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2020
10.19

Love Affair 8

人は常に何かを失いながら生きている。
その何かのひとつが記憶であり、生まれた時からの全ての記憶を持って生きる人間などいない。だから古い記憶は忘れられて当たり前だと言うが、高校生の頃の記憶ならそう遠い昔ではなく、錆びついた扉の向こうへ置かれていてもおかしくはない。
つまり何かのきっかけがあれば思い出すのではないか。だから錆びついた扉を開ける必要がある。そうでなければ男の心の空洞は永遠に埋まることがないのだから。

だが空洞を抱えているのはつくしだけで男の心に空洞などないのかもしれない。いや空洞どころか隙間さえも無いのかもしれない。
だがそれでもいい。こうして勇気を出して行動を起こしたのだ。
話すことが男の錆びた扉の向こうにあるはずの過去の記憶と結びついてくれることを願い、与えられたチャンスを生かして男の記憶を取り戻してみせる。そうだ。よそ見をされたとしても取り返してみせる。






「いくら男が少女のことを好きだと言っても少女は男のことが好きになれませんでした。
それは男が我儘で自分本位だからです。それに少女には他に好きな人がいました。だから男の行動は迷惑以外の何ものでもありませんでした。でも男は少女が困難な状況に置かれたとき助けてくれました。少女を助けるためなら身を挺しても構わない。届かない想いを少女に届けるためならどんなことでもするという男になりました。やがて少女もそんな男のことを気にするようになりました。でも男は裕福な家庭の子供で彼女はそうではありません。ふたりが惹かれ合ったとしても男の母親が許しませんでした。だからふたりは男の母親の目を逃れ付き合いを始めました」

つくしはかれこれ1時間近く話をしていたが、不思議なことに男が口を挟むことはなく黙って聞いていた。
だが話せば話すほど男が覚えていない時を実感し、本来なら重ねていたはずの時が虚しく過ぎ去ってしまったことを悔しく感じていた。だがだからといって16歳に戻りたいとは思わないが、あの時は逆戻りする時計の存在を望んだ。

「つまんねえ話だな」

「え?」

「つまんねえ話だって言った」

椅子にもたれていた男は、そっけなく言って足を組み肘をついた姿勢から立ち上がった。

「つまらないって….でも話をしろと言ったのは道明….いえあなたです。何でもいいと言ったのはあなたですが?」

「ああ。何でもいいと言った。だがお前の話はたかが高校生の恋愛話だ。所謂女や子供が喜ぶような話だ。そんな話は結局ハッピーエンドで終ると相場は決まっている。もしくは主人公のどちらかが不治の病に侵され余命いくばくもない。お涙頂戴で終る。そんな話か?お前のような女ならもっと面白い話をしてくれるかと思ったが違ったか。もういい」

つくしは男の言葉に不安げに息を吸いこんだ。

「もういい?….もういいって….あの、それはどういうことでしょう?」

もういいということは話を止めろということだが、その言い方から男がつくしの話を望んでいないことは明らかだ。そして、もういい、の言葉に含まれるのは、今日はもういいということなのか。だがつくしが派遣されるのは週末だが訪問の日時と回数は決められていない。
つまり今日のこの一日で終わりということも考えられる。それは次はないということだ。

「もういいの意味か?俺が言うもういいってのは終わりってことだ。それにお前の話は暇潰しにもならないただの恋愛話だ。だからもういい。帰れ」



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コメント
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dot 2020.10.19 13:47 | 編集
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dot 2020.10.19 22:21 | 編集
ま**ん様
今年もまた冬がやって来ますが、今年はインフルや風邪だけではなくコロナにも注意しなければなりません。
仰る通り緊張はまだ暫く続きそうです。

さて、「もういい」と言われた女はどうするのでしょう。
強い決意をもって司の元を訪れた女はどうするのでしょう。
揺るぐことのなかったその思い。果たして伝えることが出来るのでしょうか。
大人になった女の心の中にあるのは....
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.20 21:55 | 編集
司*****E様
こんばんは^^
つまらない恋愛話は訊きたくない。
そう言われた女はどうするのでしょう。
帰れと言われ帰るのでしょうか。
しかしやっと掴んだチャンスです。
つくしが決意を持って臨んだこの状況です。
自分を思い出してもらうためなら.....その決意を行動に移すのでしょうかねえ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.20 22:09 | 編集
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