「マキノさん!こっちです。こっち!ホーチミンで一番美味しいフォーを食べさせてくれる店は早く行かないと座れません。それにあの店は麺が無くなり次第閉店です。だから急いで下さい!」
「トランさん、ちょっと待って!もう少しゆっくり走ってくれない?」
「マキノさん。あなたシューズを作っている会社で働いているのに足が遅いのは問題です。
日本人は自分の足を使わず車ばかり乗るから足が退化しているんですね?でも安心して下さい。この国にいる間に鍛えれば老後を心配する必要はありませんから」
と、言われたがつくしは脚力には自信があった。
だが今は自分の隣を走る同僚のトランについて行くことに必死だった。
ベトナムの南部にある都市ホーチミン。ここはかつてサイゴンと呼ばれていたこの国最大の都市だ。そしてフランスの植民地だったことから、東洋のパリと呼ばれていてヨーロッパ風の建物が数多く残り街並は観光名所となっている。
その街につくしが働くスポーツ用品会社のシューズ工場がある。
そしてそこで働くトラン・ティ・ホアはホーチミン生まれの女性で日本の大学に留学していたことから日本語が堪能だ。そんな彼女は日本の本社から来たつくしの部下という立場だが、つくしは部下というよりも同僚という感覚で接していた。何しろつくしは日本では営業職だったが、ベトナムでの立場はシューズの生産管理でありこれまでの仕事とは違い知らないことばかりだ。だからトラン・ティ・ホアのサポートを受けて仕事をしていたが、トランは回りくどいことが嫌いで三条桜子のような積極性と果断さを持っていた。それに発言に遠慮がないところも似ていた。
そして今日はトランから仕事が終わったらホーチミンで一番美味しいフォーの店に行きましょうと誘われた。
「ねえトランさん。それにこんなに暑いのにこれ以上走ったら倒れるわ!」
ベトナムの中でも高温多湿の暑い街であるホーチミン。
この街で暮らし始めて3ヶ月が経った。日本の梅雨を経験しているとはいえ、ここは年がら年中暑い。それに湿度が高いことから体力を消耗しやすい。そんな街の中を日が傾いた夕方とはいえ走ることが出来るのは、この街で生まれ育ったから出来るのだ。
そしてつくしに向かって足が遅いと言ったトラン・ティ・ホアは、つくしが徐々に遅れ、ついて来ないことに気付くと立ち止まって振り返った。
「マキノさん。おいしいフォー。食べたくないんですか?」
「た、食べたいわよ?食べたいけど、そ、そんなに急がなくても食べれるでしょ?」
つくしは立ち止まったトランに近づき息を切らしながら答えたが、トラン・ティ・ホアは息を乱すことなく平然と答えた。
「マキノさん甘いですね?美味しいものはすぐになくなります。それは東京でも同じではないですか?私は日本に滞在中美味しいと言われたケーキを何度食べ損ねたことか…..
東京で列に並ばずに美味しいものを食べることは出来ませんでした。それはベトナムでも同じです。だから早く行かないとフォーも売り切れます」
トラン・ティ・ホアは甘いものが好きだと言った。
そして東京に留学しているとき、テレビ番組で紹介されたスィーツを食べることを楽しみとしていたと言った。
「マキノさん。あなたも甘いものが好き。私も甘いものが好き。それにフォーも好き。それなら私と一緒に頑張って走って下さい」
「え?トランさん!?む、無理よ!これ以上走れないわよ!」
やっと追いついたと思ったらまた置いてきぼりにされそうになった女は必死の思いで言ったが、名前を呼ばれたトランは「仕方ないですね?じゃあ私が先に行って席をとっておきますから後から来て下さい」と言ってつくしを残し走り出したが、年下のパワフルガールは、まさにベトナム版の三条桜子だ。
その桜子はつくしが日本を立つとき空港まで見送りに来た。
そして「先輩。ベトナムでいい男を見つけたら私にも紹介して下さいね」と言ったが、それを思い出したつくしは「いい男ねえ…..残念だけどまだ出会わないのよ」と呟いたが、その時、背後から聞こえてきたのは日本語。
「いい男ならここにいるが?」
それは低い声。
振り返ったそこにいたのはあの男だ。

