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2015
08.14

いつか見た風景14

二人の関係はそれほど進展していなかった。

ニューヨークでの牧野つくし、いや妻との生活は、単なる同居人状態だ。

司が滋と結婚していたとする。
それはビジネスとしての結婚であって夫婦としての結婚ではなかったはずだ。結婚という形態を取っただけで、お互いに別々の生活を営んでいたはずだ。司はそれでいいと思っていた。将来的には跡継ぎが必要となって来るだろうが、そのときはそのときだと考えていた。

だが、相手が滋から牧野つくしにかわったことにより、牧野つくしの何かがつかさを惹きつけるようになっていた。もしかするとそれは9年前の二人の関係によるものかもしれない。
司が9年前に失った女の記憶。そして求めていた何か。
欠けたパズルのピースの如く司から抜け落ちた牧野つくしの記憶。
司の求めていた何かは、そのパズルのピースを埋めることで贖えるのかもしれない。 


司の指に収まっている指輪。
同じように牧野つくしの指に収まっている指輪がある。
あの女にとって、その指輪はどんな意味があるのか、今の司には考えようもないことだが、二人の結婚はニューヨークの社交界でも話題だった。

ニューヨーク女性が手にいれたい男性ナンバーワンと言われていた男。
女に興味を示さず、スリリングなマネーゲームを楽しむ司に対しての評判は、手に触れる全ての物を黄金に換えたギリシャ神話のミダス王になぞら″ミダスタッチ″ならぬ″ツカサタッチ″とまで言われていた。 

そんな男が結婚した相手はどんな深窓のお姫様か? 

どこかの財閥のご令嬢か?

いや、本人に言わせりゃあ、ただの雑草らしい。

雑草と呼ばれた女。

いいじゃん?

雑草でも。

俺が触れば黄金に換わるんだろ?

換えてやるよ、黄金に。



司は妻となった女を伴いニューヨーク社交界での重鎮と言われる財閥のパーティーへとやって来た。会場はニューヨーク郊外のロングアイランドにある財閥の邸宅だ。ニューヨークの雑踏から遠く離れたこの地は、上流階級御用達と言われている。

美しく着飾った人々が集うこの会場。

その美しい仮面の下は自己顕示欲の塊の奴らと、己をいかに美しく飾り立てることにしか興味をもたない女狐どもの集まりだ。
司の指に指輪があろうがなかろうが、そんな事は関係なしの女どもには反吐が出る。

ロイヤルブルーのイブニングドレスを身に纏い、司のタキシードの黒い上着の腕に羽根の様に軽く掴まる牧野の華奢な腕。
その指に、その腕に、その胸元と耳を飾る芸術品と言われる以上の価値を持つであろう装飾品に目を奪われている女狐ども。

ふん、こんなパーティーなんぞ、クソみてえなもんだ。

・・・かったりぃ。


「ツカサ、よく来てくれたね」
「ミスタートンプソン、本日はお招きを頂きありがとうございます」
「ツカサ、ダグと呼んでくれたまえ。それより隣の美しいご婦人を紹介してくれないかね?」

司はパーティーのホストであるトンプソン氏に妻を紹介した。

「はじめまして、つくしと申します」
「ツクシ・・・?・・ツクシ・・・もしかして、君は・・・昔セントラルパークで・・」

司は妻となった女がトンプソンと再会を喜びあっている姿を眺めていた。
そこにいたのは司の見知らぬ女。ごく自然に財界の大物と言われる老人と話しをしている女。だがそこで交わされる会話に気になることがあった。

「ツクシ、あのときの青年はどうしてるんだ?」

「あ、花沢類のことですよね? はい、彼は元気です」

「しかしツクシがツカサと結婚したなんて、運命とは面白いな。あのとき、確か君は道明寺財閥はバカな男が跡取りだから、将来は潰れるかもと言っていたと記憶しているが?」

司はつくしが花沢類とこの街に来ていたと知り、ふいに、つくしを着飾ってひと前に連れ出した満足感が消え去ったのを感じた。自ら求めて妻にした女ではないというのに、奇妙な嫉妬心が湧き上がっていた。牧野つくしが類と親しくしている姿に何故かイラつく気持ちがある。

類、まだこの街にいるのか?
司は二人の関係が気になっていた。この女には一度は聞いた。だがただの友人だと返された。
それが本当かどうかなど、司には確かめようがない。
何しろ自由の女神に鼻の穴があるかどうか、確かめに来たという答えを返す女だ。


司はホストであるトンプソン氏に別れを告げ、パーティー会場を後にした。
迎えに来たヘリでマンハッタンへ戻る機内、司は類と隣に座る女との関係について考えていた。二人の英徳での関係、そして抜け落ちた記憶の中にいる牧野つくし。簡単なようで簡単ではないように感じていた。





つくしは9年余りも他の男性を遠ざけていた。
眠り姫のように肉体は生きていたが、彼女の心は彼のものだった。結婚してもまだ全てがお互いのものではない。だが、道明寺は契約書を盾にして妻としての義務を迫るのだろうかと考えていた。そして自分の経験のなさにたじろいでいる。

大学時代は学費を稼ぐ為、働かなくてはならなかった。学業とアルバイトの両立でいつも疲れていた。そんな状況では自ずと男性と関わることなどあるはずもない。
26歳で化石のような女になり、勤労処女と揶揄された過去をそのまま生きている。

つくしも分かっている、道明寺に男としての欲望があることを。
それに、いつまでもこんな状態でいられるはずはないとわかっている。
たとえ道明寺が自分の事を覚えていなくても、思い出さなくても、愛していなくてもいいと思っている。ただ彼の傍にいたいことを望んでいるごく普通の女がここにいる。





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コメント
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2015.08.14 22:32 | 編集
の*様
はじめまして。
ご訪問有難うございます。
王道ファンでいらっしゃるの*様に気に入って頂けて嬉しいです。
また過分なお言葉を有難うございます。
つくしちゃんの想いにホロリとして頂けましたか!
私も二人の幸せを願っているファンの一人として
の*様と同じ気持ちです。
え?くすぐっていますか?(笑)
ではもっとくすぐったくしなければ!(笑)
またご感想などお聞かせ頂けますと嬉しいです。
最後になりましたが、ご声援有難うございます。


アカシアdot 2015.08.16 00:19 | 編集
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