つくしの男性経験は過去にたった一度。
あれから12年の歳月が流れ抱かれた男はあの時と同じ男。
だが男の頭の中に牧野つくしの記憶はない。そして男にとってつくしは金を渡して性を得る関係以外のなにものでもないが、こういった関係になったことを後悔していない。
12年前はふたりとも未熟だった。だが高揚した気持は互いを求めて止まなかった。
そして、ぎこちないながらも結ばれたふたりは二度と離れないと誓った。そんなふたりの前に現れた別れは一瞬の出来事。刺され重傷を負った男はつくしのことだけを忘れアメリカに渡った。あの時の喪失感は日々が癒してくれた。だが男を好きだった気持は消えることも薄れることはなかった。
「先輩…..道明寺さんはまだ先輩のことを思い出さないんですね?」
あれから2ヶ月が経った。
つくしは桜子に呼ばれ彼女の会社にいた。
依頼者の望みに応えるのがレンタルファミリーの仕事であり、桜子の会社は健全な会社で当然ながら契約に性的な関係が含まれることはない。だが、桜子はつくしが男の部屋でただ話しの相手をしているとは思ってはいない。
そして男はつくしの身体に不満はないのか。求めることを止めなかった。
そんなとき、男の自分への感情を確かめたいという思いが湧き上がって来る。だが永続的な関係を求めないと男は言った。だから愛撫やキスがあったとしても、つくしの名前を呼ばない男の身体の動きに心の動きはない。
それにつくしは金が必要だという理由で抱かれる女の仮面を被っている。だからそんな女を演じているつくしは、吐き出すことが出来ない言葉を抱えベッドに横たわり男を体内に受け入れていた。
「先輩?訊いてますか?」
「え?うん……訊いてるわよ?道明寺が思い出さないって話でしょ?」
「ええ。そうですけど本当に大丈夫ですか?先輩は頑固な人間ですから、こうと決めたことは遣り遂げようとしてギリギリまで無理をします。心の中をぎゅうぎゅう詰めにしてしまいます。でもそんなことをしていたら先輩の心がダメになってしまいます。窮屈になった心は後はパンクするだけでなんですから。パンクしちゃったら修理するのが大変です。
それにいくら先輩が道明寺さんのことを愛していても今の道明寺さんは先輩のことを愛していません。だからもうこれ以上無理だと思ったら言って下さい。始める勇気があったんですから止める勇気もあるはずです」
桜子は2ヶ月が過ぎてもつくしを思い出さない男との関係を辛いことと捉えているようだが、後悔することだけはしたくない。だから手にすることが出来たチャンスを生かすことだけを考えていた。
「分かってる…..分かってるわよ。でもね桜子。たとえ道明寺に私の記憶がなくても、私についての記憶が姿を消したように見えても心のどこかに余韻が残っていて何かの拍子に思い出されることがあってもおかしくないでしょ?」
そんな望みを持っているから、つくしはどんな形でもいいから男の傍にいたいと望んだ。
だが桜子はつくしが無理をしているのではないかと心配していた。
「牧野先輩....先輩は賢い人です。だからどこかでケジメをつけると思います。それまでは私も先輩のことを見守るつもりでいますが、心が耐えきれなくなったら道明寺さんに会うのは止めて下さいね」
つくしは眠っている男を眺めるのが好きだ。
初めの頃こそ終われば早々にバスルームに向かう男がいたが、今は無言で横たわると眠りにつくようになった。
すると、その瞬間つくしの心は安らぎを感じる。それはその姿が12年前の男の姿に重なるからだ。
そして目を閉じた男の唇に触れようと指を伸ばしても触れることなく止めるのは、触れたことで男が目を覚ませばこの安らぎが終るからだ。
この時間は、つくしにとって大切な時間。だからそれが終ることがないように伸ばされた指が男の唇に触れることはない。その代わり触れたのは癖のある髪の毛。そっと触れると目を閉じていた。

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あれから12年の歳月が流れ抱かれた男はあの時と同じ男。
だが男の頭の中に牧野つくしの記憶はない。そして男にとってつくしは金を渡して性を得る関係以外のなにものでもないが、こういった関係になったことを後悔していない。
