「牧野さん。ジョナサン・テイラーがうちの招きで来日するって本当ですか?それにうちの会社を訪問するって本当ですか?」
社員食堂でつくしに話しかけて来たのは、かつてつくしが働いていた営業課の後輩社員だ。
そしてジョナサン・テイラーは前回のオリンピック陸上100メートルで金メダルを取ったアメリカ人。家族の病気を理由に引退をしたが、次のオリンピックに出ることを目標に現役復帰した。そんなジョナサンは会社が契約したイメージキャラクターの中で一番の大物と言われる陸上界のスーパースターだ。そしてジョナサンと契約を結んだことで、彼をイメージしたシューズが売り出されることになったが、来日はそのプロモーションのためだ。
「それにしても驚いたのは道明寺司も一緒に来ることです。あの道明寺司がですよ?彼はうちの親会社の副社長だし、うちの会社がジョナサン・テイラーと契約出来たのは、道明寺グループに入ったから出来たことだと分かっています。でもわざわざ道明寺司が来るってことは彼、ジョナサン・テイラーのファンなのでしょうか?」
あの男がジョナサン・テイラーのファンかどうか知らないが、会社が道明寺の傘下に入ったことで資金面のテコ入れがされ、莫大な契約金が必要なジョナサン・テイラーのような大物アスリートと契約出来た。
そして、これまでと違い他社に負けない華やかで大掛かりな広告を打つことが出来るようになった。大型のスポーツ用品量販店でのシューズ売り場は広がった。積極的な販売攻勢をかけることが出来るようになった。
だがあの男がつくしの働いている会社に資金を注入したのは、つくしの気を引くためだ。
それに営業から広報に異動になったのも広報なら自分がつくしに会うための理由をそれほど考える必要がないからだ。そしてあの男は目的のためなら手段を選ばないところがある。
だがつくしと一緒に朝食を食べることはどうやら諦めたようだ。
しかしその代わり会社から帰ってくるとコンシェルジュから渡されるものがあった。
それは翌朝の朝食用にと定期的にメープルから届けられるようになった焼き立てのロールパン。
受け取らなければ処分されることは目に見えている。だから食べ物を粗末にすることは出来ないつくしは代金を支払って受け取ることにした。
それにしてもあの男は何を企んでいるのか。ジョナサン・テイラーとイメージキャラクター契約を結べたことは嬉しいが、そのジョナサン・テイラーが社を訪問するとき一緒に来るというのは絶対に何かあるはずだ。
「そう言えば牧野さんって道明寺副社長とひとつ違いで英徳に通っていたんですよね?もしかしてお知り合いですか?」
「まさか。とんでもない。私はあの男…じゃない道明寺副社長とは顔見知りでもなければ全く接点もなかったわ」
「そうなんですか?……でもベトナムにいたとき親しく会っていたんですよね?」
と言って控えめに見せられたのは週刊誌。
そこにはベトナムの路上にいるふたりの姿が載っていた。
「これ今日発売の週刊誌なんですけど、この女性は牧野さんですよね?」
いつの間にこんな写真が撮られたのか。望遠で撮られた写真だがピントは綺麗に合っている。そしてタイトルは『道明寺財閥の御曹司の休日。ベトナムで密会か?』
だがこの写真は週刊誌の記者がわざわざベトナムまであの男を追いかけてきて撮った写真ではないように思えた。
それなら何か。恐らくだがこれはあの男が誰かに撮らせ、男はそれを週刊誌に載せる手配をしたに違いないと思った。そうだ。あの男ならやりかねない。あの男もある意味でつくしと同じでこうと思ったことは必ず遣り遂げるという意思の持ち主だ。だからこうして週刊誌に自分達のことを載せ、つくしとのことを公けにして囲い込もうとしているのだ。
「こんなことを言ったら失礼かもしれませんけど牧野さんって地味ですけど凄い人なんですね?だって道明寺司副社長と見つめ合うって普通の女性じゃ出来ませんよ。
