「何を知りたいって?」
つくしは自分が女性としてまともかと考えたとき、この年になるまで男性との経験が無いことなど気にしたことがなかったが、よりにもよって経験豊富な男性を前にして出た言葉が、あなたのことをもっと知りたい。そして返されたのは「俺のことをもっと知りたいって?」
その言葉に神経の末端が何かを期待したようにざわめいたのは思い過ごしではないはずだ。
何しろつくしが結婚を前提に付き合い始めた男性は、これまで会った誰よりもハンサムな男性だ。そんな男性と過ごすうちに神経の末端もだが、ここにきて小さな細胞さえも、もっと男性のことを知りたいと思い始めたようだ。だからなのか。神経と細胞は結託してつくしの口から自分達の思いを喋らせたのかもしれない。
「えっ?何を知りたいって…..」
「ああ。俺のことをもっと知りたいんだろ?」
「え?私。そんなこと言った?」と、とぼければいいのだが、とぼけることが苦手な女はその言葉が言えなかった。
そしてふたりの間にはテーブルがあり身体は接触していないのだから、緊張する必要はないはずだが、それでも真正面から見つめられれば、胸の動悸が激しくなった。
司は牧野つくしが男と女の経験に疎いことは気付いていた。
それはもしかすると過去に口がうまいだけのろくでなしの男に引っ掛かり嫌な思いをしたということもあり得るからだ。
だから彼女のペースで運ぶことに決めたが、34歳の恋人の脳裡を駆け巡る思いは手に取るように分かった。
それは、ニューヨークで最後の夜がこのままでいいのかという思い。
だが、自分に主導権を渡されたこともだが、自分のことを性的魅力に乏しいと思うことから、どうすればいいのか分からないでいる。
つまりそれは、司が主導権を握らなければ、ふたりの関係はいつまでたっても前へ進むことがないということだ。
そして牧野つくしは自分から抱いて欲しいと言うような女ではない。
性に対して奔放にも無謀にもなることが出来ない。過去に付き合ってきた女たちのように恥知らずなことを求めることが出来ない女だ。
だから司は、それを承知の上で、司のことをもっと知りたいと言いながら、ふたりの関係を前に進めることを躊躇っている恋人に対して世話が焼けるという意味の溜息をついてみせた。
それはビジネスの場では絶対にしないことで、もしも司が溜息をつけば周りの人間は彼の意に添わないことをしたと思い慌てるはずだ。
そして案の定、恋人はどこか申し訳なさそうな顏をしたが、司のその行動は本心ではないのだから、そんな顏をされると溜息をつくべきではなかったと思わされた。
「牧野つくし。そんなに緊張する必要はない。俺のことを知りたいと思うなら知ればいい。何しろ俺たちは恋人という立場にいる。だがまだそれらしいことはしていない。いや。キスはしたがそれ以上のことはまだだ。だからそれについて何か質問があるなら訊こうじゃないか。
前にも言ったが俺はふたりが親密になることを急いでいるわけじゃない。だが舌の根の乾かぬうちにと思うかもしれないが、それでも俺は男だ。好きな女と寝たい気持ちを抑えるのは簡単なことじゃない。それに男は女と違って本能を抑えるのが苦手な生き物だ。だから相手にそのつもりがあるなら遠慮はしない。それを理解した上で訊いてくれ」
司は片眉を上げて言ったが、それは牧野つくしの気持を確かめるためだ。
だがきっと恋人は酒でも飲ませなければ心の底に抱えている思いを打ち明けることがないように思えた。
そして、「それに俺たちは結婚を前提に付き合い始めた。だから互いに思っていることを素直に伝えることが必要だと思うが?」と言葉を継いだが、彼女の口から出たのは、「そうよね…..」の呟きであり答えになっているようでなっていない曖昧なものだ。
だが、その後に継がれたのは「いいわ」
だが一体何がいいのか?だから司は訊いた。
「いい?何がいいんだ?」
「ええっと…..その….そうよ!私たちは結婚を前提に付き合い始めたんですもの!だからふたりの間に問題があるなら解決すべきだと思うの!真剣に取り組むべきだと思うの!
それに私たちはいい年をした大人で、これから先に起こることは自分たちで解決できる年齢だし…..」
と初めは勢いをつけて話し始めた声も最後は消えるように途切れた。
そして今度は意を決したように言った。
「私。あなたと同じベッドで寝るわ」

