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2021
03.12

Transit 4

Category: Transit(完)
私は親近感を覚えた下着屋の店長が、かつて道明寺の広告会社で働いていたことに驚いた。
何しろ道明寺は多種多様な事業を傘下に持つ財閥企業だ。
だから専属の広告会社も親会社と同じ多種多様な広告事業を扱う。それは大きな仕事を幾つも手掛けるということであり、デザイナーの私にすれば羨ましいと思える状況だ。
それに、先日も道明寺不動産が手掛けた都内に新しく出来る商業施設のポスターを羨ましく眺めたばかりだ。
そして、あの会社に入るのは業界最大手と呼ばれる総合広告代理店と同じくらい難しいと言われている。一流という言葉が頭の中に浮かぶ会社だ。それなのに何故辞めたのか。

「あの。牧野さん。どうして会社を辞めたんですか?」

それは自分には手の届かなかった会社を辞めた人間に対して出た勿体ないという思い。
だからどんな理由で辞めたのか知りたくなった。
だが初対面の人間に何故会社を辞めたかなど本来なら訊くべきではない。
それに他人のプライバシーを詮索してはならないと分かっている。だが、思わず訊いていた。
すると彼女は屈託のない笑顔を浮べて言った。

「東京に居たくなかったから」

「え?」

「東京から離れたかったの。だからあの会社を辞めて転職することにしたの。
それで、なんだかんだで気付いたらこの町にいたの。それから、この店のシャッターに社員募集中って張り紙がしてあるのを見てここで働くことにしたの。だって食べて行かなきゃならないでしょ?」

と言った彼女は、それは自分でも信じられないほど突拍子もない行動だったと言った。
そして、おかしいでしょ?という風に笑ったが、私は会社を辞めた理由が東京から離れるためだということに、彼女は何故そんなに東京を離れたかったのか訊いてみたいと思った。
だから他人のプライバシーを詮索してはならないと思いつつも再び訊いていた。

「あの…..どうして東京から離れたかったんですか?いえ、言いたくなかったらいいんです。でも私にしてみれば、あなたが辞めた会社は私の憧れの会社だったんです。入りたかった会社なんです。だから東京を離れるために辞めたのは勿体ないという思いがして….」

すると私の質問に彼女は、ほんの少しだけ間を置いて、「昔の男が帰国してくることが決まったから」と言った。

「…..昔の男?」

「そう。昔、私と付き合ってた男。その男がアメリカから帰国することが決まったから東京を離れたの」



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コメント
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dot 2021.03.13 20:02 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
そうですよね。POPは商品を選ぶ決め手となることがあると思います。
そして、同じような商品が沢山あれば尚更そのひと言でソレを買おうという気になります。
と、なると書き手のセンスが問われますよねえ。
対象物が何であれ、まず手に取ってもらうところから。 手を伸ばしてもらうにはどうすればいいか。
言葉選びに頭を悩ませますよね(^^;)

さて杏子さん。
初対面の人に失礼と思いつつも訊いてしまう。
つくしの話しやすい雰囲気がそうさせるのでしょうねえ。
昔の男との話。訊いてみましょう。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2021.03.14 06:52 | 編集
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