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2020
11.02

Love Affair 14

つくしの部屋を訪ねてきた桜子は出された紅茶を飲むと口を開いた。

「先輩。道明寺さんとのこと。本当にいいんですか?」

「いいわよ。12年間の片想いは終了。だからベトナムへの転勤を受けることにしたわ」

つくしはスポーツ用品会社のフットウエア事業部で営業をしているが、そんな彼女にベトナムにあるシューズ生産工場で管理の仕事をしてみないかと打診があったのが3ヶ月前。
個人的な事情もあるとは思うが考えて欲しい。引き受けるなら異動は半年後と言われていたが、3ヶ月が過ぎたところで会社は改めてつくしの意向を訊いてきた。
そしてつくしは会社の打診を受け入れベトナムに行くことにしたが、そうすることがこれまで抱えていた、恋人はいつか自分のことを思い出してくれるというバカな考えを捨てるには丁度いいと思えたからだ。
それにしてもあの時、半年もかからず答えが出ると思っていたことは、まさに予想した通りの早さで答えが出た。

「でもまだ3ヶ月ですよ?先輩が道明寺さんの傍にいたのは3ヶ月ですよ?それにベトナムへ行くまでまだ3ヶ月あるじゃないですか。ギリギリまで道明寺さんの傍にいれば記憶が戻るかもしれませんよ?未練はないんですか?本当にいいんですか?後悔しませんか?」

週末だけ桜子が経営する家族を派遣する会社の仕事をしていたが、つくしがしていたのは家族の役割ではなくセックスの相手だ。
そして桜子は心をぎゅうぎゅう詰めにするなと言っておきながら、3ヶ月で男の傍から離れることを決めた女に何度もこれでいいのかと訊いた。

「桜子。まだ3ヶ月あるって言っても海外に転勤するんだから家の解約とか色々と準備もあるから忙しいのよ。それに3ヶ月あいつの傍にいても何の変化も見られなかった。だからもういいの。考えてもみれば12年も片思いしていた私は執着し過ぎだったのよ。まるであの頃のあいつみたいにね。それに世間から見れば私の行動はイタイ女の代表のようなものよ。それからあの男。金銭的な補償をするから私に愛人になれって言って来たのよ?」

結婚してもつくしが自分の傍にいることが当然のような態度を取った。
それも昔みたいに金に物を言わせた。

「先輩を愛人にですか?愛人なんて言葉。昔の女嫌いの道明寺さんとは全然しっくりこない言葉で幻滅します。でも先輩のことを忘れた道明寺さんは男の欲望に正直な人になっていますから、そんな態度を取っても仕方ないとは思います。

分かっている。
いい年をした男が女なしで過ごせるとは思っていない。
それに好むと好まざるとにかかわらず道明寺財閥の後継者の周りには女が集まる。

「でも愛人になれと言ったのは少なからず先輩のことを気に入っているってことですからね?それにたとえ見合い相手と結婚しても先輩のことを離したくないと思っているのなら何かあると思いたいんですけど……でも妻を抱いた後で牧野先輩を抱くとすれば、やりきれない思いがするのは当然だと思います。私だって他の女のベッドから出て来たばかりの男と寝ようとは思いませんから」

つくしの倫理観は妻のいる男が他の女を抱くことに寛容ではない。
それがたとえ形だけの政略結婚だとしても、相手の女性の気持が男と同じだとは限らないからだ。
だから、相手の女性の気持もだが、自分自身を嫌悪しないためにも男の前から去ることを決めた。

「それに先輩は決意したからにはそうするんですよね?私が何を言っても決意は変わらない。そういうことですよね?」

「うん。もう決めたことだから。それにふたりの関係は12年前に終わったと認めるべきだったのよ。それなのにそれを認めなかった女はバカみたいな幻想に囚われていたのよ。自分を忘れた恋人がある日突然玄関の前に立っていて思い出した。ゴメンって言ってくれるのをね。
でもそれは幻想なのよ。それにね、桜子。人生はまだ折り返し地点にさえ到達していないわ。だから幻想に心を搔き乱されてる場合じゃないの。立ち止まっている場合じゃないのよ。前に進まなきゃ進歩がないのよ。だから見知らぬ土地での新しい出会いに期待するわ!もしかするとベトナムで出会いがあるかもしれないし人生これからよ!」

と、宣言をしたが、こうして口に出してしまってから改めて自分の恋が終ったことを実感していた。





そして一週間が過ぎた。
これまでのように週末に男の部屋を訪ねることは無くなった。
けれど自分は何かを待っている。それは男が何かを言ってくることを。
だが何を言ってくるというのか。それにもう少し、あと少し時間が経てば何かが変わるはずだと願っていたのは過去の自分だが今は違う。そして自分の心は自分で慰めたはずだ。

「さてと…..転勤は断捨離するいい機会だわ」

呟いたつくしは立ち上るとクローゼットの扉を開けた。




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コメント
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dot 2020.11.03 09:14 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
お話が進み、つくしはベトナムに渡ったようです。
思い出の品。それらをどうしたのか。
その様子を見ることが出来ませんでしたが、断捨離したのでしょうかねえ。
アカシアdot 2020.11.05 22:06 | 編集
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