「それでは皆様。この度当社のイメージキャラクターに就任されたジョナサン・テイラー氏をお招きしたいと思います。どうぞ拍手をもってお迎え下さい!」
進行役を務める広報課長の言葉と共に新作シューズの発表会に現れたジョナサン・テイラーは、にこやかな笑顔で手を振りながら拍手に応えた。
そして用意されていた席に着くと隣に座った通訳から何かを囁かれ了解した様子で頷いた。
「そして本日は当社の親会社である道明寺ホールディングスの道明寺副社長にもご同席をいただいております。副社長はテイラー氏の力強い走りのファンでございます。
そのテイラー氏が病気になったご家族のために競技生活にピリオドを打ったことを大変残念に思われておりました。そしてテイラー氏が現役に復帰するなら是非力を貸したいとおっしゃいました。そして当社がテイラー氏のスポンサーになることを後押しして下さいました。そういったこともあり道明寺副社長から本日の発表会には是非出席したいとの申し出がありテイラー氏の隣の席へお座りいただいております」
と、紹介を受けた男は、ひと言ご挨拶をお願いします。と言われるとテーブルに置かれていたマイクを手に立ち上がった。
「お集りの皆様。本日はお忙し中、新作シューズの発表会にお越し下さり誠にありがとうございます」
広報課に席を置くつくしは会場の一番後ろから男の様子を見ていたが、記者会見慣れしている男は会場を見渡す余裕があった。そしてつくしに気付くと口角を上げた。
週刊誌の記事のことは眉間にたて皺を刻んだが無視をした。
マンションでは極力男と会わないように注意していた。
だが男は専用エレベーターでペントハウスに出入りをする。だからエレベーターの中で会うことはない。それに部屋の前で待ち伏せをされることもなかった。
そして社内に週刊誌の写真の女性がつくしだと気付いた人間がいたとしても、営業課の後輩以外にその話をしてくる人間はいなかった。
それは会社を買収した道明寺司と牧野つくしが親しい間柄なら、牧野つくしにふたりの関係を問えば、そのことが道明寺司にまで伝わる。すると余計な詮索をしたと思われ自分の立場が危うくなるのではないか。社員たちはそんな風に思った。だからふたりのことは触れてはいけないことだと捉え、訊いてはいけないことになった。そしてそれは暗黙の了解として社内に広まった。だから週刊誌の記事のことで誰かに何かを言われることはなかった。
それにしてもこの男は何を企んでいるのか。
何がジョナサン・テイラーのファンだ。この男は陸上競技になど興味はない。
それに男がオリンピックの金メダリストとしてのテイラーの名前は知っていたとしても、病気の家族のために走ることを止めたことなど知るはずがない。きっとこの会見を担当している広報課長が勝手に言っているだけだ。
それにグループ会社のひとつに過ぎないスポーツ用品の会社の新作シューズの発表会にわざわざ顏を出すのはどう考えてもおかしい。
そして取材に来ているのは、スポーツ雑誌の記者や、新聞のスポーツ面を担当する運動部の記者やスポーツ用品業界の人間だ。
そんな彼らは、まさかここに道明寺司がいるとは思いもしなかったはずだ。
だから男が現れると会場はざわついた。そして女性記者からは感嘆の声が漏れた。
そして男の挨拶が終ると、ジョナサン・テイラーに質問が飛んだ。
再びアスリートとして走ることを決めたとき、どんなことを考えましたか?
病を克服した家族は、あなたが再び競技を始めることを悦びましたか?
次のオリンピックでも金メダルを取ることが出来ると思いますか?
シューズの履き心地はどうですか?
質問に答えるジョナサン・テイラーの隣にいる男は、じっとつくしを見ている。
だが隣のテイラーが記者の質問におどけたような態度を取れば笑う。
そんな男は挨拶の中で今日の主役はジョナサン・テイラーと新作シューズであることを強調していた。
それはここで場違いな質問をしようものなら、容赦はしないということを言外に示していた。
だから、誰も男に質問をすることはなかった。
だが進行役の広報課長が「それでは、以上をもちましてジョナサン・テイラー氏を招いての新作シューズの発表会を終了させていただきます」と言ったところで、男がおもむろに立ち上った。

