つくしは唖然として男を見ていた。
男はつくしに対して責任があると言ったが、それは彼女の身体に対しての責任。
その身体は自分以外の男に抱かれることを望まないはずだと言い切った。
それにしてもこの男は昔から自信過剰な人間だったが、自分が抱いていた女が12年も忘れていた女だったと思い出した途端のその言い方は昔と同じ横柄で変わっていない。
そして、つくしが他の男に抱かれることを望まないと言い切ったが、その自信はどこから来るのか。それにつくしの12年を知らないのに、よくもそんなことが言えるものだ。
「自分の身体じゃないのに随分と自信がある言い方ね?でもね。あたしがあんた以外の男を受け付けないと思ってるなら大きな間違いよ。それに私が12年間あんたのことを思っていたとしても、もう終わったの。だからあんたのことはもう何とも思ってない。その証拠にこの国に来てすぐに男と寝たわ。あんた以外の男に抱かれたわ」
つくしは一気に言って自分を見下ろす男に笑みを向けた。
「ほう。そうか。それは良かったな。俺以外の男と寝たか。で?良かったか?」
男はつくしを見下ろしながら言った。
「ええ。良かったわよ」
「そうか。それで?何回いかせてもらった?」
「何回?」
「そうだ。その男に何回いかせてもらった?」
「そんなことあんたに関係ないでしょ?」
「いいから言えよ」
男はしつこく訊いた。
多分答えるまで何度でも訊くだろう。
だから、「うるさいわね……3回よ」と言い淀みながら答えた。
「たった3回か?」
「そうよ。3回よ。悪い?3回で充分よ。だって彼すごく私を愛してくれたもの」
男がたった3回と言ったのは、自分はそれ以上つくしをいかせたという自負があるからだ。
そして男が満足して眠るのは明け方で眠らせてもらえないこともあった。
そんな男がつくしに求めたのはベッドの相手で彼女を愛していたのではない。
だから愛されたことを口にした。愛のあるセックスをしたのだと言った。
すると男はニヤリと笑った。
「嘘だ。お前は誰ともやってない」
「嘘だってどうして分かるのよ?」
「お前はそんな女じゃない」
「そんな女って何よ?」
「誰とでも簡単に寝る女だ。それに三条はお前に男がいなかったことを知っている。それはこの国で暮らし始めてからも変わらなかったと言った」
つくしは桜子とは常に連絡を取り合っていた。
そして三条桜子という女は、かつて恋敵とみなしたつくしを排除するために罠を仕掛けるような女だったが、味方となってからはつくしに惚れたと言って、まるで杯を交わした仲のように尽くしてくれる。つまりそれは、つくしの私生活が桜子に筒抜けになっているということで、それはベトナムに来ても変わらなかった。
「牧野」
つくしは答えなかった。
「牧野」
再び名前を呼ばれても答えなかった。
その代わり静かに呼吸をしてから口を開いた。
「あのね。私に男がいなくてもあんたを愛人にするつもりはない。あんたとのことはもう終わったの。だから帰って。それにあんたは、やり手の副社長でしょ?そんな忙しい身の男はベトナムで油を売ってないでさっさと東京に帰りなさいよ。それに愛人になるって言うけど東京で暮らしている人間がどうやったらベトナムに住む女の愛人の役目が果たせるのよ?仮に私が愛人のあんたと寝たいと思ってもこの国にいないなら意味がないでしょ?それとも東京から通いの愛人をしてくれるわけ?」
つくしは値踏みするように男の頭のてっぺんから足の先まで視線を這わせた。
それは桜子の会社から男の暇潰しの相手として派遣された初日に男が見せた態度と同じだ。
あの日、何でもいいから話せと言われ、過去の自分達のことを話し始めた。
すると、話がつまらないから帰れと言った。だが派遣先から初日の1時間で帰らされたら今後仕事を回してもらえなくなる。だからどんな要望にも応えると言った。すると男は、たった今つくしが向けた視線と同じで値踏みした。
「そのことだが心配するな。お前に不自由はさせない」
と、言った男は、つくしの顏をじっと見つめ少し間を置いてから言った。
「具体的な交渉に入るのはこれからだが、お前の会社は近いうちに道明寺の傘下に入ることになる。お前が働いているスポーツ用品会社はアメリカやドイツの会社に比べて世界的な知名度が低い。それに売り上げが低迷している。それは有名アスリートのスポンサーになっていないからだ。イメージキャラクターが弱いからだ。だが心配するな。うちの傘下に入ればそういった方面にも金をかけることが出来る。つまり今よりも売り上げが伸びるということだ。
それにお前のところの社長も自分の会社の製品を身に付けた人間が世界で活躍している姿を見るのは誇らしく思うはずだ」
男が言うように、ここ数年つくしの会社は売り上げが低迷している。
それにイメージキャラクターが弱いのも事実だ。世界的なアスリートとスポンサー契約をしたいが金額が折り合わず難しいのが現実だ。
そんな会社が道明寺に買収される?
