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2020
10.21

Love Affair 9

帰れと言われても帰る訳にはいかなかった。
だからソファから立ち上がると食い下がった。

「ちょっと待って下さい!こ、困ります!終わりだ帰れと言われても困るんです!」

「何が困る?お前が困ることはないはずだ。お前は派遣されて来た女だ。派遣先の俺がお前は必要ないと言えばそれで終わりだ」

「だ、だから困るんです!」

「さっきから困る困ると言うが何が困る?ああ金か?心配するな。金なら払う」

つくしの態度に男は面倒くさそうに答え背中を向けた。
それは用は済んだ。早く帰れという意味だが、ここに来たのは男の忘れた記憶を呼び覚ますためだ。だから帰る訳にはいかないのだ。それに今のつくしには、この男との接点はなく、やっと手に入れたこうした状況を簡単に手放すことは出来ない。
それにつくしの話がつまらないと言うのなら、もう二度と呼ばれることはないだろう。
だからこそ、はい、分かりましたと帰る訳にはいかないのだ。

「困ります。私はあなたの話し相手として派遣されました。そんな私が初日の1時間で帰されたとなれば会社に満足な仕事が出来ない人間だと思われます。そうなると今後仕事を回してもらえなくなります。生活が出来なくなります。だから私の話がつまらないとおっしゃるなら、別の話をします。いえ….ご要望があればそれにお応えします。どのようなご要望でも構いません」

つくしは男の背中に向かって言った。
すると男はつくしの言葉に振り向いた。
そしてつくしをじっと見た。

「どんな要望でも応える?」

「はい。派遣先のご要望にお応えするのが当社のモットーですから、どんなことでもおっしゃって下さい」

「…..そうか。どんなことでもするか…」

男はつくし身体に視線を這わせたが、それは故意であり値踏みをしていると言えた。だが、つくしはどんな視線を向けられても怯まなかった。

「このところゴブサタしているんだが?」

男はそう言うと軽い冷笑を浮べ、つくしに近づいた。

「ホテルで部屋を間違えたと言って俺の前に再び現れたお前は、あの時「そんな女」じゃないと言った。だが、どんな望みでも叶えると言うなら結局お前は「そんな女」だろ?御大層に自分の仕事について話したが「そんな女」は誘惑されたがっていた。違うか?」

つくしは男がつくしのことを「そんな女」だと思っているあいだ思った。
この男はこういったことでは場数を踏んでいる。それに少年の頃とは違い女の扱いに慣れている。だがこれまで永続的な関係を持った女性はいない。そんな男が今、望んでいるのは情事だ。そして男はつくしが口を開くのを待っている。
だが男女のそういった関係ぐらい、つくしにとって苦手な事柄はない。
けれど、どんなことをしても男に自分のことを思い出してもらいたかった。

少女の頃のつくしは理屈をつけて男を遠ざけていた。だが、拉致されて連れて行かれた島で結ばれた時から理屈をつけて物事を考えることを止めた。だから目の前の男の目や頬や唇が笑わなくても構わない。つくしは自分の心が望むままに行動することに決めた。

「永続的な関係は望まないのね?」

「ああ、望まない」

「分かったわ」









12年前ふたりは恋人同士だった。
だが今、男が抱いているのは派遣されてきた見知らぬ女。
その女の裸は華奢で頼りない。
そして男は口を開くことはなく、女の肩に胸に手を這わせていた。




男は見合いをすれば、その相手と結婚する。
そんな男との関係が身体だけだとしても、つくしは男に抱かれることに迷いはなかった。
それは男の身体が覚えている牧野つくしの記憶を引き出すことが出来るのではないかという思いがあるからだ。それに自分の無力を思えば、なすべきことは決まっていて、実際これは描いていたシナリオのひとつだ。
だが一夜だけで終らせるつもりはなかった。それに今ここにいるのは、ただ年を取ったのではない大人の女で現実を知っている女だ。人生を学んだ女だ。そんな女が知ったのは敢えて言うなら騒々しさからかけ離れた場所にある哀しみ。男の記憶の中から忘れ去られた女の静かだが確実な哀しみだ。
しかし、そんな女には熱い感情があった。それは私を思い出して。私を愛して欲しいという思い。
だから言った。

「では私を買って下さい。お金が必要なんです」

それは金銭を介した関係。
つくしは金など必要としていなかったが、そうすることで定期的に男と会う契約を結んだ。





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コメント
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dot 2020.10.21 20:32 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
つくしの経験は4話で語られているのですが、あります。
そしてこういった関係もシナリオにあったようです。
自分を思い出してもらいたいという女は一途です^^
アカシアdot 2020.10.22 23:20 | 編集
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