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2020
08.15

人生の扉を開けて ~続・天色の空~

「英(すぐる)、漣(れん)。いいか?今日から二人とも初等部だ。先生の言うことをちゃんと聞くんだぞ」

「うん。パパ分かったよ!俺先生の言うことちゃんと聞くよ!」

「漣!違うよ!返事はうんじゃないよ。返事は、はいだよ!ね?パパ。そうだよね?」

「あっ、そうだった。はい。パパ分かったよ!俺、先生の言うことをちゃんと聞くよ!」

「漣!ダメだよ!それに自分のことは俺じゃなくて僕って言わなきゃ」

「あっ、そうだ。ええっと….僕、先生の言うことをちゃんと聞くよ!」

英徳学園初等部の入学式を終え、真新しい制服姿の英と漣は父親である司に頭を撫でられると今度は「ママ――っ!」と言って母親が立ち話をしている方へ走って行った。だから司は、「おい!気を付けろ!二人とも転ぶなよ!」と言ったが、まさかこの年で母校の入学式に出席するとは思わなかった。

司には3人の子供がいる。
だが一番上の娘は彼女が中学に上がるまでその存在を知ることがなかった。
それは娘の母親と別れた司が別の女性と結婚していたからだ。そして、娘と親子として触れ合うようになったのは、彼女が高校を卒業してからで幼い頃を知らない。
18歳になって会った娘はしっかりした子供で……いや、未成年だが少女というには大人びていて子供らしさはなかった。だから、いくら司が父親だからといっても二人の男の子の髪に触れたのと同じように娘の長い黒髪を撫でれば嫌がられることは間違いない。
それにしても、まさか40代で双子の男の子の父親になるとは思いもしなかった。


「あの子たち成長するにつれてお父さんにそっくりになってまるでミニチュアみたい。それに知らない人から見れば黙っていたらどっちがどっちだか絶対に分からないと思うわ」

娘がそう言ったのは兄弟が一卵性双生児で血液型も顔も爪の形も全てが同じだからだ。
だから赤ん坊の頃の二人は、ひとりが泣き出せば、もうひとりも同じように泣き出す。それに泣き止む時も同じで、黒々とした瞳が司を見てキャッキャと嬉しそうに笑う様子も同じだった。

それにひとりがオムツを替えていると、もうひとりも同じように替えて欲しいと愚図る。
ひとりが抱っこされているのを見ると、もうひとりも抱っこして欲しいと泣く。とにかく赤ん坊の頃の二人は同じことを同じようにして欲しいと主張していた。

「それに生まれた時から髪の毛はクルクルしているし、顏だってお母さんというよりも、お父さん寄りだし、どう見ても牧野より道明寺の血筋でしょ?」

娘はそう言ったが、確かにその通りだと思う。
癖のある髪の毛も、幼いながら長い手足を持っているところも、自分の子供の頃に似ていると思った。
つまり自分のコピーが二体並んで自分を見上げている姿は、我が子ながら見ていて可笑しかった。

そんな二人だがひとつだけ違うことがある。それは英の方が漣より早く母親のお腹の中から出て来たことだ。だから双子とはいえ英には兄としての自覚があり、漣は漣で弟だという自覚があった。
そして双子も幼稚舎に上がる頃になると徐々にだが個性が花開き始めた。
それは興味を持つものが違ったということ。

ある日。兄の英は司が自宅の執務室で仕事をしていると膝に乗り、パソコンに表示させた株価のチャートを見つめながら、「これ何?」と訊いた。だから「これか?これはパパの会社の価値を表している」と答えたが、幼い子供に価値という言葉が分かるはずもなく、ただ「ふ~ん」と答えたが、それから度々司の膝の上でチャートが小刻みに上がり下がりを繰り返す様子を眺めていた。そしてある日こう言った。

「パパ。社長って面白い?」

社長業が面白いかそうでないか。そんなことを司に訊いた人間はいなかったが、それは単純で子供らしい問いかけだと思った。
だから司も単純な言葉で返すことにした。

「面白いぞ。英も将来社長になるか?」すると「うん!面白いならやってみたい」という答えが返ってきた。そしてその日以来、英は将来の夢は何かと問われれば「社長になる」と答えていた。

そして弟の漣の将来の夢は獣医だ。

「パパ!俺、大きくなったら動物のお医者さんになる!」

そう言い始めたのは、動物園で動物にご飯をあげよう、というイベントに参加してからだ。
その時はキリンに葉っぱを食べさせたが、高い場所に上り、首の長い動物が自分の近くまで顏を寄せ美味しそうに葉を頬張る姿に漣は怖がるどころか喜んでいた。
そしてそのとき言葉を喋らない動物の病気を治す仕事があることを知った漣は、俺も動物の病気を治したいと言った。

誰しもが子供の頃には夢を持つ。
だがその夢を叶えることが出来る人間は、ほんの一握りだと言われている。
そして双子の上の子供は社長になると言うが、面白いだけで出来る仕事ではない。
それに下の子供は獣医になると言うが、たとえ相手が動物だとしても命を預かる仕事は尊い。
だが司は子供たちが将来何になろうと反対するつもりはない。
それに子供たちが何を言ったとしても、今は親と一緒にいて彼らの世界は狭い。
だがやがて思春期を迎え、それぞれが出会う人間や置かれた環境で考え方が変われば夢が変わることもあるが、果たして子供たちはどんな道を歩むのか。