それから相手が道明寺副社長ですから隠したい気持も分かりますが、道明寺副社長と一緒にいることを隠すことは無理なんじゃないですか。道明寺副社長は派手でどこにいても目立つ存在ですから。でも安心して下さい。社内でこの写真の女性が牧野さんだと気付いている人間はまだ少ないですから。でもそれも時間の問題かもしれませんね?それにしてもお二人はどういう関係なんですか?もしかして恋人同士だったとか?」
営業課の後輩は質問を重ね聴いてきたが、
「まさか。恋人同士だなんて冗談じゃないわ。それにどうもこうも関係なんてないわよ。同じ英徳出身でも道明寺副社長は私にとっては通りすがりの他人。この写真も偶然の産物よ。これは道を訊かれた時の写真で私はこの人とは何の関係もないわ」
と冷静な口調で言い切ったが、信じていないのは明らかだ。
そして後輩は、そんなつくしに「よかったらどうぞ」と週刊誌を渡した。
だからそれを右手に握りしめ社員食堂を後にすると、ズンズンと廊下を歩いていた。
あの男がジョナサン・テイラーに会いたいならそうすればいい。
それにここはあの男が買った会社だ。だから来たい時に来て帰りたい時に帰ればいい。
そして、ここで何かするつもりなら受けて立つつもりだ。
それにしても自分から週刊誌に写真を持ち込むなど昔の男からは考えられないことだ。
そして、こういった行為を匂わせと言うのだとすれば、これは遠回しというよりも直接的過ぎる。それに誰に嗅ぎ付けて欲しいと言うのか。
いや。嗅ぎ付けて欲しいのではない。
ただ一方的にこの女は自分の物だと言いたいだけだ。

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社員食堂でつくしに話しかけて来たのは、かつてつくしが働いていた営業課の後輩社員だ。
そしてジョナサン・テイラーは前回のオリンピック陸上100メートルで金メダルを取ったアメリカ人。家族の病気を理由に引退をしたが、次のオリンピックに出ることを目標に現役復帰した。そんなジョナサンは会社が契約したイメージキャラクターの中で一番の大物と言われる陸上界のスーパースターだ。そしてジョナサンと契約を結んだことで、彼をイメージしたシューズが売り出されることになったが、来日はそのプロモーションのためだ。
「それにしても驚いたのは道明寺司も一緒に来ることです。あの道明寺司がですよ?彼はうちの親会社の副社長だし、うちの会社がジョナサン・テイラーと契約出来たのは、道明寺グループに入ったから出来たことだと分かっています。でもわざわざ道明寺司が来るってことは彼、ジョナサン・テイラーのファンなのでしょうか?」
あの男がジョナサン・テイラーのファンかどうか知らないが、会社が道明寺の傘下に入ったことで資金面のテコ入れがされ、莫大な契約金が必要なジョナサン・テイラーのような大物アスリートと契約出来た。
そして、これまでと違い他社に負けない華やかで大掛かりな広告を打つことが出来るようになった。大型のスポーツ用品量販店でのシューズ売り場は広がった。積極的な販売攻勢をかけることが出来るようになった。
だがあの男がつくしの働いている会社に資金を注入したのは、つくしの気を引くためだ。
それに営業から広報に異動になったのも広報なら自分がつくしに会うための理由をそれほど考える必要がないからだ。そしてあの男は目的のためなら手段を選ばないところがある。
だがつくしと一緒に朝食を食べることはどうやら諦めたようだ。
しかしその代わり会社から帰ってくるとコンシェルジュから渡されるものがあった。
それは翌朝の朝食用にと定期的にメープルから届けられるようになった焼き立てのロールパン。
受け取らなければ処分されることは目に見えている。だから食べ物を粗末にすることは出来ないつくしは代金を支払って受け取ることにした。
それにしてもあの男は何を企んでいるのか。ジョナサン・テイラーとイメージキャラクター契約を結べたことは嬉しいが、そのジョナサン・テイラーが社を訪問するとき一緒に来るというのは絶対に何かあるはずだ。
「そう言えば牧野さんって道明寺副社長とひとつ違いで英徳に通っていたんですよね?もしかしてお知り合いですか?」
「まさか。とんでもない。私はあの男…じゃない道明寺副社長とは顔見知りでもなければ全く接点もなかったわ」
