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2021
01.09

扉のない部屋 4

監視カメラが映し出した女の服装はパンツスーツ。そして背中にリュックを背負っている。
それは車の窓越しに見た時と同じだった。
司は牧野つくしの行動を調べた。

女は大学の理数系教科書や参考書を出している小さな出版社で編集の仕事をしている。
今、担当しているのはドイツの物理学者が書いた宇宙線に関する著書を日本の物理学者が日本語に翻訳して本にすること。
そしてもうひとつは、大学教授に小学生向けの物理読み物風の本を書いてもらうこと。
その大学教授の家は司の邸の近くにあり、女は原稿を受け取るため毎晩同じ時刻に司の家の傍を通っていた。
だが何故毎日教授の家に通うのか。それは教授と呼ばれる男がテレビ出演や講演会で忙しく執筆作業が捗らないためだ。だから少しでもいいから原稿を書いてもらうために毎日自転車で教授の家に足を運んでいた。

司は牧野つくしの生活パターンを知ると、洋館の近くに設置された邸の周りを監視するカメラを高性能の物に変えた。
すると、程なく女が乗っている自転車がカラカラと音を立て始めた。
それはどこかに異常があるということ。いや。明らかに壊れている。いや。壊れる前なのかもしれない。しかし忙しい女は修理することもなければ買い替えることもせず1ヶ月が過ぎた。
そして司はこの1ヶ月、祖父が残した道具の手入れをしていた。
絵を描くことを趣味としていた祖父。だがそれはおぞましく暴力的な光景が描かれた絵。
それらの絵を描くために祖父が用意した道具は机の引き出しに几帳面に並べられ司が使うのを待っていた。


ある日の夜。
いつものように自転車に乗った牧野つくしは、大学教授の家からの帰り司の邸の傍を通りかかった。
だがちょうどその時、彼女の自転車は動かなくなった。

「どうしよう…..チェーンが切れたのかしら…..」

高性能の監視カメラは聞えるか聞こえないほどかすかな女の呟きを拾った。
司の邸がある場所は都心ではない。それにこのあたりに商業を営む店はない。
それにいくつもの街灯がある高級住宅地とはいえ夜道に危険性はつきものだ。
女は自転車を街灯の下に止め、背中からリュックを降ろし携帯電話を取り出した。
そして画面に指を走らせようとしていた。




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コメント
s**p様
新年のご挨拶ありがとうございます!(≧▽≦)
ええっと、こちら一応短編なんですが長編ぽいですか(笑)
それにしても、こんな司にロックオンされた女。どうなるのでしょう。
なんだか黒い空気が漂っています|д゚)
アカシアdot 2021.01.10 21:24 | 編集
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