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進行役を務める広報課長の言葉と共に新作シューズの発表会に現れたジョナサン・テイラーは、にこやかな笑顔で手を振りながら拍手に応えた。
そして用意されていた席に着くと隣に座った通訳から何かを囁かれ了解した様子で頷いた。
「そして本日は当社の親会社である道明寺ホールディングスの道明寺副社長にもご同席をいただいております。副社長はテイラー氏の力強い走りのファンでございます。
そのテイラー氏が病気になったご家族のために競技生活にピリオドを打ったことを大変残念に思われておりました。そしてテイラー氏が現役に復帰するなら是非力を貸したいとおっしゃいました。そして当社がテイラー氏のスポンサーになることを後押しして下さいました。そういったこともあり道明寺副社長から本日の発表会には是非出席したいとの申し出がありテイラー氏の隣の席へお座りいただいております」
と、紹介を受けた男は、ひと言ご挨拶をお願いします。と言われるとテーブルに置かれていたマイクを手に立ち上がった。
「お集りの皆様。本日はお忙し中、新作シューズの発表会にお越し下さり誠にありがとうございます」
広報課に席を置くつくしは会場の一番後ろから男の様子を見ていたが、記者会見慣れしている男は会場を見渡す余裕があった。そしてつくしに気付くと口角を上げた。
週刊誌の記事のことは眉間にたて皺を刻んだが無視をした。
マンションでは極力男と会わないように注意していた。
だが男は専用エレベーターでペントハウスに出入りをする。だからエレベーターの中で会うことはない。それに部屋の前で待ち伏せをされることもなかった。
そして社内に週刊誌の写真の女性がつくしだと気付いた人間がいたとしても、営業課の後輩以外にその話をしてくる人間はいなかった。
それは会社を買収した道明寺司と牧野つくしが親しい間柄なら、牧野つくしにふたりの関係を問えば、そのことが道明寺司にまで伝わる。すると余計な詮索をしたと思われ自分の立場が危うくなるのではないか。社員たちはそんな風に思った。だからふたりのことは触れてはいけないことだと捉え、訊いてはいけないことになった。そしてそれは暗黙の了解として社内に広まった。だから週刊誌の記事のことで誰かに何かを言われることはなかった。
それにしてもこの男は何を企んでいるのか。
何がジョナサン・テイラーのファンだ。この男は陸上競技になど興味はない。
それに男がオリンピックの金メダリストとしてのテイラーの名前は知っていたとしても、病気の家族のために走ることを止めたことなど知るはずがない。きっとこの会見を担当している広報課長が勝手に言っているだけだ。
それにグループ会社のひとつに過ぎないスポーツ用品の会社の新作シューズの発表会にわざわざ顏を出すのはどう考えてもおかしい。
そして取材に来ているのは、スポーツ雑誌の記者や、新聞のスポーツ面を担当する運動部の記者やスポーツ用品業界の人間だ。
そんな彼らは、まさかここに道明寺司がいるとは思いもしなかったはずだ。
だから男が現れると会場はざわついた。そして女性記者からは感嘆の声が漏れた。
そして男の挨拶が終ると、ジョナサン・テイラーに質問が飛んだ。
再びアスリートとして走ることを決めたとき、どんなことを考えましたか?
病を克服した家族は、あなたが再び競技を始めることを悦びましたか?
次のオリンピックでも金メダルを取ることが出来ると思いますか?
シューズの履き心地はどうですか?
質問に答えるジョナサン・テイラーの隣にいる男は、じっとつくしを見ている。
だが隣のテイラーが記者の質問におどけたような態度を取れば笑う。
そんな男は挨拶の中で今日の主役はジョナサン・テイラーと新作シューズであることを強調していた。
それはここで場違いな質問をしようものなら、容赦はしないということを言外に示していた。
だから、誰も男に質問をすることはなかった。
だが進行役の広報課長が「それでは、以上をもちましてジョナサン・テイラー氏を招いての新作シューズの発表会を終了させていただきます」と言ったところで、男がおもむろに立ち上った。

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司*****E様
おはようございます^^
新作シューズの発表会も終わりを迎えようとしたところで立ち上った男。
さて。何かを発信するのか。それとも行動を起こすのか。
何かが起こるとすればそれは.....
そしてその時つくしはどうするのでしょうねえ(笑)
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
新作シューズの発表会も終わりを迎えようとしたところで立ち上った男。
さて。何かを発信するのか。それとも行動を起こすのか。
何かが起こるとすればそれは.....
そしてその時つくしはどうするのでしょうねえ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.11.21 21:54 | 編集

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司*****E様
司の独白かと思いきや、部屋の後ろにいたつくしとの言い合いとなりました。
記者の皆さん。どんな記事を書くのでしょうねえ(笑)
『道明寺司。甦る過去の恋。相手はスポーツ用品会社に勤める女性』
独占スクープでなくても普段ビジネス以外でインタビューに答えることのない男の話ですからねえ。
きっと新聞も雑誌も売れるでしょうねえ。
そして逃げ出した女を追いかける男は、彼女を捕まえることが出来るのか。
ガンバレ、司(≧▽≦)
司の独白かと思いきや、部屋の後ろにいたつくしとの言い合いとなりました。
記者の皆さん。どんな記事を書くのでしょうねえ(笑)
『道明寺司。甦る過去の恋。相手はスポーツ用品会社に勤める女性』
独占スクープでなくても普段ビジネス以外でインタビューに答えることのない男の話ですからねえ。
きっと新聞も雑誌も売れるでしょうねえ。
そして逃げ出した女を追いかける男は、彼女を捕まえることが出来るのか。
ガンバレ、司(≧▽≦)
アカシア
2020.11.23 21:24 | 編集
