そうだ。このキラキラとした輝きを持つ娘の命は司が生み出したものではない。
そしてこのことは、司と暁子の母親以外は知らない。だから母親が亡くなった今、そのことを知るのは司以外にいない。
『決して隠すつもりがあったのではありません。いつかは話さなければと思っていたことです。でも驚いたと思います。だってあなたは、お父さんのことが大好きなのですから』
手紙には、実の父親は暁子が生まれる前に病気で亡くなったこと。
そしてお腹に暁子の命が宿ったことを知ったとき司と出会ったこと。
その司とはかつて恋人同士だったが、事情があって別れたこと。
生まれた暁子の目は、司が自分を守ってくれるただひとりの父親として見ていたこと。
ふたりの兄たちは暁子が自分達の父親である司の娘だと思っていること。
血の繋がりがなくても司が暁子のことを実の娘以上の愛情を持って育てたことが書かれていた。
司は読みながら過去を思い出していた。
暁子の母親との結婚は司にとって二度目の結婚。
司が妻のつくしと出会ったのは高校生の頃。ふたりは恋におち将来を誓いあった。
だが人生は望んだ通りには行かない。ずっと結ばれていると思っていた糸は切れた。
司は家のため別の女性と結婚した。
だがその女性は好きな人が出来た。どうせあなたとは政略結婚ですから、と言って息子たちを置いて家を出て行った。
そして息子たちが小学生の頃、司は昔の恋人と再会した。それは今と同じ春。
教職に就いていた彼女は職場結婚した夫を病気で亡くしたばかりだった。
そんな彼女のお腹には亡くなった夫との間に新しい命が芽生えつつあった。そしてそのことを知るのは彼女だけだった。
司はそんな彼女と結婚したいと伝え、お腹の子供の父親になることを望んだ。
だから司と暁子の間に血の繋がりはない。
だが戸籍に記されている暁子の父親は司だ。
そして当時小学生だったふたりの息子たちも、母親は違えど妹が出来たことを喜んだ。
初め、どう接すればいいのか分からなかったが、赤ん坊の世話を焼き、義理の母である彼女にも懐いた。彼女のおかげで息子たちは、司の小学生時代とは違いまともな人間に育った。特に長男は今でも年の離れた妹のことを気にしていて、フランスに出張するたびに会っていた。
そして最後に書かれていたのは、『暁子。たとえ血の繋がりがなくても道明寺司があなたのお父さんよ。どんな時もあなたが一番だと言って愛情を注いでくれたのは、あなたを育ててくれたお父さんよ。それに天国にいるお父さんは、暁子が幸せに暮らしていることを喜んでいて、お父さんに感謝しているはずよ.....』
手紙を読み終えた司の目に熱い膜がかったが、娘がこの手紙を読み終えたとき、何を感じ何を思ったのかを感じ取ろうとした。
それに司は、何があっても暁子の父親として課せられた使命を果たすつもりでいる。
それは、妻が亡くなるときに約束をした、この世の災いの全てから娘を守るということ。
たとえ親子関係を否定されても、それだけは守ると決めていた。
だが、「お父さん……」と言って司を見つめる娘の目にあるのは以前と変わらない光り。
和らいだ表情の娘は、「手紙を読んだ時は驚いた。でも私のお父さんはお父さんひとり。私は道明寺司の娘。だから、これからもずっと私のお父さんでいて…. .私ね、そのことをお父さんに伝えに来たの。それにお母さんが私にこの手紙を残したってことは、お父さんも同じようなことを考えてるって思った。だってふたりは夫婦でしょ?夫婦って考えてることが似て来るって言うじゃない?だからお父さんに言われる前に伝えようって….私はお父さんとお母さんの娘だからって」と言って司の胸の中に飛び込んで来た。

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コメント
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真*様
血の繋がりはなくても、暁子の父親は司です。
何しろ暁子には甘々だった父親。
司がこれまで注いだ愛情という絆が切れることはありません。
え?海洋学者と御曹司のドラマですか?(*'▽')
....調べてみました。石原さんと綾野さんが主役なんですね!
ラブコメと書いてありましたが、どんなドラマなんでしょう。ちょっと気になります!
コメント有難うございました^^
血の繋がりはなくても、暁子の父親は司です。
何しろ暁子には甘々だった父親。
司がこれまで注いだ愛情という絆が切れることはありません。
え?海洋学者と御曹司のドラマですか?(*'▽')
....調べてみました。石原さんと綾野さんが主役なんですね!
ラブコメと書いてありましたが、どんなドラマなんでしょう。ちょっと気になります!
コメント有難うございました^^
アカシア
2021.04.16 22:11 | 編集

ま**ん様
色々浮かんだ?マーク。理解していただけて良かったです。
司は間違いなく素敵なお父さん!
そう言われて司も喜ぶと思います。
そしてこの続きはどうなるのか.....
はい。この続きは明日デス(^^)/~~~
コメント有難うございました^^
色々浮かんだ?マーク。理解していただけて良かったです。
司は間違いなく素敵なお父さん!
そう言われて司も喜ぶと思います。
そしてこの続きはどうなるのか.....
はい。この続きは明日デス(^^)/~~~
コメント有難うございました^^
アカシア
2021.04.16 22:19 | 編集