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つくしは自分が女性としてまともかと考えたとき、この年になるまで男性との経験が無いことなど気にしたことがなかったが、よりにもよって経験豊富な男性を前にして出た言葉が、あなたのことをもっと知りたい。そして返されたのは「俺のことをもっと知りたいって?」
その言葉に神経の末端が何かを期待したようにざわめいたのは思い過ごしではないはずだ。
何しろつくしが結婚を前提に付き合い始めた男性は、これまで会った誰よりもハンサムな男性だ。そんな男性と過ごすうちに神経の末端もだが、ここにきて小さな細胞さえも、もっと男性のことを知りたいと思い始めたようだ。だからなのか。神経と細胞は結託してつくしの口から自分達の思いを喋らせたのかもしれない。
「えっ?何を知りたいって…..」
「ああ。俺のことをもっと知りたいんだろ?」
「え?私。そんなこと言った?」と、とぼければいいのだが、とぼけることが苦手な女はその言葉が言えなかった。
そしてふたりの間にはテーブルがあり身体は接触していないのだから、緊張する必要はないはずだが、それでも真正面から見つめられれば、胸の動悸が激しくなった。
司は牧野つくしが男と女の経験に疎いことは気付いていた。
それはもしかすると過去に口がうまいだけのろくでなしの男に引っ掛かり嫌な思いをしたということもあり得るからだ。
だから彼女のペースで運ぶことに決めたが、34歳の恋人の脳裡を駆け巡る思いは手に取るように分かった。
それは、ニューヨークで最後の夜がこのままでいいのかという思い。
だが、自分に主導権を渡されたこともだが、自分のことを性的魅力に乏しいと思うことから、どうすればいいのか分からないでいる。
つまりそれは、司が主導権を握らなければ、ふたりの関係はいつまでたっても前へ進むことがないということだ。
そして牧野つくしは自分から抱いて欲しいと言うような女ではない。
性に対して奔放にも無謀にもなることが出来ない。過去に付き合ってきた女たちのように恥知らずなことを求めることが出来ない女だ。
だから司は、それを承知の上で、司のことをもっと知りたいと言いながら、ふたりの関係を前に進めることを躊躇っている恋人に対して世話が焼けるという意味の溜息をついてみせた。
それはビジネスの場では絶対にしないことで、もしも司が溜息をつけば周りの人間は彼の意に添わないことをしたと思い慌てるはずだ。
そして案の定、恋人はどこか申し訳なさそうな顏をしたが、司のその行動は本心ではないのだから、そんな顏をされると溜息をつくべきではなかったと思わされた。
「牧野つくし。そんなに緊張する必要はない。俺のことを知りたいと思うなら知ればいい。何しろ俺たちは恋人という立場にいる。だがまだそれらしいことはしていない。いや。キスはしたがそれ以上のことはまだだ。だからそれについて何か質問があるなら訊こうじゃないか。
前にも言ったが俺はふたりが親密になることを急いでいるわけじゃない。だが舌の根の乾かぬうちにと思うかもしれないが、それでも俺は男だ。好きな女と寝たい気持ちを抑えるのは簡単なことじゃない。それに男は女と違って本能を抑えるのが苦手な生き物だ。だから相手にそのつもりがあるなら遠慮はしない。それを理解した上で訊いてくれ」
司は片眉を上げて言ったが、それは牧野つくしの気持を確かめるためだ。
だがきっと恋人は酒でも飲ませなければ心の底に抱えている思いを打ち明けることがないように思えた。
そして、「それに俺たちは結婚を前提に付き合い始めた。だから互いに思っていることを素直に伝えることが必要だと思うが?」と言葉を継いだが、彼女の口から出たのは、「そうよね…..」の呟きであり答えになっているようでなっていない曖昧なものだ。
だが、その後に継がれたのは「いいわ」
だが一体何がいいのか?だから司は訊いた。
「いい?何がいいんだ?」
「ええっと…..その….そうよ!私たちは結婚を前提に付き合い始めたんですもの!だからふたりの間に問題があるなら解決すべきだと思うの!真剣に取り組むべきだと思うの!
それに私たちはいい年をした大人で、これから先に起こることは自分たちで解決できる年齢だし…..」
と初めは勢いをつけて話し始めた声も最後は消えるように途切れた。
そして今度は意を決したように言った。
「私。あなたと同じベッドで寝るわ」

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コメント
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ふ*******マ様
おはようございます^^
少しずつですが暑さが収まってきましたね!
そして朝が空気がひんやりとしてきました。
さて同じベッドね寝る宣言をした女。
本物の恋人になるのか。それともならないのか。
さあどっち?(笑)
男の司が上手くリードするのでしょうかねえ(* ̄▽ ̄)
おはようございます^^
少しずつですが暑さが収まってきましたね!
そして朝が空気がひんやりとしてきました。
さて同じベッドね寝る宣言をした女。
本物の恋人になるのか。それともならないのか。
さあどっち?(笑)
男の司が上手くリードするのでしょうかねえ(* ̄▽ ̄)
アカシア
2020.09.13 06:23 | 編集

司*****E様
おはようございます^^
つくしの気持が手に取るように分かる男。
経験が豊富だから?いえ。彼女のことが好きだから分かるんです。
誰でも好きな人のことは気になる。分かろうと努力をする。それが今の司には働いているようです。
さて。意を決したように司と同じベッドで寝ると言った女。
選手宣誓のような発言‼(≧▽≦)
え?二人の甘い夜!?そう言えば最近書いてないので書けるかどうか....
いえ。その前にそうなるのでしょうかねえ^^
見守って下さいませm(__)m
おはようございます^^
つくしの気持が手に取るように分かる男。
経験が豊富だから?いえ。彼女のことが好きだから分かるんです。
誰でも好きな人のことは気になる。分かろうと努力をする。それが今の司には働いているようです。
さて。意を決したように司と同じベッドで寝ると言った女。
選手宣誓のような発言‼(≧▽≦)
え?二人の甘い夜!?そう言えば最近書いてないので書けるかどうか....
いえ。その前にそうなるのでしょうかねえ^^
見守って下さいませm(__)m
アカシア
2020.09.13 06:30 | 編集
