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2020
08.26

やさしさを集めて <前編> ~続・天色の空~

「それにしても英。お前さあ。その金どうするつもりだ?何か予定でもあるのか。使い道が決まってるのか?」

「どうするって何の予定ないけど?それに使い道もないよ」

「そうか…..本当に予定はないのか?」

「ああ。本当にないけど?」

「じゃあさ。いつものように俺に投資してもらえると助かるんだけど」

「心配するな。分かってるよ。今までだって儲けた金のほとんどを漣に投資しただろ?」

「そ、そうだよな?これまでも英のおかげでどれだけ助かったことか。ホント、マジで英には感謝してる」

「いいよ、漣。気にするな」




道明寺家の双子は兄が英(すぐる)で弟が漣(れん)と言う。
二人は学校から戻ると漣の部屋で話をしていた。
英徳学園初等部に入学した頃の英の夢は父親の跡を継ぎ社長になること。
そして弟の漣の夢は獣医師になること。
その夢が途中で変わることはなく、高校生になったふたりは、それぞれ自分の夢に向かって邁進しているが、未成年の英は中等部に進学すると親権者である父親の同意を得て株の投資を始めた。

だが父親が一部上場企業、道明寺ホールディングスの社長である以上道明寺の株を買うことはない。それはインサイダー取引が疑われることが目に見えているからだ。
だからそういった疑惑を持たれることがない会社の株に投資していたが、今回大きな利益を出したのは、中等部に進学してすぐに買った株。その会社はデジタルマーケティングを支援する会社だがまだ歴史は浅い。だから応援するつもりで投資を続けた結果、会社は大化けして株は高値で取引されるようになったが、英は先日その株を売却した。

「それにしても、英はやっぱ父さんそっくりだ。先見の明がある。お前はビジネスマン向きだよ」

漣は英がこれから成長する会社を見抜く力に感心していたが、そういったことに使える頭は企業経営者の父親から受け継いだものだと思っている。

「漣。お前なに言ってるんだよ?俺たちは双子だろ。お前だって父さんにそっくりじゃないか」

英は自分と同じ顏をした漣に言った。
だが漣は首を横に振った。

「いいや。俺は顏こそ父さんだけど頭の中は母さんだ。母さんは困っている人を見つけると放っておけない人だろ?だからつい俺も、ひとりでいる子を見つけると放っておけない。心配になるんだ」

訊けば兄妹の母つくしは、どんな人間にも信じるに値するところがあるという人間だ。
そして共感する。
父親から訊いた話だが、そんな母親は彼らと同じ高校生の頃、友達だと思っていた人間に嘘をつかれ酷い目にあった。それでもその人を庇い、嘘をつかれたことを水に流したと言う話だ。
父親に言わせればそんな妻はお人好しらしいが、双子の兄弟から見れば、そのお人好しっぷりが周囲の人間を明るい気持にするのだと思っている。

「それにしてもさ。お前放っておけないからって、さすがに家の中にこっそりと連れて来たのがバレると母さん怒るぞ」

「まあな…..」

そう答えた漣の膝の上にいるのはスヤスヤと眠る灰色の子犬。
安心しきった様子で漣に身体をあずけているが、漣は子犬を制服の胸の間に入れて連れ帰っていた。

「それにしても漣の耳の良さには脱帽だ。遠くで鳴く子犬の声が聴きとれるんだから、お前って本当に動物が好きだよな」

漣は通りかかった公園のどこからかクゥ~ン、クゥ~ンという悲しげな鳴き声を耳にした。
だからその声を頼りに鳴き声を上げる動物を捜してみれば、ブランコの傍の植え込みの中に子犬がいるのを見つけ連れ帰った。だがこうして動物を連れ帰るのは初めてではない。

漣が初めて動物を連れて帰ったのは初等部2年のとき。
どこから入り込んだのか英徳の校内に子犬がいた。漣はその子犬と目が合った。漣を見て尻尾を振った。だから家に連れて帰った。