それは会社がグローバル市場、つまり世界に向かって飛躍を遂げることが約束されるということだ。
そして男が言ったように社長はそれを喜ぶだろう。
だが道明寺の傘下に入るということは、直接的ではないにしろ、つくしはこの男から給料をもらうことになる。
健康保険はこの男の会社の健康保険組合に加入することになる。
と、言うことは、まさかとは思うが___
「ああ。お前が考えている通りだ。お前はベトナムから日本に戻ることになる。だから美味いフォーが食べたいなら今のうちに食べておけ。それから俺はお前の愛人になるのを諦めない。だから愛人の務めとして東京でのお前の住まいを用意した。俺の部屋の下のフロアだが気に入るはずだ」

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男はつくしに対して責任があると言ったが、それは彼女の身体に対しての責任。
その身体は自分以外の男に抱かれることを望まないはずだと言い切った。
それにしてもこの男は昔から自信過剰な人間だったが、自分が抱いていた女が12年も忘れていた女だったと思い出した途端のその言い方は昔と同じ横柄で変わっていない。
そして、つくしが他の男に抱かれることを望まないと言い切ったが、その自信はどこから来るのか。それにつくしの12年を知らないのに、よくもそんなことが言えるものだ。
「自分の身体じゃないのに随分と自信がある言い方ね?でもね。あたしがあんた以外の男を受け付けないと思ってるなら大きな間違いよ。それに私が12年間あんたのことを思っていたとしても、もう終わったの。だからあんたのことはもう何とも思ってない。その証拠にこの国に来てすぐに男と寝たわ。あんた以外の男に抱かれたわ」
つくしは一気に言って自分を見下ろす男に笑みを向けた。
「ほう。そうか。それは良かったな。俺以外の男と寝たか。で?良かったか?」
男はつくしを見下ろしながら言った。
「ええ。良かったわよ」
「そうか。それで?何回いかせてもらった?」
「何回?」
「そうだ。その男に何回いかせてもらった?」
「そんなことあんたに関係ないでしょ?」
「いいから言えよ」
男はしつこく訊いた。
多分答えるまで何度でも訊くだろう。
だから、「うるさいわね……3回よ」と言い淀みながら答えた。
「たった3回か?」
「そうよ。3回よ。悪い?3回で充分よ。だって彼すごく私を愛してくれたもの」
男がたった3回と言ったのは、自分はそれ以上つくしをいかせたという自負があるからだ。
そして男が満足して眠るのは明け方で眠らせてもらえないこともあった。
そんな男がつくしに求めたのはベッドの相手で彼女を愛していたのではない。
だから愛されたことを口にした。愛のあるセックスをしたのだと言った。
すると男はニヤリと笑った。
「嘘だ。お前は誰ともやってない」
「嘘だってどうして分かるのよ?」
「お前はそんな女じゃない」
「そんな女って何よ?」
「誰とでも簡単に寝る女だ。それに三条はお前に男がいなかったことを知っている。それはこの国で暮らし始めてからも変わらなかったと言った」
つくしは桜子とは常に連絡を取り合っていた。
そして三条桜子という女は、かつて恋敵とみなしたつくしを排除するために罠を仕掛けるような女だったが、味方となってからはつくしに惚れたと言って、まるで杯を交わした仲のように尽くしてくれる。つまりそれは、つくしの私生活が桜子に筒抜けになっているということで、それはベトナムに来ても変わらなかった。
「牧野」
つくしは答えなかった。
「牧野」
再び名前を呼ばれても答えなかった。
その代わり静かに呼吸をしてから口を開いた。
