fc2ブログ
2020
10.28

Love Affair 12

ふたりは食事をしたりどこかへ出かけたりして過ごす仲ではない。
それはベッドで過ごした後は、男がシャワーを浴びている間に部屋を出て行くことが性的な関係を結んだ女の身の処し方だと思っているからだ。
だからこうした時間の使い方は初めてだ。

「どうした?口に合わないか?」

「まさか。美味しいわよ?」

ゆっくりとナイフとフォークを置いたつくしに男は訊いたが、メープルのフレンチレストランの料理が口に合わない女はいないはずだ。
そして男はその外見からどこにいても注目を集めるが、それはここも同じで離れた席から向けられる視線は男女を問わなかった。だが男は全く人目を気にしていなかった。堂々としたその態度は他人の視線を気にするどころか、むしろ当たり前だと捉えている。
それに引き換え、注目を集めることが苦手なつくしは周囲の視線が気になった。

それにホテル経営は道明寺楓が力を入れている事業だ。
楓はつくしのことを嫌っていた。息子の交際相手には相応しくないと言った。初めて会った時からあからさまな態度を取り息子の傍からつくしを排除しようとした。だからここに彼女の目が無くても、息子が女性と食事をしていることは耳に入るはずだ。それに見合いをすることが決まっている息子と食事をしている女性の素性を知りたがるはずだ。

ウェイターが近づいてきてワインを断わったつくしのグラスに水を注ぎ足すと、水滴が落ちてテーブルクロスにシミを作った。
透明なシミは小さなもので気になるものではない。だがもしそのシミの色が赤ければ気になっていたかもしれない。何故なら赤いシミは血を連想させるからだ。あのとき刺された男が流した血の色を。そして赤いシミは倒れた男の周りに広がると、つくしの手を真っ赤に染め__

「お前はこの仕事をしているのは金がいいからだと言ったな」

そう言われたつくしは頭の中に甦った12年前のあの光景を慌てて振り払った。

「それに架空でもいいから家族が欲しいと思う人間がいると言ったが、俺に言わせればそこまでして家族が欲しいと思う人間がいることが不思議だ」

男が話し始めたのは自分の家族と自分の幼い頃のこと。
だが何故そんな個人的なことを肌を重ねるだけの女に話すのか。
けれど人は他人だから話せることがある。だから今の男の中にそういった感情が湧き上がって来たなら口を挟まず聞くべきだと思った。

「俺の家族は両親と姉だが父親と母親とは幼い頃から離れて暮らしてきた。周りにいたのは大人ばかりで、どんなにそいつらが笑顔を向けても、自分はひとりぼっちだという思いがぬぐえなかった。クリスマスも正月も誕生日も孤独な子供にとっては楽しいと思えなかった。つまり他人が楽しいと思える時間は俺にとっては楽しくない思い出だ。
それに親と一緒にいる時間よりも使用人と一緒にいる時間が長かった俺は血の繋がりがあっても親を家族とは思えなかった。親からの愛情を感じたことがなかった。
それなら使用人を家族と思えるかと言えば、たとえ30年一緒に暮らしても使用人とは家族にはなれない。それは彼らには彼らの本当の家族がいるからだ」

大勢の使用人が働いていた道明寺邸。
だがあの邸にも男を可愛がっていた老婆がいた。

「そうは言ってもただひとりだけ、俺のことを孫のように可愛がってくれた老婆がいたが、その老婆も今はいない」

つくしはそこでタマが亡くなったことを知った。

「俺は家族というものを知らない。それに家族としての過ごし方が分からない人間だ。
そんな俺に母親が見合いの相手を用意した。見合いという名の顔合わせだ。会えばその女と結婚することになる」

親が揃っていても家族ではない。
だから両親と一緒にいても家族としての過ごし方が分からないと言う男だが、母親が用意した相手と結婚するという。それは男が道明寺家の跡取りで、いずれ結婚しなければならないことを分かっているということ。
だがその態度はどうでもいいといったもので相手に興味を示してはいない。

「だが俺は相手が誰であっても愛してるとは言えない」

そう言った男は、かつてつくしに愛してると言った。
そしてもう二度と離さないと言った。
だがどうして男はそんな話をつくしにするのか。
するとまるで思考が伝わったかのように男が言った。

「愛しているという言葉は欲望を正当化するための言葉だ。俺はお前を愛していなくても抱ける。お前のどこが好きだとか嫌いだとかそういったことは関係ない。ただお前を抱きたいから抱く。そこに愛という理屈をつける必要はない。それに母親が用意した見合い相手の女は気位の高いお飾り人形だ。そんな女は道明寺の跡継ぎを産ませるための道具に過ぎない。
だが俺とお前の相性はいい。だから俺が結婚してもお前は愛人になればいい」




にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト




コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.10.28 07:39 | 編集
ふ*******マ様
おっちょこ姉さん改め、切ないつくしが選んだ道。
そんなつくしに対しての司の申し出。
彼女の返事は如何に!

季節が進み寒さが増してきました。
え?室内とはいえまだ半袖ですか?( ゚Д゚)
寒がりのアカシアには、ふ*******マ様が鉄人のように思えます。
とはいえ、ご自愛下さいね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.29 21:44 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.10.29 21:52 | 編集
と*様
お久しぶりです。
続きが気になりますか?わあ、ありがとうございますm(__)m
続きを書きましたので楽しんで下さいませ^^
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.29 22:49 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top