「お前。なんでこんな仕事をしている?」
ベッドを出て服を着ていたつくしは、その声に後ろを振り向いた。
起こさないように気を付けていたつもりだったが、男は目を覚ましていた。そして片肘をついた姿勢でこちらを見ていた。
男と寝るようになって3ヶ月経ったが、これまでそんなことを訊かれたことはない。
だから今更何をという思いでいる女に、「他人の家族のフリをする。そんな仕事をしている理由だ」と男は言った。
つくしは桜子が経営するレンタルファミリーから派遣されていることになっているが、本当の仕事はスポーツ用品会社のフットウエア事業部の営業だ。
そんな女がかりそめとはいえこの仕事をしているのは、男に自分を思い出してもらいたいから。男に近づくために桜子の会社を利用しているだけだ。
だがそれを口にすることは出来ない。
「私がこの仕事をしているのは、お金がいいからよ」
お金を隠れみのにしているが本当はお金など関係ない。
男が自分を抱くことで失われた記憶を思い出すのではないか。その思いがあるからここにいる。
それに金のために身体を提供する女だと自分を卑小な存在にしても、男がつくしを抱くことに心が伴っていなくても、過去に愛され求められた記憶があるから抱かれることが出来る。
「なるほど。世の中には金払いのいい寂しい人間が多いってことか?」
「ええ。そういうことになるわ。それに実際依頼があるってことは偽物でもいい。架空でもいいから家族を欲しいと思う人間がいるってことよ」
と答えたつくしは少し間をあけてから訊いた。
「あなたには家族がいるんでしょ?」
つくしは男が誰であるか知らないことになっている。
だが男の家族構成は勿論、両親と姉がどんな人物か知っている。
「ああ。いる。両親と姉がいるが両親はいてもいなくてもいいような存在だ」
そう答えた口調は冷たかったが、「お前は?家族はいるのか?」の言葉には好奇心が感じられた。
「ええ。両親と弟がいるわ」
「そうか。家族は仲がいいのか?」
「そうね。喧嘩もするけど仲がいい家族よ」
初めて訊かれた個人的なこと。
ふたりはこれまでこうした時間を持ったことがない。
それは身体だけの関係の男と女にとって言葉は必要のないものであり、感情を介在させたいと思わない男に女の個人的なことは必要ない。
つまり他人のプライバシーに関心がないということ。
そんな男に必要なのは今、女を抱きたいか。抱きたくないかを考えるだけで、つくしの素性などどうでもいいのだ。
だがそんな男の意識がつくしに向けられたのなら、この流れに乗って忘れ去られた記憶を掬い上げ、手のひらに乗せて男の前に差し出してみようかという気になった。
だから「ねえ__」と言ったところで男が口を開いた。
「腹減ってんだろ?食事に付き合え」

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ベッドを出て服を着ていたつくしは、その声に後ろを振り向いた。
起こさないように気を付けていたつもりだったが、男は目を覚ましていた。そして片肘をついた姿勢でこちらを見ていた。
男と寝るようになって3ヶ月経ったが、これまでそんなことを訊かれたことはない。
だから今更何をという思いでいる女に、「他人の家族のフリをする。そんな仕事をしている理由だ」と男は言った。
つくしは桜子が経営するレンタルファミリーから派遣されていることになっているが、本当の仕事はスポーツ用品会社のフットウエア事業部の営業だ。
そんな女がかりそめとはいえこの仕事をしているのは、男に自分を思い出してもらいたいから。男に近づくために桜子の会社を利用しているだけだ。
だがそれを口にすることは出来ない。
「私がこの仕事をしているのは、お金がいいからよ」
お金を隠れみのにしているが本当はお金など関係ない。
男が自分を抱くことで失われた記憶を思い出すのではないか。その思いがあるからここにいる。
それに金のために身体を提供する女だと自分を卑小な存在にしても、男がつくしを抱くことに心が伴っていなくても、過去に愛され求められた記憶があるから抱かれることが出来る。
「なるほど。世の中には金払いのいい寂しい人間が多いってことか?」
「ええ。そういうことになるわ。それに実際依頼があるってことは偽物でもいい。架空でもいいから家族を欲しいと思う人間がいるってことよ」
と答えたつくしは少し間をあけてから訊いた。
「あなたには家族がいるんでしょ?」
つくしは男が誰であるか知らないことになっている。
だが男の家族構成は勿論、両親と姉がどんな人物か知っている。
「ああ。いる。両親と姉がいるが両親はいてもいなくてもいいような存在だ」
そう答えた口調は冷たかったが、「お前は?家族はいるのか?」の言葉には好奇心が感じられた。
「ええ。両親と弟がいるわ」
「そうか。家族は仲がいいのか?」
「そうね。喧嘩もするけど仲がいい家族よ」
初めて訊かれた個人的なこと。
ふたりはこれまでこうした時間を持ったことがない。
それは身体だけの関係の男と女にとって言葉は必要のないものであり、感情を介在させたいと思わない男に女の個人的なことは必要ない。
つまり他人のプライバシーに関心がないということ。
そんな男に必要なのは今、女を抱きたいか。抱きたくないかを考えるだけで、つくしの素性などどうでもいいのだ。
だがそんな男の意識がつくしに向けられたのなら、この流れに乗って忘れ去られた記憶を掬い上げ、手のひらに乗せて男の前に差し出してみようかという気になった。
だから「ねえ__」と言ったところで男が口を開いた。
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コメント
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司*****E様
こんばんは^^
食事に誘った男はつくしに興味を持ったのでしょうか。
もしそうならどんな話をするのでしょうねえ。
こんばんは^^
食事に誘った男はつくしに興味を持ったのでしょうか。
もしそうならどんな話をするのでしょうねえ。
アカシア
2020.10.27 22:17 | 編集
