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2020
11.22

Love Affair 24

Category: Love Affair
立ち上った男はマイクを手に会場の一番後ろにいるつくしに視線を向けた。
そして暫く見つめた後、記者たちに視線を向けた。

「わたくし事ですがお話したいことがあります。これは私の人生にかかわる話ですがご興味のある方はどうぞそのままお座り下さい」

その言葉に会場はざわついた。
道明寺司が自らの人生にかかわる話をマスコミの前で語る。
ビジネスに関してのインタビューは受けたことがあっても、自らについて語ることのなかった男は一体何を話すというのか。もしかするとこれは大きな記事になるかもしれない。ここにいる誰もがそう思った。だから発表会が終っても立ち上がる記者はいなかった。そして一体何が語られるのかと固唾を飲んだ。
だが進行役の広報課長は副社長の突然の行動に慌てた。しかし男が喋り出すと静かに一歩後ろへ下がった。

「皆さんはジョナサン・テイラー氏の話をどう思われましたか。
彼は大切な家族が病を患ったことで競技から離れる決断をして家族の傍に寄り添った。
そして家族が病を克服した後に競技に戻ることにした。それは彼の家族にとっても非常に喜ばしいことでしょう。何故なら家族は自分のために彼が競技生活を諦めることほど辛いことはありませんから。しかし、どんな時も家族は自分を支えてくれる。そして自分の存在が家族を支えている。それが家族の在り方であり彼の考え方です。だから競技に復帰したのは自分のためでもあり家族のためでもある。そして家族の愛が無償の愛だとしてもそれに甘えることなく、共に支え合い一方通行にならないところがジョナサン・テイラー氏の家族の素晴らしいところです。私はそんなテイラー氏の家族に憧れます」

そこまで言った男は記者たちに向けていた視線をつくしに向け言葉を継いだ。

「私は好きな女性がいます。その女性は高校生の頃に恋をした初恋の女性です。私は彼女と結婚したいと思いました。しかし私たちは諸般の事情により数ヶ月付き合っただけで別れてしまいました。ですが再会をして私は今でも彼女のことが好きであることに気付きました」

男の口から語られた好きな女性がいる。
そしてその女性は高校生の頃の初恋の人。
記者たちは、まさかそんな話がここで訊けるとは思ってもいなかった。だから皆、色めき立った。
何しろ道明寺司と言えば若い頃から女性にモテた。それは英徳だけに限らなかった。
それに男が道明寺財閥の後継者でなくても、男には人を惹き付ける何かがあった。立っているだけで絵になる男は振り切ったかっこよさがあった。そして男は高校を卒業すると進学のため渡米したが、男に向けられる視線はどこにいても変わらなかった。
やがて年齢を重ねた男の周りには最高の美女と呼ばれる女たちがいた。そんな男の口から語られたのは高校生の頃に出会った初恋の女性に再会してあの頃の恋心が甦ったということ。
そしてその前に語られたジョナサン・テイラーの家族に憧れているという言葉の意味は、道明寺司はその女性と結婚したい。家族を持ちたいということなのか。

「あのう……それは週刊誌の一緒に写っていた女性でしょうか?」

女性の記者が躊躇いながら訊いた。

「そうです。皆さんの中には御覧になられた方もいらっしゃると思いますが、ある週刊誌に私が女性と一緒にいる写真が載りました。その女性こそ私の初恋の女性です。そして今でも好きな女性です。学生時代に彼女と出会ったのは運命でした。私は彼女と初めて会った日のことを昨日のことのように覚えています。つまり私はどんなに時間が経っても彼女のことを忘れたことはなかったということです」

つくしに向けられていた視線は記者の質問に答える時だけ外されていた。
そして質問した女性記者は男から見つめられ頬を赤く染めボーっとした顏をしていたが、そのとき会場に声が響いた。「嘘つき!嘘ばっかり言わないでよ!」の声に記者たちはその声のする方へ一斉に振り向いた。
するとそこにいる小柄な女性が仁王立ちで道明寺司を睨んでいた。
そして今度は男が女性に向かって「何が嘘だ?俺は本当のことを言っている」と言った。
だから記者たちは男の方を向いたが女性から「私のことを忘れたことがなかったっていうけど、あんた私のことずっと忘れてたじゃない!」と声が飛び再び顏を女性に向けた。

