「ここがお前の部屋だ。どうだ?気に入ったか?」
と訊かれたが、つくしは口を開くこともなければ眉ひとつ動かすことなく案内された部屋を見ていた。
そこは男が暮らすペントハウスのひとつ下のフロアにある部屋。
本来ならこのフロアには他にも部屋があるはずだが、男が全ての部屋を買い取りつくし専用のフロアに変えた。
部屋の中は豪華ではなくシンプルで上品な家具が配置されているが、このマンションも家具も飾られている調度品も、どう考えてもただの会社員の給料で賄えるものではない。
だが男はつくしの愛人になる。手当の要らない愛人として尽くすと言った。
その手始めとして自分と同じマンションに部屋を用意したと言うが、それは愛人本来の役目を果たすためだと言った。
「どうした?ここじゃ不満か?」
「………….」
「そうか。不満か。それなら俺の部屋で一緒に暮らすか?」
「嫌よ」
「嫌か。それにしても即答だな」
「ええ。悪い?それに何であんたと一緒に暮らさなきゃならないのよ?」
「何でって、そんなの決まってるだろうが。一緒に暮らせばお前が欲求不満に陥る前に相手をすることが出来る。何しろ俺はお前の愛人だ。その役目を果たすためには一緒に暮らすのがベストだと思うが?」
つくしは言葉を失ったわけではないが敢えて何も言わなかった。
それに言ったところで男には偏執的なところがあって何でも自分に都合がいいように解釈をする。だから余計なことは言わないことにした。反論することはしなかった。
そして男が用意した部屋に住むことにしたが、それはベトナムから発送された荷物がすべてここに運ばれているからだ。
だが荷物と言っても日本を発つ前に持ち物の整理をしたこともあり洋服や最低限生活に必要なものだ。それらは桜子の所へ送られていたはずだったが、ここにあるのは桜子の仕業だ。
桜子はつくしから帰国することになったと連絡を受けると、
『先輩。良かったですね?道明寺さんが思い出してくれて。私、道明寺さんから先輩のこと思い出したって連絡を受けたとき嬉しくて泣いちゃいました。本当に良かったですね!』
と言って電話口の向こうで本当に泣いていた。
そんな桜子だから、つくしから送られて来た荷物も男から指示されて、いそいそとここに運んだに違いない。
そして、つくしが勤務するスポーツ用品会社は道明寺の傘下に入った。
イメージキャラクターが弱いと言われていた会社だったが広告代理店が大手に代わると、すぐに有名なサッカー選手や前回のオリンピックで金メダルを取った美人マラソン選手。それに陸上の世界記録保持者とスポンサー契約を結んだ。と、同時に宣材に経費が掛けられ、販売促進の景品グレードが上がった。
そして日本に戻ったつくしは、これまでと同じ営業の仕事に戻るかと思えば、何故か広報部に配属になった。
「ねえ」
つくしは隣に立つ男に言った。
「どうした?やっぱり俺と暮らすか?」
「暮らさないわよ。それよりあんた、私を広報に配属させるように圧力をかけたでしょ?」
その言葉に男はニヤリと笑った。
「知らねえな」
知らないはずがない。
絶対この男が手を回したはずだ。
だがこの男に何を言ったところで会社は道明寺の傘下に入ったのだから言うだけ無駄だ。
「そう?知らないのね?それなら別にいいわ。でもこれだけは言っておくわ。あのとき言ったのは物の例えで私はあんたを愛人にした覚えはないから」
つくしがベトナムで男に言ったのは、東京で暮らしている人間がどうやったらこの国で暮らしている女の愛人の役目が果たせるのかということ。
すると男は、そう言った女に不自由はさせないと言ったが、そんな会話が交わされる前から、つくしが働いている会社を傘下に収めることも、東京に呼び戻すことも決めていたのだから、この男が何かをしようと決めた時、他人の話を訊くことはない。
だから仕方なく男の用意した部屋で暮らすことを受け入れたが、この男のペースに流されるわけにはいかない。
「牧野。お前は物の例えだとしても俺にとっては例えじゃない。俺はお前の愛人になるのを諦めない。それに言ったはずだ。愛人だけで終わるつもりはない。いずれ夫になるつもりだってな。何しろお前は身体を張って俺の失われた記憶を取り戻そうとした。それは俺のことを愛しているからだ。お前は俺たちのことを過去にはしていない。それに口では愛してないと言うがお前は俺を愛している。だから俺をお前の愛人にして自由に使ってもらえれば本望だ」
と、言った男は顏を近づけると「ほら。この部屋の鍵だ」と言ってつくしに渡した。

