「….アンタは分かってない…….アンタは知らないのよ」
さっきまで威勢が良かった女性の声はトーンが落とされ呟くような声になっていた。
「何が分かってない?何を知らない?」
男性は下を向いた女性に言った。
「牧野。いいか?俺は好きでアメリカ女と結婚したんじゃない。
それに俺とあの女との結婚話が持ち上がったとき、あの女と結婚しろといったのはお前だ。そう言ったお前は俺と会うことを拒んだ。…….牧野。何で俺と別れると言った?10年経っても結婚できなかったからか?俺が待たせ過ぎたからか?いや。お前は結婚に拘る女じゃない。だから牧野。何故俺から逃げたか理由を教えてくれ」
その問いかけに女性は顏を上げた。
そして男性の顏を見つめ、「ねえ」と言ってから話し始めた。
「私がアンタと別れた理由は言ったでしょ?私たちの出会いは運命じゃなくてただの腐れ縁だったって。それによく言うでしょ?10代の頃の恋愛なんて麻疹みたいなものだって。つまり私たちが10年も付き合ったのは麻疹の治りが遅かったからよ。だからアンタにあの女性との結婚の話が出て丁度よかったのよ。
それにアンタは自分の家が世の中に与える影響を知ってるわよね?うんうん、私が言うまでもなくアンタは自分の会社が大変なことになれば大勢の従業員の生活が立ち行かなくなることを知っている。でもアンタがあの女性と結婚すれば会社は存続される。だからアンタは私と別れてあの女性と結婚した方が良かったの」
「何がいいものか。あんな派手なアメリカ女のどこが良いって言うんだ。
だがな。うちの会社が粉飾決算で帳簿が真っ赤だと知ったときは正直頭を抱えた。何しろあのとき莫大な額の特別損失が明るみになって株価が暴落して自力では立っていられないほどになった。だがな。俺はあの女と結婚しなくても自分の力で会社を立て直す自信があった。
けど、お前が俺から離れたとき、母親はこれ幸いと、あの女の父親と結婚の話を進めた。
何しろあの女の父親は弱ったうちを買収しようとした。だから母親はうちの会社が買収されるくらいなら対等な関係でいられる姻戚関係を結ぶ方を選んだ。だが結局大した時間もかからず俺はあの女の父親から借りた金は利子も付けて全額返済した。うちの会社はあの女の父親の会社に呑み込まれることはなかった。逆に金を返すと同時に呑み込んでやった。今じゃあの女の父親の会社はうちの子会社のひとつに過ぎない。それにあの女も自分を抱かない亭主に興味はなかった。他に男を作っていた。だから別れるのは簡単だった」
女性は男性が裕福な家の息子だと言っていたが、どうやら男性の家が経営する会社は経営危機を迎えた頃があったようだ。だから男性の母親は会社を救うために息子に別の女性と結婚することを迫った。そして男性も一時とは言え母親の言葉に従わざるを得ない状況にあったのだろう。耐えるしかない時間があったのだろう。だが男性は苦境を脱する力を持っていたようだ。
「それからよく訊け。俺たちの出会いは運命以外の何ものでもない。
だから俺はその運命を断ち切ることは絶対にしない。お前がどこにいたとしても俺はお前を諦めないことに決めた。だから俺と結婚してくれ」
私は女性と一緒に男性の思いを聞いていた。だが、赤の他人の私がこのままここで非常にプライベートな話を訊いているのは如何なものかと思った。
だから静かに立ち上ると店の外に出ようとした。すると「いいの。ここに居てちょうだい」と女性から言われた。だが男性はどうなのか。だから私は男性を見た。すると「こいつがいいと言うなら構わない」と言われた。
とは言え私の方が困る。何しろふたりの間に流れる空気は、いや、流れるというようにも漂う空気はピリピリとしているからだ。
「何度も言うけど私はアンタと結婚しない」
「だから何でだ?」
「何でって理由はこれまでも言った通り。私とアンタは結ばれる運命にないからよ」
「違う。お前はアンタは分かってない。アンタは知らないって言った。それがお前の得意なひとり言だったとしても俺は確かに訊いた。なあ、牧野。俺が知らない何かがあるなら教えてくれ。どうして俺と結婚できないか教えてくれ」

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さっきまで威勢が良かった女性の声はトーンが落とされ呟くような声になっていた。
「何が分かってない?何を知らない?」
男性は下を向いた女性に言った。
「牧野。いいか?俺は好きでアメリカ女と結婚したんじゃない。
それに俺とあの女との結婚話が持ち上がったとき、あの女と結婚しろといったのはお前だ。そう言ったお前は俺と会うことを拒んだ。…….牧野。何で俺と別れると言った?10年経っても結婚できなかったからか?俺が待たせ過ぎたからか?いや。お前は結婚に拘る女じゃない。だから牧野。何故俺から逃げたか理由を教えてくれ」
