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2020
11.27

Love Affair 25

新作シューズの発表会は、会社が道明寺グループの企業になったことでメープルの部屋を貸切られて行われた。
だから、つくしが走っているのは本来なら静かなホテルの館内。
だが今は男と女の声がうるさいほど響いていた。

「牧野!待て!」

「嫌よ!待たない!」

設備管理部の男性従業員は館内設備の点検のため廊下にいたが、突然後ろから聞こえて来た大きな声と足音に何事かと振り返った。
するとそこには自分の方に向かって必死な表情で駆けて来る女性の姿があった。
だから従業員は何事かという思いで「お客様。どうかなさいましたか?」と声をかけようとした。だが女性は「どいて!」と言うとあっという間に自分の隣を通り過ぎた。そして角の向うからもうひとりが駆けて来たが、その人物も「どけ!」と言ってあっという間に自分の横を通り過ぎた。

メープルは高級ホテルで宿泊客は一般的なホテルとは違い裕福な人間ばかり。
だから男性従業員はこれまで廊下を走り回るような客を見たことがなかった。
だからこそ館内を走る男女の姿に何かあったのではないかと思った。
それにふたりの関係が分からなくても女性が男性から逃げていることは一目瞭然だ。
だからこれはただごとではないと感じ携帯電話を取り出すと保安部に連絡をした。

「もしもし?施設管理部の森です。7階の廊下を走る男女がいます。
どうやら女性は男性から逃げているようで、何かトラブルでもあったように感じられます」

しかし聞こえてきたのは、「了解しました。ですがそちらの男性は問題ありません。男性は道明寺副社長です」
ここは道明寺グループのホテルだ。だから保安部の人間は副社長が自分の持ち物であるホテルの館内を走り回っても問題ないと言っていた。だから森も「そうか。副社長はお忙しい方だ。女性の後を追いかけてまでされる仕事があるということか」と納得していた。






***





いくら広いホテルとは言え、いずれ逃げても捕まることは目に見えていた。
つくしは非常階段の扉を開け、下へ駆け降りていたが2階分降りた踊り場で腕を掴まれ男に捕まった。
そして壁を背に男と対峙していた。

「何なのよ?人のこと追いかけて回して迷惑なのよ。それに大体あんたは昔からしつこいのよ!」

「ああ。俺はしつこい男だ。お前がどこへ行こうと追いかけて行くと言ったはずだ。そこが例え地獄だろうとお前がいる場所ならそこへ行く!俺はお前のことが好きなんだからな」

「お生憎様。私は地獄へ行く予定はないわ。私は死んだら天国に行くの!」

「地獄はものの例えだ。お前が天国に行くなら俺も天国へ行く!それにお前がいる場所が俺のいる場所だ」

「残念でした!あんたは過去の極悪非道が祟って天国には入れてもらえないわ!」

「地獄の沙汰も金次第だ。俺は金を積んでもお前について行く!」

「無理よ!地獄ならあんたの金も物を言うかもしれないけど、天国の神様はあんたの金を受け取らないわ!」

「受け取らねえって言うなら押し付けてやる。それはお前に対しても同じだ。俺は牧野つくしがいない人生は考えられない。嫌でも俺を受け取ってもらう。だから俺はお前が俺を受け入れてくれるまで愛人でもいいからお前の傍にいる。俺は絶対にお前の傍を離れない。あのとき、船から降りたときお前の手を掴むことが出来なかったが、今はここでこうしてお前をしっかりと掴んで離さないと誓える」

司は何とか自分の気持ちを分かってもらいたい一心で牧野つくしの心の入口を探していた。
だが硬い表情をした女の心の入口は簡単には見つからなかった。
そして彼女が少し間を置き諭すように言ったのは過去の出来事。

「ねえ。よく訊いて。たとえ私があんたを受け入れたとしても、あんたのお母さんは許してくれないわよ?あんたは道明寺財閥の道明寺司として生きることが決められている。敷かれたレールを外れることが許されない人間なの。だからお見合いを断ったとしてもまた次の話を持ってくるわ」

あの頃。二人が付き合いを始めるにあたって母親のことが一番の問題だった。
司の母親は息子をビジネスと道具と考えていた。だから牧野つくしとの交際を認めなかった。そして見合い相手を連れてきて二人の仲を裂こうとした。
だがそのことが牧野つくしの口から出たということは、母親のことが解決すればいいということなのか。
それに牧野つくしという女は真っ直ぐな人と成りであるから、真摯に向き合えば司のことを受け入れるはずだ。だがあの頃と違い大人になった女はかなり手強い。
それでも、司はなんとしても彼女を手に入れたい。そんな司は過去の彼女との経験から心と言葉は裏腹な部分があることも知っている。

「牧野。俺は道明寺から離れることが出来ない。お前の言った通り敷かれたレールを走る男だ。だがな。敷かれたレールを自分仕様に変えることは出来る。だから今の俺が走っているのは敷かれたレールであっても決められたレールじゃない。俺は自分の考えでビジネスをしている。決して母親の言いなりじゃない」

敷かれたレールを自分仕様に変える。
それは容易なことではなかった。だが司は親の言いなりに物事を進める男ではない。
だから気の迷いで受けることにした見合いも結局断った。そして司は牧野つくしのことを思い出したのだ。

「ロードやトラックを走るランナーにはゴールがある。だが経営者にはゴールがない。その立場は常に闘うことが求められる孤独な戦士だ。けど俺はお前のことを思い出すまで孤独とは思わなかった。それに誰かに傍にいて欲しいと思ったことはなかった。だがお前のことを思い出してから、お前が俺の傍にいないことが苦しい。さっきは感情的になっちまったが、この思いは本当だ」

司はそこまで言うと、ひと呼吸置いた。
そして静かに自分を見つめる女に言った。

「お前の所のシューズはアスリートを支えている。それと同じでお前が俺の傍にいてくれるなら俺はその孤独から解放される。だから牧野。もう一度俺と恋愛をしてくれ」




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コメント
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dot 2020.11.27 07:45 | 編集
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dot 2020.11.27 23:52 | 編集
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dot 2020.11.28 09:50 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
かつて逃げ足の早さが自慢だった女も捕まりました。
非常階段の踊り場で対峙するふたり。
言いたいことは言うというスタンスの女ですが相手は司ですからねえ。
え?ほだされる?(´艸`*)さあ.....どうなるのでしょう。
絶対にあきらめない男の思いは伝わるのでしょうかねえ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.11.30 21:59 | 編集
ふ**ん様
どんなに強いと言われる司でも、たったひとつ弱みがあるとすれば、それはつくし。
惚れた弱みで相手に強く出ることが出来ないとしても、それでもなんとか…..
さあ、司はつくしの心の扉を開くことが出来るのでしょうかねえ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.11.30 22:01 | 編集
司*****E様
司の切実な思いにつくしはほだされるのでしょうか。
イエスと言ってくれるのでしょうか。
そしてつくしは楓さんのことを気にしているようですが、ふたりとももう子供じゃありませんからね。司の気持ちが伝わるといいのですが…..
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.11.30 22:04 | 編集
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