「そうなんですか?……でもベトナムにいたとき親しく会っていたんですよね?」
と言って控えめに見せられたのは週刊誌。
そこにはベトナムの路上にいるふたりの姿が載っていた。
「これ今日発売の週刊誌なんですけど、この女性は牧野さんですよね?」
いつの間にこんな写真が撮られたのか。望遠で撮られた写真だがピントは綺麗に合っている。そしてタイトルは『道明寺財閥の御曹司の休日。ベトナムで密会か?』
だがこの写真は週刊誌の記者がわざわざベトナムまであの男を追いかけてきて撮った写真ではないように思えた。
それなら何か。恐らくだがこれはあの男が誰かに撮らせ、男はそれを週刊誌に載せる手配をしたに違いないと思った。そうだ。あの男ならやりかねない。あの男もある意味でつくしと同じでこうと思ったことは必ず遣り遂げるという意思の持ち主だ。だからこうして週刊誌に自分達のことを載せ、つくしとのことを公けにして囲い込もうとしているのだ。
「こんなことを言ったら失礼かもしれませんけど牧野さんって地味ですけど凄い人なんですね?だって道明寺司副社長と見つめ合うって普通の女性じゃ出来ませんよ。
それから相手が道明寺副社長ですから隠したい気持も分かりますが、道明寺副社長と一緒にいることを隠すことは無理なんじゃないですか。道明寺副社長は派手でどこにいても目立つ存在ですから。でも安心して下さい。社内でこの写真の女性が牧野さんだと気付いている人間はまだ少ないですから。でもそれも時間の問題かもしれませんね?それにしてもお二人はどういう関係なんですか?もしかして恋人同士だったとか?」
営業課の後輩は質問を重ね聴いてきたが、
「まさか。恋人同士だなんて冗談じゃないわ。それにどうもこうも関係なんてないわよ。同じ英徳出身でも道明寺副社長は私にとっては通りすがりの他人。この写真も偶然の産物よ。これは道を訊かれた時の写真で私はこの人とは何の関係もないわ」
と冷静な口調で言い切ったが、信じていないのは明らかだ。
そして後輩は、そんなつくしに「よかったらどうぞ」と週刊誌を渡した。
だからそれを右手に握りしめ社員食堂を後にすると、ズンズンと廊下を歩いていた。
あの男がジョナサン・テイラーに会いたいならそうすればいい。
それにここはあの男が買った会社だ。だから来たい時に来て帰りたい時に帰ればいい。
そして、ここで何かするつもりなら受けて立つつもりだ。
それにしても自分から週刊誌に写真を持ち込むなど昔の男からは考えられないことだ。
そして、こういった行為を匂わせと言うのだとすれば、これは遠回しというよりも直接的過ぎる。それに誰に嗅ぎ付けて欲しいと言うのか。
いや。嗅ぎ付けて欲しいのではない。
ただ一方的にこの女は自分の物だと言いたいだけだ。

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司*****E様
こんにちは^^
メープルのロールパンは美味しいでしょうねえ。
男の心を掴むには胃を掴めと言われますが、この場合つくしの心を掴むには胃を掴め!なのかもしれませんね(笑)
そして週刊誌に自分達の記事を書かせる(笑)
囲い込み作戦に出たようですが成功するのでしょうか。
成功しなくても何らかの効果が出るのか。出ないのか。
何しろ相手は頑固な女です。そんな女は高校生の頃よりも色々とパワーアップしているかもしれません!
コメント有難うございました^^
こんにちは^^
メープルのロールパンは美味しいでしょうねえ。
男の心を掴むには胃を掴めと言われますが、この場合つくしの心を掴むには胃を掴め!なのかもしれませんね(笑)
そして週刊誌に自分達の記事を書かせる(笑)
囲い込み作戦に出たようですが成功するのでしょうか。
成功しなくても何らかの効果が出るのか。出ないのか。
何しろ相手は頑固な女です。そんな女は高校生の頃よりも色々とパワーアップしているかもしれません!
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.11.18 22:11 | 編集