その問いかけに女性は顏を上げた。
そして男性の顏を見つめ、「ねえ」と言ってから話し始めた。
「私がアンタと別れた理由は言ったでしょ?私たちの出会いは運命じゃなくてただの腐れ縁だったって。それによく言うでしょ?10代の頃の恋愛なんて麻疹みたいなものだって。つまり私たちが10年も付き合ったのは麻疹の治りが遅かったからよ。だからアンタにあの女性との結婚の話が出て丁度よかったのよ。
それにアンタは自分の家が世の中に与える影響を知ってるわよね?うんうん、私が言うまでもなくアンタは自分の会社が大変なことになれば大勢の従業員の生活が立ち行かなくなることを知っている。でもアンタがあの女性と結婚すれば会社は存続される。だからアンタは私と別れてあの女性と結婚した方が良かったの」
「何がいいものか。あんな派手なアメリカ女のどこが良いって言うんだ。
だがな。うちの会社が粉飾決算で帳簿が真っ赤だと知ったときは正直頭を抱えた。何しろあのとき莫大な額の特別損失が明るみになって株価が暴落して自力では立っていられないほどになった。だがな。俺はあの女と結婚しなくても自分の力で会社を立て直す自信があった。
けど、お前が俺から離れたとき、母親はこれ幸いと、あの女の父親と結婚の話を進めた。
何しろあの女の父親は弱ったうちを買収しようとした。だから母親はうちの会社が買収されるくらいなら対等な関係でいられる姻戚関係を結ぶ方を選んだ。だが結局大した時間もかからず俺はあの女の父親から借りた金は利子も付けて全額返済した。うちの会社はあの女の父親の会社に呑み込まれることはなかった。逆に金を返すと同時に呑み込んでやった。今じゃあの女の父親の会社はうちの子会社のひとつに過ぎない。それにあの女も自分を抱かない亭主に興味はなかった。他に男を作っていた。だから別れるのは簡単だった」
女性は男性が裕福な家の息子だと言っていたが、どうやら男性の家が経営する会社は経営危機を迎えた頃があったようだ。だから男性の母親は会社を救うために息子に別の女性と結婚することを迫った。そして男性も一時とは言え母親の言葉に従わざるを得ない状況にあったのだろう。耐えるしかない時間があったのだろう。だが男性は苦境を脱する力を持っていたようだ。
「それからよく訊け。俺たちの出会いは運命以外の何ものでもない。
だから俺はその運命を断ち切ることは絶対にしない。お前がどこにいたとしても俺はお前を諦めないことに決めた。だから俺と結婚してくれ」
私は女性と一緒に男性の思いを聞いていた。だが、赤の他人の私がこのままここで非常にプライベートな話を訊いているのは如何なものかと思った。
だから静かに立ち上ると店の外に出ようとした。すると「いいの。ここに居てちょうだい」と女性から言われた。だが男性はどうなのか。だから私は男性を見た。すると「こいつがいいと言うなら構わない」と言われた。
とは言え私の方が困る。何しろふたりの間に流れる空気は、いや、流れるというようにも漂う空気はピリピリとしているからだ。
「何度も言うけど私はアンタと結婚しない」
「だから何でだ?」
「何でって理由はこれまでも言った通り。私とアンタは結ばれる運命にないからよ」
「違う。お前はアンタは分かってない。アンタは知らないって言った。それがお前の得意なひとり言だったとしても俺は確かに訊いた。なあ、牧野。俺が知らない何かがあるなら教えてくれ。どうして俺と結婚できないか教えてくれ」

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コメント
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司*****E様
こんばんは^^
え~こちらのお話は短編なのでサクサク進みます(^^)/
三足千円の靴下が話題に上っていますが、司がそんな靴下を履いているのも、つくしの店で売っているからですが、足しげく通う男は結婚を拒否され続けているようです。
その理由は次のお話で....
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
え~こちらのお話は短編なのでサクサク進みます(^^)/
三足千円の靴下が話題に上っていますが、司がそんな靴下を履いているのも、つくしの店で売っているからですが、足しげく通う男は結婚を拒否され続けているようです。
その理由は次のお話で....
コメント有難うございました^^
アカシア
2021.03.21 20:39 | 編集
