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2020
10.30

Love Affair 13

「金の心配はするな。派遣の仕事は辞めろ。住む場所も用意しよう」

男はつくしに愛人になればいいと言った。
つくしは自分の人生を他人に委ねるなど考えたことがない。だからこのときの男の言葉は、これまでの人生で言われたことがない言葉だ。
いや…..過去に似た様な言葉を言われたことがあった。
それは高校生の頃。この男は金で買えないものはないと言ってつくしの心を金で買おうとした。そんな男をキッッパリと拒否したが、大人になった男は、今度はつくしの身体を金で買おうとしていた。

だが今のつくしは、そう思われても仕方がないのかもしれない。
それは、お金のためにこの仕事をしていると言ったからだ。
だから男の目に自分がどんな風に写っているのか理解している。
それに唇を合わせ、舌を絡み合わせ、身体を開いて男の欲望を受け止める女は、政略的な婚姻関係を結ぶ相手とは違い性関係以外のことを望まないのだから男にとっては実に都合がいい女だ。
だがつくしがお金のためにレンタルファミリーの仕事をしていると言ったのは、自分の気持を隠すための隠れみので本心ではない。それに自分がしていることは本来のレンタルファミリーの仕事ではない。桜子が経営するレンタルファミリーは真剣に家族を求めている人間が利用する会社だ。
それに大人になった今、つくしは自分で自分を養うことを誇りに思っている。だからいくら自分のことを思い出して欲しいと願う男の傍にいたいとはいえ、愛人になれと言われてもそれを受け入れることは出来なかった。

「…..なによ。昔に戻っちゃって….」

「昔に戻った?一体なんの話だ?」

男は怪訝な顏をしてつくしを見ている。

「覚えていないでしょうけどあなたは昔、自分の優位さを見せつけて人の気を惹こうとしたわ。それにバカみたいに自分に自信があった。自惚れの塊だった。親のお金で人の頬を叩くような男だった。でもそんなあなたは自分の人生を敷かれたレールの上を走る列車のようにしたくない。自分の人生は自分で決めると言ったわ。だけど今のあなたは親から結婚相手をあてがわれてそれを受け入れようとしている。結局あなたの人生は自分のためにあるんじゃない。財閥のためにあるのよ」

人は大人になるにつれて言いたいこと全てを口にすることが正しいとは言えないことを学ぶ。それは思慮というものであり心に秘めておくべきことや、言うべきではない言葉というものを知る。だからつくしもこれまでの社会生活の中で思っていることがあってもそれを簡単に口にすることはなかった。それに敢えて言わないこともあった。
だが今この瞬間、心に湧き上がって来る思いに蓋をすることはしなかった。

「いい?よく訊いて。私は誰のものでもない。もちろんあなたのものでもない。それに私は情事には一番不向きな人間なの。それからあなたは自分の人生が荒んだものだった頃のことをどう思ってるのか知らないけど、私はその頃から自分の人生にプライドを持っていた。たとえ貧しい家庭の娘でも人生を嘆いたりしなかった。何しろバイトで忙しいから、嘆いたり非行に走ったりする暇なんてなかったわ」

つくしは愚痴をこぼすことが嫌いだ。
けれど桜子から心の中をぎゅうぎゅう詰めにしないようにと言われていた。
それは思い詰めて窮屈になった心はパンクするからだ。
そしてパンクした心を修理するのは大変だから、もう無理だと思ったら止めろと言われていたが、もしかすると今のこの状況はパンク寸前なのかもしれない。
何しろ3ヶ月経っても男はつくしを思い出すどころか愛人として傍に置きたいと言うのだから今が止め時。つまり今が潮時で男の傍を離れることを決めるべきなのかもしれない。
それに言葉にしても身体にしても、もうこれ以上伝えられることはない。

それに男は見合いをして結婚をする。
だからこれから先一緒にいても、過ごす時間が短くなるのか延びるのか分からないが、どちらにしても結果は同じように思えた。

「お前の話は何が言いたいのか要領を得ないが答えは訊いた。俺の愛人になるのは断るということだな?」

「ええ。さっきも言ったけど私は情事には一番不向きな人間なの。愛は…..愛は一人占めしたいから。それに私は欲張りな女なの。だから誰かと男を分け合うことは出来ないの」

そう答えたつくしは、お金のために抱かれているという役を遣り遂げ一刻も早く男の前から立ち去りたかった。

「分かった」

暫く間を置いて男が言ったのはそれだけだった。
自分はどんな言葉を期待していたというのだろう。
実はつくしのことを思い出していたとでも言われると思ったのか。
だがそうではないことは、抱かれていれば分かる。思い出していたなら何かを感じたはずだ。
けれど感じられることは何もなかった。
それにしても、自分が身体を投げ出せば男の記憶が戻るのではないか。自分のことを思い出してくれるのではないか。そう思った女は12年間の中で一番バカな女だ。




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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.10.30 17:12 | 編集
司*****E様
愛人にはなれない。それがつくしの答えでした。
そして潮時だと考えているつくしは、自分を思い出さない男のことはキッパリと忘れ海外転勤の話を受けるのでしょうか。
過去を振り返ってもどうにもならない。そして未来は自分の手で切り開く。
そんな性格のつくしですからねえ。
彼女の選択は次のお話でお分かりいただけると思います(^^ゞ
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.11.01 22:02 | 編集
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