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と訊かれたが、つくしは口を開くこともなければ眉ひとつ動かすことなく案内された部屋を見ていた。
そこは男が暮らすペントハウスのひとつ下のフロアにある部屋。
本来ならこのフロアには他にも部屋があるはずだが、男が全ての部屋を買い取りつくし専用のフロアに変えた。
部屋の中は豪華ではなくシンプルで上品な家具が配置されているが、このマンションも家具も飾られている調度品も、どう考えてもただの会社員の給料で賄えるものではない。
だが男はつくしの愛人になる。手当の要らない愛人として尽くすと言った。
その手始めとして自分と同じマンションに部屋を用意したと言うが、それは愛人本来の役目を果たすためだと言った。
「どうした?ここじゃ不満か?」
「………….」
「そうか。不満か。それなら俺の部屋で一緒に暮らすか?」
「嫌よ」
「嫌か。それにしても即答だな」
「ええ。悪い?それに何であんたと一緒に暮らさなきゃならないのよ?」
「何でって、そんなの決まってるだろうが。一緒に暮らせばお前が欲求不満に陥る前に相手をすることが出来る。何しろ俺はお前の愛人だ。その役目を果たすためには一緒に暮らすのがベストだと思うが?」
つくしは言葉を失ったわけではないが敢えて何も言わなかった。
それに言ったところで男には偏執的なところがあって何でも自分に都合がいいように解釈をする。だから余計なことは言わないことにした。反論することはしなかった。
そして男が用意した部屋に住むことにしたが、それはベトナムから発送された荷物がすべてここに運ばれているからだ。
だが荷物と言っても日本を発つ前に持ち物の整理をしたこともあり洋服や最低限生活に必要なものだ。それらは桜子の所へ送られていたはずだったが、ここにあるのは桜子の仕業だ。
桜子はつくしから帰国することになったと連絡を受けると、
『先輩。良かったですね?道明寺さんが思い出してくれて。私、道明寺さんから先輩のこと思い出したって連絡を受けたとき嬉しくて泣いちゃいました。本当に良かったですね!』
と言って電話口の向こうで本当に泣いていた。
そんな桜子だから、つくしから送られて来た荷物も男から指示されて、いそいそとここに運んだに違いない。
そして、つくしが勤務するスポーツ用品会社は道明寺の傘下に入った。
イメージキャラクターが弱いと言われていた会社だったが広告代理店が大手に代わると、すぐに有名なサッカー選手や前回のオリンピックで金メダルを取った美人マラソン選手。それに陸上の世界記録保持者とスポンサー契約を結んだ。と、同時に宣材に経費が掛けられ、販売促進の景品グレードが上がった。
そして日本に戻ったつくしは、これまでと同じ営業の仕事に戻るかと思えば、何故か広報部に配属になった。
「ねえ」
つくしは隣に立つ男に言った。
「どうした?やっぱり俺と暮らすか?」
「暮らさないわよ。それよりあんた、私を広報に配属させるように圧力をかけたでしょ?」
その言葉に男はニヤリと笑った。
「知らねえな」
知らないはずがない。
絶対この男が手を回したはずだ。
だがこの男に何を言ったところで会社は道明寺の傘下に入ったのだから言うだけ無駄だ。
「そう?知らないのね?それなら別にいいわ。でもこれだけは言っておくわ。あのとき言ったのは物の例えで私はあんたを愛人にした覚えはないから」
つくしがベトナムで男に言ったのは、東京で暮らしている人間がどうやったらこの国で暮らしている女の愛人の役目が果たせるのかということ。
すると男は、そう言った女に不自由はさせないと言ったが、そんな会話が交わされる前から、つくしが働いている会社を傘下に収めることも、東京に呼び戻すことも決めていたのだから、この男が何かをしようと決めた時、他人の話を訊くことはない。
だから仕方なく男の用意した部屋で暮らすことを受け入れたが、この男のペースに流されるわけにはいかない。
「牧野。お前は物の例えだとしても俺にとっては例えじゃない。俺はお前の愛人になるのを諦めない。それに言ったはずだ。愛人だけで終わるつもりはない。いずれ夫になるつもりだってな。何しろお前は身体を張って俺の失われた記憶を取り戻そうとした。それは俺のことを愛しているからだ。お前は俺たちのことを過去にはしていない。それに口では愛してないと言うがお前は俺を愛している。だから俺をお前の愛人にして自由に使ってもらえれば本望だ」
と、言った男は顏を近づけると「ほら。この部屋の鍵だ」と言ってつくしに渡した。

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ふ*******マ様
え?つくしのため息が聞こえてきましたか?
確かに司の思考回路は一般人とは違いますからねえ。
そして桜子も司派となれば、これはもう逃れることは無理なのでしょうか。
見守って下さいませm(__)m
え?つくしのため息が聞こえてきましたか?
確かに司の思考回路は一般人とは違いますからねえ。
そして桜子も司派となれば、これはもう逃れることは無理なのでしょうか。
見守って下さいませm(__)m
アカシア
2020.11.14 19:31 | 編集

司*****E様
司はつくしの愛人になりたいそうです。
部屋を用意してくれる愛人(笑)
まるでつくしの方が愛人のように思えますがそうではありません。
あくまでも司は自分が愛人となってつくしの傍に居たいと考えていますからねえ。
え?司に押しに負けるのはいつなのか?
そうですねえ(笑)それはつくしに訊いてみないと分かりませんが、司次第でしょうねえ(笑)
大晦日のライブは生配信。
おお!その日は全てに於いて準備万端整えての視聴となりそうですね?
どんなライブになるのでしょう。楽しみですね♪
司はつくしの愛人になりたいそうです。
部屋を用意してくれる愛人(笑)
まるでつくしの方が愛人のように思えますがそうではありません。
あくまでも司は自分が愛人となってつくしの傍に居たいと考えていますからねえ。
え?司に押しに負けるのはいつなのか?
そうですねえ(笑)それはつくしに訊いてみないと分かりませんが、司次第でしょうねえ(笑)
大晦日のライブは生配信。
おお!その日は全てに於いて準備万端整えての視聴となりそうですね?
どんなライブになるのでしょう。楽しみですね♪
アカシア
2020.11.14 19:49 | 編集