そして一度に沢山の動物を連れ帰ったのは初等部4年の頃、公園に置かれていた箱の中で鳴いていた猫を3匹家に連れて帰った。だが、そのとき母親から、「漣。もううちでは飼えないからね?」と言われたが、そう言われたのには理由があった。
それは2年生の時に連れ帰った犬が1匹いることもだが、その後やはり校内に迷い込んだ猫を連れ帰ったからだ。
それに犬を連れ帰ったとき、自分で世話をすると約束した。
それは父親から「命を助けた以上、お前はその命に対して責任を持たなければならない。それを理解しているなら飼ってもいい。ただし犬も猫も1匹までだ」と言われたからだが、犬が苦手という父親が、息子が動物を飼うことを許したのは、母親の口添えがあったことは間違いない。それに父親は息子が獣医師になりたいことを知っている。だから飼うなとは言わなかった。

だからこそ漣は助けた命に対して無責任なことは出来ない。それにこれ以上自分ひとりで世話をすることが無理だと分かっていた。だから箱の中にいた3匹の猫は動物愛護団体に預け、引き取り手となる里親を探してもらうことにした経緯があった。それ以来、ひとりぼっちの猫や犬を見つけると保護をして愛護団体に引き渡していた。

そんな漣の動物への愛着は犬や猫だけではない。
やはり初等部の頃。夏祭りの夜店で掬った一匹の金魚が巨大化して庭の池にいる錦鯉クラスに成長していた。
そして文鳥。桜文鳥が庭にいるのを見つけたとき、すぐに保護したが、人に慣れていることから荒鳥ではなく、どこかの家で手乗りとして飼われていたのが逃げたのだと思った。だから飼い主を探すため交番に届けた。だが飼い主は現れなかった。結果。漣が飼うことになったが、文鳥も一羽では寂しいからと新たに文鳥を飼うことにした。すると数が増えた。
そして増えた文鳥はメイドさんたちに貰ってもらった。

「漣。俺が株取引で出した利益が動物愛護団体に寄付されることに反対はない。何しろお前が道すがら連れて帰った動物たちに家族を見つける手助けになるんだからな」

英は漣に投資をしていると言ったが、動物の命を救う獣医師になりたい。そして人間の勝手で捨てられた動物を助けたいという弟の志を尊いと認めていて、弟が助けた動物たちが幸せになれるように株で儲けた利益を提供しているだけだ。
それに英も動物が嫌いではない。特に金色の目をした黒猫は自分を拾ってくれた漣よりも英のことが好きなのか。足元にじゃれついて来る姿はかわいいと思えた。

「それにしてもどうするんだ?この犬。もううちでは飼えないだろ?いつものように預けるのか?」

英はそう言うと漣の膝の上で眠っている子犬の頭を撫でた。

漣は、「いいや」と言って首を横に振った。

「じゃあどうするんだ?」

「実はな_____」




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コメント
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dot 2020.08.26 08:09 | 編集
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dot 2020.08.27 08:06 | 編集
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dot 2020.08.27 20:25 | 編集
司*****E様
錦鯉化した金魚ですが、アカシアが子供の頃にやはり夜店で掬った金魚が巨大化しました。
小さな水槽で飼っていたのですが、どんどん大きくなり、もはや金魚とは言えなくなりました。
金魚は小さいから可愛いのですが、あそこまで大きくなると違う.....そう子供心に思いました。

さて高校生になった坊っちゃんズ。
漣くん獣医さんになりたい!その思いは高校生になっても変わらないご様子です。
さて、保護した犬をどうするのでしょうねぇ?
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.27 22:14 | 編集
ふ*******マ様
ツインズ。高校生になりました。
巨大化した金魚。嘘でしょというくらい大きくなります!
それを知っているアカシアです。
子供の頃。家の水槽の中にいました。(笑)

ツインズのお話。もう少しだけお付き合い下さいませ。
それにしても保護した迷子ちゃんをどうするのでしょうね?(≧▽≦)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.27 22:20 | 編集
と****マ様
坊っちゃんズ。
順調に成長して高校生になりましたが、司にそっくりだとしても、彼よりも優しい目をした男の子たちでしょうねぇ。
そして迷子を保護する漣くん。保護した犬。どうするのでしょう。
そして澪。どうしているのでしょうか。その後が出て来るのでしょうか。
司夫妻は50代。どんな夫婦になっているのでしょう。
短い続編ですが楽しんでいただければと思います。

それにしても残暑が厳しいですね?もう酷暑です。いつになったら涼やかな風が吹くのでしょう。
気持だけでも秋になりたいのですが、こう暑くては無理ですね(笑)
と****マ様もご自愛下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.27 22:35 | 編集
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