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「トランさん、ちょっと待って!もう少しゆっくり走ってくれない?」
「マキノさん。あなたシューズを作っている会社で働いているのに足が遅いのは問題です。
日本人は自分の足を使わず車ばかり乗るから足が退化しているんですね?でも安心して下さい。この国にいる間に鍛えれば老後を心配する必要はありませんから」
と、言われたがつくしは脚力には自信があった。
だが今は自分の隣を走る同僚のトランについて行くことに必死だった。
ベトナムの南部にある都市ホーチミン。ここはかつてサイゴンと呼ばれていたこの国最大の都市だ。そしてフランスの植民地だったことから、東洋のパリと呼ばれていてヨーロッパ風の建物が数多く残り街並は観光名所となっている。
その街につくしが働くスポーツ用品会社のシューズ工場がある。
そしてそこで働くトラン・ティ・ホアはホーチミン生まれの女性で日本の大学に留学していたことから日本語が堪能だ。そんな彼女は日本の本社から来たつくしの部下という立場だが、つくしは部下というよりも同僚という感覚で接していた。何しろつくしは日本では営業職だったが、ベトナムでの立場はシューズの生産管理でありこれまでの仕事とは違い知らないことばかりだ。だからトラン・ティ・ホアのサポートを受けて仕事をしていたが、トランは回りくどいことが嫌いで三条桜子のような積極性と果断さを持っていた。それに発言に遠慮がないところも似ていた。
そして今日はトランから仕事が終わったらホーチミンで一番美味しいフォーの店に行きましょうと誘われた。
「ねえトランさん。それにこんなに暑いのにこれ以上走ったら倒れるわ!」
ベトナムの中でも高温多湿の暑い街であるホーチミン。
この街で暮らし始めて3ヶ月が経った。日本の梅雨を経験しているとはいえ、ここは年がら年中暑い。それに湿度が高いことから体力を消耗しやすい。そんな街の中を日が傾いた夕方とはいえ走ることが出来るのは、この街で生まれ育ったから出来るのだ。
そしてつくしに向かって足が遅いと言ったトラン・ティ・ホアは、つくしが徐々に遅れ、ついて来ないことに気付くと立ち止まって振り返った。
「マキノさん。おいしいフォー。食べたくないんですか?」
「た、食べたいわよ?食べたいけど、そ、そんなに急がなくても食べれるでしょ?」
つくしは立ち止まったトランに近づき息を切らしながら答えたが、トラン・ティ・ホアは息を乱すことなく平然と答えた。
「マキノさん甘いですね?美味しいものはすぐになくなります。それは東京でも同じではないですか?私は日本に滞在中美味しいと言われたケーキを何度食べ損ねたことか…..
東京で列に並ばずに美味しいものを食べることは出来ませんでした。それはベトナムでも同じです。だから早く行かないとフォーも売り切れます」
トラン・ティ・ホアは甘いものが好きだと言った。
そして東京に留学しているとき、テレビ番組で紹介されたスィーツを食べることを楽しみとしていたと言った。
「マキノさん。あなたも甘いものが好き。私も甘いものが好き。それにフォーも好き。それなら私と一緒に頑張って走って下さい」
「え?トランさん!?む、無理よ!これ以上走れないわよ!」
やっと追いついたと思ったらまた置いてきぼりにされそうになった女は必死の思いで言ったが、名前を呼ばれたトランは「仕方ないですね?じゃあ私が先に行って席をとっておきますから後から来て下さい」と言ってつくしを残し走り出したが、年下のパワフルガールは、まさにベトナム版の三条桜子だ。
その桜子はつくしが日本を立つとき空港まで見送りに来た。
そして「先輩。ベトナムでいい男を見つけたら私にも紹介して下さいね」と言ったが、それを思い出したつくしは「いい男ねえ…..残念だけどまだ出会わないのよ」と呟いたが、その時、背後から聞こえてきたのは日本語。
「いい男ならここにいるが?」
それは低い声。
振り返ったそこにいたのはあの男だ。

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ふ*******マ様
おはようございます^^
そうでしょう。そうですよね?流石に寒いですよね。
アカシアは既に暖房器具のお世話になっています。
つくし。ベトナムへ行きました。
そしてフォー....。食べたいですか?食べたいですよね?
アカシアも時々食べたくなります。
食べるために並ぶ!どうしても食べたい!と思うと並べます。
さてこんな所に司?偶然なのか。そうではないのか。
それは....続きで明らかになるかもしれません。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
そうでしょう。そうですよね?流石に寒いですよね。
アカシアは既に暖房器具のお世話になっています。
つくし。ベトナムへ行きました。
そしてフォー....。食べたいですか?食べたいですよね?
アカシアも時々食べたくなります。
食べるために並ぶ!どうしても食べたい!と思うと並べます。
さてこんな所に司?偶然なのか。そうではないのか。
それは....続きで明らかになるかもしれません。
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.11.05 22:20 | 編集

ふ**ん様
どの男じゃ?(笑)
いい男=西田?
いや。それはアカシアも困ります(笑)
どの男じゃ?(笑)
いい男=西田?
いや。それはアカシアも困ります(笑)
アカシア
2020.11.05 22:24 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
ベトナム版桜子。そんな女性がいるベトナムでの生活は寂しくはないでしょう。
そして、つくしの背後から聞こえた低い声。
これはもしや?(笑)
声の持ち主から語られるのは何でしょうねえ。
コメント有難うございました^^
おはようございます^^
ベトナム版桜子。そんな女性がいるベトナムでの生活は寂しくはないでしょう。
そして、つくしの背後から聞こえた低い声。
これはもしや?(笑)
声の持ち主から語られるのは何でしょうねえ。
コメント有難うございました^^
アカシア
2020.11.05 22:32 | 編集