12年前はふたりとも未熟だった。だが高揚した気持は互いを求めて止まなかった。
そして、ぎこちないながらも結ばれたふたりは二度と離れないと誓った。そんなふたりの前に現れた別れは一瞬の出来事。刺され重傷を負った男はつくしのことだけを忘れアメリカに渡った。あの時の喪失感は日々が癒してくれた。だが男を好きだった気持は消えることも薄れることはなかった。
「先輩…..道明寺さんはまだ先輩のことを思い出さないんですね?」
あれから2ヶ月が経った。
つくしは桜子に呼ばれ彼女の会社にいた。
依頼者の望みに応えるのがレンタルファミリーの仕事であり、桜子の会社は健全な会社で当然ながら契約に性的な関係が含まれることはない。だが、桜子はつくしが男の部屋でただ話しの相手をしているとは思ってはいない。
そして男はつくしの身体に不満はないのか。求めることを止めなかった。
そんなとき、男の自分への感情を確かめたいという思いが湧き上がって来る。だが永続的な関係を求めないと男は言った。だから愛撫やキスがあったとしても、つくしの名前を呼ばない男の身体の動きに心の動きはない。
それにつくしは金が必要だという理由で抱かれる女の仮面を被っている。だからそんな女を演じているつくしは、吐き出すことが出来ない言葉を抱えベッドに横たわり男を体内に受け入れていた。
「先輩?訊いてますか?」
「え?うん……訊いてるわよ?道明寺が思い出さないって話でしょ?」
「ええ。そうですけど本当に大丈夫ですか?先輩は頑固な人間ですから、こうと決めたことは遣り遂げようとしてギリギリまで無理をします。心の中をぎゅうぎゅう詰めにしてしまいます。でもそんなことをしていたら先輩の心がダメになってしまいます。窮屈になった心は後はパンクするだけでなんですから。パンクしちゃったら修理するのが大変です。
それにいくら先輩が道明寺さんのことを愛していても今の道明寺さんは先輩のことを愛していません。だからもうこれ以上無理だと思ったら言って下さい。始める勇気があったんですから止める勇気もあるはずです」
桜子は2ヶ月が過ぎてもつくしを思い出さない男との関係を辛いことと捉えているようだが、後悔することだけはしたくない。だから手にすることが出来たチャンスを生かすことだけを考えていた。
「分かってる…..分かってるわよ。でもね桜子。たとえ道明寺に私の記憶がなくても、私についての記憶が姿を消したように見えても心のどこかに余韻が残っていて何かの拍子に思い出されることがあってもおかしくないでしょ?」
そんな望みを持っているから、つくしはどんな形でもいいから男の傍にいたいと望んだ。
だが桜子はつくしが無理をしているのではないかと心配していた。
「牧野先輩....先輩は賢い人です。だからどこかでケジメをつけると思います。それまでは私も先輩のことを見守るつもりでいますが、心が耐えきれなくなったら道明寺さんに会うのは止めて下さいね」
つくしは眠っている男を眺めるのが好きだ。
初めの頃こそ終われば早々にバスルームに向かう男がいたが、今は無言で横たわると眠りにつくようになった。
すると、その瞬間つくしの心は安らぎを感じる。それはその姿が12年前の男の姿に重なるからだ。
そして目を閉じた男の唇に触れようと指を伸ばしても触れることなく止めるのは、触れたことで男が目を覚ませばこの安らぎが終るからだ。
この時間は、つくしにとって大切な時間。だからそれが終ることがないように伸ばされた指が男の唇に触れることはない。その代わり触れたのは癖のある髪の毛。そっと触れると目を閉じていた。

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コメント
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司*****E様
こんにちは^^
まだ思い出しませんねえ。
これがチャンスと思い後悔しないために男の傍にいることにしましたが、身体の関係だけではダメなのでしょうかねえ。
こんにちは^^
まだ思い出しませんねえ。
これがチャンスと思い後悔しないために男の傍にいることにしましたが、身体の関係だけではダメなのでしょうかねえ。
アカシア
2020.10.27 22:04 | 編集
