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2020
10.15

Love Affair 6

Category: Love Affair
「バカほど高い場所に上りたがるって言うけど、今のあいつはバカな男じゃないし、こういった場所に住むのに相応しい男なのよね….」

つくしはマンションの入口に立っていたが、見上げる建物は空を突く高さでエントランスにはコンシェルジュがいた。
そのコンシェルジュから、「お伺いしております。どうぞこちらでございます」と案内されたのは奥まった場所にあるペントハウスへの直通エレベーター。
高速で上昇する箱の中で気合いを入れたが、呼ばれた理由の話し相手という立場の意味が分からなかった。

これはレンタルファミリーからの派遣だが、家族ではないただの話し相手を求めるという例外を認めたのは、こうなることを願った相手からの依頼だからだ。
だが、30歳のやり手の副社長が週末に女を呼びつけ何を話すというのか。あの男の元へ向かいながら、これまでのあの男の浮いた話が脳裡を駆け巡ったが、まさかそんな話を訊かされるのか。だがどんな話を訊かされても今はこの状況にかける望み、それは自分のことを忘れた男に今度こそ自分を思い出させたいという思いの方が大きく胸をよぎった。

そんな胸の中には12年間のフラストレーションが鬱積している。
それは男が悪い訳では無いのだが、自分の記憶だけを失った男に対して、どうして私なのよ?どうして思い出さないのよ?という不満だ。

そしてかつて自信過剰だった男は今も自信過剰だ。
上半身裸の身体は綺麗な逆三角形を描き、逞しい胸板と腕の筋肉を見せつけていた男は、部屋に入るか入らないのかと訊いたが、それは全ての女が自分と寝たがっていると決めつけているということだ。
だからそんな男と対峙するためには自分も積極的な態度を取ることが必要だ。
しかし、つくしには生まつきの積極性や押しの強さが備わってはいない。だから桜子に見習うべきところが大きい。そしてあの芝居については、猫を被るのが得意という桜子から指南され役になりきったが、今この瞬間から新たな展開が始まる。

つくしは扉が開くと背筋をピンと伸ばし、「レンタルファミリーから参りました。牧野と申します。この度は当社のサービスにお申し込み下さりありがとうございます。今回は話し相手として訪問させていただきましたが、当社は家族を求める方に家族を提供する会社です。ですから家族として何かして欲しいといったご希望があれば承ります」
と男を見上げながら早口で言ったが、つくしの派遣を要請した男は流石にあの時とは違い上半身裸ではなくちゃんと服を着ていた。そして長い間じろじろと彼女を見ていたが「入れ」と言われ室内に通された。

室内は男の一人暮らしにしては片付いていた。いや。片付いていると言うよりも生活感が感じられない殺風景な部屋だ。
そんな部屋で「その辺に適当に座ってくれ」と言われソファの真ん中に腰を下ろした。
すると真正面の椅子に腰を下ろした男は、肘掛に腕を乗せ優雅に足を組んだが、そこで初めて視線が水平になった。

「それで?何を話してくれる?」

「は?」

「お前は俺の話し相手だろ?それなら話してくれ。退屈な週末の埋め合わせをしてくれ」

つくしは目の前の男の態度にいい加減にして欲しいという気持になった。
話し相手として呼ばれてのだから退屈な週末の埋め合わせというのは理解出来る。
だが話をしてくれとは一体どういうことなのか?何故なら話し相手というのを世間は聞き役と捉える。だが、どうやらこの男は自分が話すのではなくつくしに話をさせるつもりらしい。
そんな男の漆黒の目は黙っているつくしを見据えているが、その目は出会った頃と同じ鋭い目だ。そうだ。出会った頃この目をヘビのような目だと思った。
だがそんな目も、つくしを見る時だけ優しさを湛えた目に変わった。そしてつくしの前で楽しそうに笑っている姿があった。その面影が過った。

「どうした?何でもいいから話してくれ。お前は面白そうな女だ。だから暇潰しにお前を呼んだ」

つくしは男の鋭い視線に怯まなかったが、少しの緊張もないとは言えなかった。それでもその緊張を打ち消して言った。

「申し訳けございませんがどうしたもこうしたも、私はあなたの話し相手としてこちらに派遣されて来ました。でもそれは、あなたの話の聞き役だと思っていました。だからシェヘラザードの役目を求められるとは思いませんでした」

千夜一夜物語のシェヘラザードは命がけで王に物語を語った。
彼女は物語を語り続けることで命を長らえた。そして王との間に子供をなし幸せに暮らした。だがまさかこの男はつくしが話をしないからといって殺しはしないだろうが、男がつくしの話を訊きたいというなら……..

「分かりました。それなら私が知っている話をします」と言うとつくしは話し始めた。




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コメント
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dot 2020.10.15 10:37 | 編集
司*****E様
いえいえ。どういたしまして。
気にしないで下さいね(^^ゞ

司に自分を思い出してもらいたい!
彼女はそう気合いを入れてこの状況に臨んでいるはずです。
さて、つくしシェヘラザード。どんな物語を語るのでしょうねえ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.16 23:16 | 編集
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