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2020
10.09

Love Affair 1

司は頭の片隅に響く音で目が覚めたが、その音は一体何の音でどこから聞こえてくるのか。
だからそれを確かめるためにバスローブを羽織るとベッドルームを出た。
そして音の聞こえる方に向かって歩き出したが、ソファが置かれている部屋を横切ると、ダイニングテーブルの上に置かれていたミネラルウォーターのボトルを手に取りキャップを緩め乾いた喉を潤した。
それから改めて音が聞こえている場所を確かめたが、そこはこの部屋の入り口の扉。
司はメープルのスイートに泊まっていたが、その扉のドアノブが微かに動いているのが見えた。
そしてそこで頭の隅に響いていた音はチャイムだと気付いた。つまり司の頭の中は何度も繰り返し鳴らされているチャイムの音が響いていたのだ。だがそのことに気付いた途端、今度はドンドンと扉が叩かれた。

それにしてもチャイムが付いている部屋の扉を激しく叩く。
それは余程この部屋にいる人間に会いたいということになるが、司はこんな風に訪問されたことがない。
それに司がここにいることを知っているのは秘書しかいない。
昨日の夜。いや明け方近くまで飲んでいた司は、今夜はここに泊まると言って秘書を帰らせた。
だが司の秘書の西田は何があっても冷静な男だ。
だからしつこくチャイムを鳴らすこともなければ激しく扉を叩くことはしない。
それに今日は土曜だ。仕事は休みだ。
それなら誰かと考えたとき、こんなことをする人間で思い浮かぶのは姉だ。
電話の着信を確かめることはしなかったが、姉が西田から司の居場所を訊いて尋ねて来て扉を叩いているのだ。何しろ姉は男勝りと言われる性格で思い立ったら即行動という人間だ。だがそんな姉はチャイムを押しながら扉をただ叩くのではなく声も上げるはずだ。
けれど扉の向こうから声は聞えなかった。
それなら一体誰がこんなに激しく扉を叩くのか。

「…..ったく。いい加減にしてくれ」

司は、そう呟いて扉を開けたが、それは寝ぼけているからだ。
そうでなければ相手が誰であるかを確かめることなく扉を開けることはない。
そして扉を開けた先にいたのは女。だが姉ではなかった。

「おはようございます。この度は当社のサービスをご利用下さいましてありがとうございます」

司の前にいるのは自分の胸の高さほどの女で丁寧に頭を下げた。
だが司は当社のサービスと言われてもピンとこなかった。
そして女は司の戸惑いを無視してズカズカと部屋の中に入り、「扉を叩いたのは、もしかすると熟睡しているかもしれないので起きなければそうして欲しいとおっしゃられていたからです。ですので遠慮なくそうさせていただきました」と言って部屋の中を見渡しソファにバッグを置き話し始めた。

「では早速ですが本日の予定を確認させていただきます。まず午後は、つまりこれからですが私はあなたの買い物に付き合う。そして夜ですが私はこちらのホテルのレストランであなたと食事をする。そして明日はあなたが買った服を着てあなたが別れたいと思っている女性に会ってその女性に新しい彼女だと紹介をされる。ということですね?」と言われたが司はさっぱり訳が分からなかった。
それよりも寝ぼけた頭で扉を開けたばかりに、変な女がここにいて訳の分からない事をペラペラと喋っているとしか思えなかった。

「それでは早速出掛けますか?ああ、でももうお昼ですね?お昼はこれからですよね?外で召し上がりますか?それともこちらでルームサービスを頼まれますか?何を召し上がりますか?メニューを御覧になりますか?」

女はそこまで言うと口を噤んで黒く大きな瞳で司を真っ直ぐ見た。

「お前。誰だ?」

司はやっと静かになった女に言った。

「は?」

「お前は誰だって訊いてるんだが?」

「誰だとおっしゃられても私はあなたがサービスを申し込まれた会社から派遣されて来た恋人ですが?」

「派遣されて来た恋人?」

「ええ。そうです。あなたは当社のサービスを申し込まれましたよね?メープルに泊まっているから部屋を訪ねて欲しいとおっしゃいましたよね?私は今日の12時にこちらの部屋を訪ねるように言われています。それからご安心下さい。あなたが臨時の恋人を雇われたことがこれから別れようとしている恋人にバレることは絶対にありません。それから秘密は絶対に__」

「お前。何か勘違いしているんじゃないか」

司はよく喋る女を遮ると言った。

「俺はそんなサービスを申し込んだ覚えはない。それに別れようとしている女もいない」

司の言葉に女はバッグから慌てて手帳を取り出すと捲った。そして目的のページを見つけた女は睫毛をバタバタと瞬かせた。





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コメント
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dot 2020.10.09 06:25 | 編集
司*****E様
この話はラブコメなのか。
そうではないのか。
さてどうでしょう(笑)
それにしても安眠を妨害されて始まるふたりの出会いも運命なのでしょうかねえ(;^ω^)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.10 20:48 | 編集
H*様
設定が斬新ですか?(笑)
どんなお話になるのか。楽しんでいただけるといいのですが....
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.10.10 21:08 | 編集
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