FC2ブログ
2021
03.16

Transit 6

Category: Transit(完)
「その通りだ。俺はアメリカ女と結婚してからも牧野つくしが好きだった。それに俺は好きであの女と結婚したんじゃない。それなのにお前は俺とのことを腐れ縁だと言って切り捨てた。だから俺は好きな女に捨てられた哀れな男だ」

私は話に割って入った声がした方を見た。
するとそこには背の高い男が立っていた。
しかし、声の主である男の顏は逆光中の黒い影になっていてよく分からなかった。
だが男が店の中に入って近づいてくると、その容貌がはっきりした。
背の高い男は、日本人離れしたハッキリとした顔立ちで癖のある髪をしていた。
その顏に浮かんでいるのは厳しさで、ほかの表情を想像することは出来なかった。
つまりそれは、笑顔を想像するのが難しい顏をしているということ。
そして、ひと目見て分かる仕立てのいいスーツを着ていた。

「それに誰が三足千円の靴下を履かない男だって?いいか。俺が今日履いている靴下はこの店で売られている三足千円の靴下だ。それに俺がどれだけこの店の売り上げに貢献しているか、お前も分ってるはずだ。何しろうちにはここで買った靴下が山のようにある。だから俺は毎日この店で買った三足千円の靴下を履いている。だが毎日履いたとしても、俺の人生が終わった後には履かれなかった靴下が大量に残っているはずだ」

私は男性のその言葉に女性がスッと目を細めたのを見た。
そして女性は臨戦態勢に入ったように立ち上った。

「何よ?アンタまた来たの?こんな田舎まで来る時間があるなら仕事したら?それともよっぽど暇なのかしらね?」

「暇だろうが暇じゃなかろうがお前に関係ない。それにお前に言われなくても仕事はちゃんとしている」

「へえ。そう……ま、アンタが仕事をしようがしまいが私には関係ない。それに三足千円の靴下をバカにしないでくれる?うちの靴下は丈夫なの!長持ちするの!だからここに買い物に来てくれる主婦は喜んで買ってくれる靴下なの!誰もがアンタみたいにシルクの靴下を履けると思わないでよね!」

「ああ。はっきり言って俺はシルクの靴下の方が好きだ。それは履き心地がいいからだ。だが言っただろ?今の俺はこの店で買った靴下を履いてるってな」

「あ、そうですか。それはありがとうございます。でもね。アンタの癖はうちの靴下を履いたからって治らないわよ。そうよ。アンタは脱いだ靴下を洗濯籠に入れるんじゃなくてカタツムリみたいに丸まったままソファの下に隠すのよ!」

「おい、言っとくがあれは隠したんじゃない!」

「じゃあなんでいつもソファの下に靴下があったのよ?」

「そりゃあソファに座って靴下を脱ぐからだろうが」

「じゃあ脱いだらすぐに洗濯籠まで持って行けばいいでしょ?」

「リラックスしてたら忘れるんだ。それにソファの下に靴下があるのは、床を掃除するロボットが押し込んだんだ!」

「へぇ….ロボットが靴下をソファの下に押し込んだんですか。そうですか。そうですか」

「牧野……」

「何よ!」

「俺と結婚してくれ」

私は言い合いが始まった途端、男性が女性の昔の男、つまり遠距離恋愛の末に別れた元恋人であることを理解した。
そして、目の前で交わされている反論合戦に耳を傾けていた。
その反論合戦の内容は三足千円の靴下の話だが、どちらが有利な戦いをしているのかと言えば女性の方だ。
だが、その女性も男性が唐突に口にした「結婚してくれ」の言葉に口を閉ざすと下を向いた。




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2021.03.16 05:50 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2021.03.17 20:52 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2021.03.17 22:48 | 編集
ふ*様
カタツムリ靴下があちこちから発掘される!(≧▽≦)
分かります。そうですよね。イライラしますよね。
特に埃まみれの靴下の片方が発見された時は、なんとも言えない虚しさを感じますよねえ。
洗濯するためには埃を取って….でもいつの靴下か分からないから臭いも変化しているようで別洗いした方がいいかも?と考えてみたり、家族だからこそ家庭内ルールは守ってもらわなきゃですよね?
さて、この司は靴下をどうしていたのかと言えば….ん(笑)どうやらソファの下にあったことが多いようです。
そんな司にイライラしていたつくし。一緒にいる時間が増えると色々ある!という事ですね(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.03.18 22:48 | 編集
か***ち様
彼、昔から強引でしたよね。
でも強引さの中に優しさが感じられるんですよねえ。
それに坊っちゃん、つくしにだけは弱いので強引ながらも最後の最後で折れる男なんですよねえ。さて。こちらの坊っちゃんはどうでしょう?(´艸`*)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.03.18 22:54 | 編集
ふ**ん様
カタツムリ。旦那だと許せん(笑)
ちゃんと洗濯籠に入れろ!と言いたいですよね。
アカシアも片方だけ残った靴下を見つけた時にはムッとします。
そしてワンコのルンバ!(笑) 確かにお気に入りの靴を隠すワンコの様ですね。
昔、飼っていた犬は何故か洗濯仕立ての靴下が大好きで咥えて逃げていました。
そしてなかなか返してもらえませんでした。

司が三足千円の靴下を履く!
ええ、履きますよ。何しろつくしの店で売ってるんですもの。
そして恐らく何度目かのプロポーズの最中に全く無関係の人間がいるんですけどねえ。
司にしてみれば、そんなの関係ねぇ!ってことでしょうかねぇ。(*’▽’)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.03.18 22:59 | 編集
ふ*******マ様
こんばんは!
睡魔が襲ってくる時間。
もちろんあります。やはり食事をした後が多いですねえ。
そして入浴中!これ気を付けないと溺れます(笑)
お風呂で目を閉じると眠くなるんです。そしてそのままズルズルと浴槽に滑り落ちそうに…..。
口まで浸かった所で気付くことになるんですが、危ないです。本当に危険です。

さて。お話。つくしらしく、たくましく生きていたことにホッとされたんですね?
そして杏子ちゃんの隣で(・_・D フムフムと訊いていたんですね(≧▽≦)
え?切符が挟まっていた本ですか?杏子ちゃんがどんな本をお好みなのか…リフレッシュ出来る本だったのではないでしょうか(笑)
さて。司は、つくしに邪険にされても足しげく地方の下着屋に通っているようです。
そして三足千円の靴下を大量に買っているようです。応援してあげて下さいね!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.03.18 23:09 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top