そしてそこから先は男と女が言葉を発するたびに記者たちの顏はテニスの試合を観戦するように行ったり来たりしていた。

「牧野。いいか。よく訊け。俺がお前のことを忘れていたのはわざとじゃない。それに俺が刺されたのは事故だ。その後でお前のことを忘れたのは予期できなかった事故だ」

「そんなこと分かってるわよ!わざとだったら海ちゃんとイチャイチャしてたあんたのこと殺してたわ!」

「お前....俺を殺すだと?」と言って眉をひそめた男は「それは刺されたあの時、いっそのこと死んでいればよかったってことか?」と言葉を継いだ。

「ええ。そうよ。その方が世の中のためになったかもね?だってあんたは暴君だったもの!だからあんたが死んだら喜ぶ人が大勢いたはずよ!」

「テメェ……」

「ほら見なさいよ。いい年をした大人の男が女性に向かってテメェって何よ?結局あんたは今でも暴君なのよ!人の会社を買収する。配置転換する。住むところも勝手に決める。人の人生を何だと思ってるのよ?それに週刊誌に記事を載せたのはこの女は自分の物だって言いたかっただけでしょ?あんたは私のことを愛しているんじゃない。あの頃が懐かしいだけなのよ!だってそうでしょ?あんたは12年も私のことを忘れていたのよ?それなのに思い出した途端私のことが好きだなんておかしいじゃない!」

「おかしい?言ってみろよ?どこがおかしい?俺は自分の心に嘘をつくことはしない。
お前のことを思い出した瞬間。あの頃と同じでお前への愛が心の奥から湧き上がった。
だからお前にその思いを伝えようとしてる。それなのにお前はあの頃と同じように俺から逃げている。牧野。何故逃げる?何故俺と向き合おうとしない?」

「逃げる?人聞きの悪いこと言わないでくれる?いい?私は逃げてるんじゃないの。私はもうあんたのことを好きじゃない。だから拒否しているの!あんたとのことはもう終わったの。だから周りをうろつかれたら迷惑なのよ!」

「何が迷惑なものか!お前は今でも俺のことが好きだ。三条もあきらもそう言った。あのふたりはこれまでのお前のことを知っている。あいつらは牧野つくしは俺のことが好きだと言った!」

「あのふたりはあんたの味方なの。だからそう言うのよ!大体桜子は昔からあんたの考えに同調することが当たり前なのよ!」

「それにお前は俺の頭の中にあるお前の記憶と取り戻すために三条の会社から派遣されてきた女を演じた。そこまでして俺に思い出して欲しかったってことは俺のことを思っていたからだろ?」

「あのね。前も言ったと思うけど、“あの時”あんたのことを思っていたとしても、今はもう違う。私はあんたの提案を断ったとき、あんたのことは忘れることにしたの。あんたが私のことを忘れたようにね!」

会場の端と端で繰り広げられる口論。
そして睨み合う男と女。
ふたりの間にいる記者たちは道明寺司に向かって“あんた”と言うことが出来る女性の名前が牧野つくしだと知った。だから彼らは自分達が手にしている通信端末を用いて彼女の情報を手に入れようとした。
だが「牧野つくし」と入力して出て来たのは、この会社の広報課にいる女性だということだけでそれ以上の情報は出てこなかった。ということは、道明寺司の初恋の相手はモデルでも女優でもない。どこかの名家の令嬢でもなければ政治家の娘でもない。どこにでもいる普通の女性ということになる。
そして今、ここにあるのは静寂。男と女は先ほどまでの激しい言い合いとは打って変わって静かに息をしていたが、記者たちも同じように息を殺し次に口を開くのはどちらなのか待っていた。

「牧野。許してくれ。お前を忘れたことを許して欲しい。もう二度とお前のことを忘れないと誓う。もしここでこいつらを前にお前に愛を誓えというならそうしよう」

「なによ…..今更….」

「今更でも何更でもいい。俺はお前のことが好きなんだから」

さあ。牧野つくしはどう答えるのか。
記者たちは彼女の出方を待っていた。
だが牧野つくしは何も答えない。その代わりくるりと背を向けると新作シューズの発表会となっていた部屋の扉を開け出て行こうとしていた。
だがそれを見た男の行動は早かった。「おい!どこへ行く?!逃げるな!」と言うと、すぐに彼女を追いかけて部屋を出て行った。




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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.11.22 15:17 | 編集
ふ**ん様
突然始まった公開喧嘩試合(≧▽≦)
逃げた女と追う男。
記者はどうするのか?
ジョナサン・テイラーは通訳からふたりのやり取りを教えられたのか?

ワハハ(≧▽≦)追いかけるなら新作シューズに履き替えろ!
本当ですね!そして走るのはジョナサンではなく司。
掴むのはゴールではなく愛しい女のハート!
でもつくしは逃げ足の速い女でしたからねえ。
捕まえることが出来るのでしょうか。
ガンバレ司!
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.11.22 21:17 | 編集
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