「あのね。私に男がいなくてもあんたを愛人にするつもりはない。あんたとのことはもう終わったの。だから帰って。それにあんたは、やり手の副社長でしょ?そんな忙しい身の男はベトナムで油を売ってないでさっさと東京に帰りなさいよ。それに愛人になるって言うけど東京で暮らしている人間がどうやったらベトナムに住む女の愛人の役目が果たせるのよ?仮に私が愛人のあんたと寝たいと思ってもこの国にいないなら意味がないでしょ?それとも東京から通いの愛人をしてくれるわけ?」
つくしは値踏みするように男の頭のてっぺんから足の先まで視線を這わせた。
それは桜子の会社から男の暇潰しの相手として派遣された初日に男が見せた態度と同じだ。
あの日、何でもいいから話せと言われ、過去の自分達のことを話し始めた。
すると、話がつまらないから帰れと言った。だが派遣先から初日の1時間で帰らされたら今後仕事を回してもらえなくなる。だからどんな要望にも応えると言った。すると男は、たった今つくしが向けた視線と同じで値踏みした。
「そのことだが心配するな。お前に不自由はさせない」
と、言った男は、つくしの顏をじっと見つめ少し間を置いてから言った。
「具体的な交渉に入るのはこれからだが、お前の会社は近いうちに道明寺の傘下に入ることになる。お前が働いているスポーツ用品会社はアメリカやドイツの会社に比べて世界的な知名度が低い。それに売り上げが低迷している。それは有名アスリートのスポンサーになっていないからだ。イメージキャラクターが弱いからだ。だが心配するな。うちの傘下に入ればそういった方面にも金をかけることが出来る。つまり今よりも売り上げが伸びるということだ。
それにお前のところの社長も自分の会社の製品を身に付けた人間が世界で活躍している姿を見るのは誇らしく思うはずだ」
男が言うように、ここ数年つくしの会社は売り上げが低迷している。
それにイメージキャラクターが弱いのも事実だ。世界的なアスリートとスポンサー契約をしたいが金額が折り合わず難しいのが現実だ。
そんな会社が道明寺に買収される?
それは会社がグローバル市場、つまり世界に向かって飛躍を遂げることが約束されるということだ。
そして男が言ったように社長はそれを喜ぶだろう。
だが道明寺の傘下に入るということは、直接的ではないにしろ、つくしはこの男から給料をもらうことになる。
健康保険はこの男の会社の健康保険組合に加入することになる。
と、言うことは、まさかとは思うが___
「ああ。お前が考えている通りだ。お前はベトナムから日本に戻ることになる。だから美味いフォーが食べたいなら今のうちに食べておけ。それから俺はお前の愛人になるのを諦めない。だから愛人の務めとして東京でのお前の住まいを用意した。俺の部屋の下のフロアだが気に入るはずだ」

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コメント
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司*****E様
こんばんは^^
遠い昔、やっと素直になって思いを伝えたら忘れられた。
元々頑ななところがある女ですからねえ。
例え今も同じ気持でいたとしても素直に嬉しいと言えないんでしょうね。
さて。愛人志願の男をどうするのでしょう。
そして司は諦めませんからねえ(´艸`*)
コメント有難うございました^^
こんばんは^^
遠い昔、やっと素直になって思いを伝えたら忘れられた。
元々頑ななところがある女ですからねえ。
例え今も同じ気持でいたとしても素直に嬉しいと言えないんでしょうね。
さて。愛人志願の男をどうするのでしょう。
そして司は諦めませんからねえ(´艸`*)
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.11.11 22:13 | 編集
