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2015
12.20

恋の予感は突然に 7

いい香りがする。
それはあのコロンと同じ香りがした。


ほんの少しのあいだだけでいい。
少しだけこうしていさせて欲しいと思った。
だってあたしにはこんな・・・
こんな経験をすることなんて二度とないだろうから。
滋さん今夜は多分失敗よ・・・



こんなふうに男性の傍、それも裸の男性の胸を間近に見るなんてどんな気分になるか想像したことがなかったけど自分の心臓の鼓動の音が聞こえるくらいドキドキしている。
もう少しだけこのまま・・・
どうせこの男が目を覚ますなんてことは無さそうだもの。





司は自分の胸元に暖かい吐息を感じ、女の匂いを感じていた。
そして胸に感じられた小さくやわらかな手の感触。
夢か?


つき合っていた女と別れた理由は子供が欲しいとほのめかして来たことでもあるがその女の匂いが嫌いだったから。
その女はいつもきつい香水をつけていた。
まるで自分の匂いをマーキングする動物のような女の行動に、いい加減にしてくれと言う気持ちがあったのも事実だった。
『この男は自分のもの』
そんな思い上がりにうんざりもしていた。
自分の香りを男に纏わせようなんて自惚れも甚だしい。
だからいつも長めのシャワーを浴び、女の匂いを消していた。

だが、いま自分が感じている匂いはふんわりとした石けんの香りだった。
なんの嫌味もない石けんだけの香りが嗅ぎ取れた。
セクシーさもなく、実用的な石けんの匂い。
今までつき合って来た女の中にそんな女はいなかった。
司は夢が薄れてくると、現実を認識しはじめていた。



つくしはまさか自分が性的な誘惑をしているとは夢にも思っていなかった。
だが、こうして男性の裸を目の前にして触れてみたいと言う衝動を抑えることが出来なかった。
つくしは理性を失ったかのような自分の行動に頭が朦朧としてきた。
この男がどんな立場の男であるか、よく知らないが女性が自ら身を投げ出してくることに慣れているはずだ。
そうでなければ、あんなものを用意しているとは思えない。


この男がもし目を覚ましたらどうする?
訴えられる?
セックスなんて経験したことがないんだから、この男が何を考えているかなんてわからないけど、病気と避妊だけは注意していることに感謝しよう。
そうでなければ、この男を相手になんか選ばなかった。

私だけの子供の為に海外の精子バンクを利用することも考えてみたが、往々にしてそんな所に登録をしているのは、大学の医学部で医学を学ぶ学生や、知能指数の高い人間に決まっている。
医学生の場合は学術目的として登録している場合が多い。
そして自分の遺伝子をバンクで残そうなんて考える人間は自惚れが強い人間だ。
あたしの子供に高い知能指数なんて必要ない!
あたしの子供は平凡な人間で、平凡な人生を歩ませるの!
頭の良すぎる人間なんて社会生活を送るうえで煙たがられるだけだ。
そんなのあたしだけで充分よ!
だからバカで鈍そうなこの男を選んだ。




司はぱっと目を開いた。

目覚めた司は声を出せるようになるまで一瞬の間があった。
その間に自分がどこにいて、いま、自分と一緒にベッドにいる女が誰なのかを思い出そうとしていた。

自分の胸元に顔を寄せるようにしている女の黒髪を見ていた。
暖かい吐息が彼の胸に吹きかけられている。
そしてその感覚に思わず声をあげそうになっていた。
司は思わず開いていた目を閉じた。
興奮が脳を駆け巡った。
やっぱりまだ夢を見ているのか?
だが、閉じていた目を再び開いてみれば、女は司の胸に触れようか触れまいか迷うような仕草で小さな手を躊躇させていた。
どんな女も自分の胸に触れることに躊躇するようなことは無かった。

そしてついに女の手を胸に感じた瞬間、司が女の手をつかんだ。

「何をしてるんだ?」
困惑と言うよりも怒りを含んでいた。
手をつかまれて女は顔を上げた。



そんな!
もうこの時間が終わってしまったの?

「いったいここで何をしてるんだ?」
つくしを見下ろした彼の目には怒りを含んでいる以外の感情は見られなかった。

「えっと・・・あ・・あの・・」
つくしは自分の行動に責任を取ろうと思った。

司はつかんだ女の手を離すと上掛けを跳ね除けた。

そこには裸の女がきゃっと言って『ヴィーナスの誕生』の絵のような姿勢で横たわっていた。






『ヴィーナスの誕生』 サンドロ・ボッティチェリ作 フィレンツェ・ウフィッツィ美術館蔵

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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.12.20 07:19 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.12.20 20:19 | 編集
ka**i様
本当にねぇ。
つくしちゃん大胆過ぎます!
司のこともバカだと決めつけてるし(笑)
そうですよ、司の子供が平凡に生きられるわけがないですよね?
司も野生の本能でしょうか、つくしの匂いは好ましく思ったみたいです(笑)
動物は先ず相手の匂いを確認してから・・ですからね。
いい大人がドタバタしていますが温かい目で見守ってやって下さい。
コメント有難うございました(^^)

アカシアdot 2015.12.20 22:01 | 編集
た*き様
なるほど・・なるほど・・・(笑)
ここでご質問にお答えすることが出来ないのが残念です。
これ以上何も言えないと言うのが本日のコメントに対する
お返事となります(笑)
このお話はドタバタコメディ風味ですからね。
コメント有難うございました(^^)
アカシアdot 2015.12.20 22:13 | 編集
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