司は牧野つくしという女性に出会うまで夢などなかった。
だが彼女に会ったことで夢が出来た。それは彼女と一緒にいること。その夢は叶えられたと思った。だが諦めなければならなかった。
だから今こうして手にしているこの幸せは一度諦めた夢だが、それを再び手にすることが出来るとは夢にも思わなかった。
そしてそれは人生に於いて巡ってきたセカンドチャンスだが、やはりそれも誰もが手に入れることが出来るかと言えばそうではない。
だから息子たちには、かつての自分のように夢を諦めて欲しくない。
何故なら彼らの人生は彼らだけのものなのだから。

子供時代は子供を楽しめばいい。遊園地で遊ぶことも動物園ではしゃぐことも、どんなことであれ経験値というものは必要であり、それは彼らが大人になったとき自分を支えるものになる。それに子供は遊びの中から何かを見つける。その何かは大人になった自分には分からないことだが、子供の心や精神を養うためには必要だと思っている。だから子供のうちに出来るだけ沢山の遊びを経験させてやると決めていた。

そして子供たちが初等部に入学すれば、少しゆっくり出来るのではないか。
それは真夜中に子供たちが両親の部屋に駆け込んで来ることはないだろうという思いだ。
幼稚舎の頃は同じ部屋で寝ていた二人。双子は見る夢まで同じなのか。「怪獣が出た!」と言って二組の足は先を争うようにして東の角部屋に駆け込んで来ることがあった。
そして、いつだったか心地よい疲れに裸でまどろんでいたところに子供たちが駆け込んで来てベッドに入れて欲しいと泣かれた時は慌てた。
だから慌てて服を着て二人を抱き上げベッドに引き入れたが、あのとき必死に両親の首にしがみついていた双子が初等部の制服を着た姿に成長を感じた。











「つくし。入学式も無事終わった。明日から二人は学校だ。授業が始まれば幼稚舎の頃のように早く家に帰ってくることはない。お前も少しゆっくり出来るはずだ。それに子供たちには子供たちだけの新しい世界が始まる」

二人は食事の後、明日の準備をする子供たちを手伝ったが、それを終えると東の角部屋に引き上げた。

「そうね。あの子たちも小学生になったんだもの。これからは自分たちで世界を広げていくわね?ちょっと寂しい気がするけどそれがあの子たちの成長に繋がるのよね?」

高齢出産で双子の男の子の母親になった妻は娘や使用人の手を借り子育てをしてきた。
そして夫である司も積極的に子育を手伝ったが、若い母親ではない妻は子供たちの有り余る体力に振り回された感もあった。
だが幼稚舎を卒業したことでひとつ区切りを迎えた。そしてまた次の区切りを迎えるまで親としてこれからなすべきことを始めるのに躊躇いはない。

だが今夜は夫と妻としての時間を過ごすつもりだ。
女性は40代半ばともなれば、女としての魅力に欠けると言う男もいる。
だが司にとって妻はいつまでも魅力的だ。
それは初めて彼女を抱いた時から変わることのない思い。
たとえ離れていた時間があっても抱きしめる身体は、あの頃と同じ柔らかさと匂いがする。
それに高校生の頃、司の前で見せた度胸や他人に示した寛大さは今も変わらず妻の中にあった。
そして、夫を下から見上げる黒い大きな瞳の傍に皺が出来たとしても、司はその瞳の中で溺れたい。だから「ねえ、司。悪いんだけど背中のファスナー下ろしてもらえない?」
と言われれば喜んでそうするが、それが妻から夫へのOKの合図。
それに今夜は子供たちが夫婦の部屋を訪れることはないはずだ。
何しろ入学式を終えた子供たちは疲れ、夢を見る余裕もないほど深い眠りに落ちているからだ。
だから司は背を向けた妻に近づくと、うなじから髪をそっとどけ、ゆっくりとファスナーを下ろし始めたが、そうしながら現れた白い肌に唇を寄せた。




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コメント
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dot 2020.08.15 10:30 | 編集
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dot 2020.08.15 19:54 | 編集
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dot 2020.08.16 21:22 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.08.16 22:08 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.08.20 00:40 | 編集
司*****E様
こんにちは^^
小学生になった坊ちゃんズ。
そして司は親でありながら娘に軽くあしらわれている感もあります。
おおっ!そうでしたね!双子ちゃんのお母様でしたね?きっと想像の上をいく大変さがあったと思います。
双子とはいえ先に生まれた子供は年上の自覚がある。
そして下は年下の自覚があって甘えるのが上手いと訊いたことがあります。
道明寺の坊ちゃんズはこれからどんな人生を歩んでいくのか。
社長と獣医師。
坊ちゃんそっくりの双子なので英くんの社長は想像が出来るのですが、漣くんの獣医師はどんな獣医師になるのでしょうね。
そして二人の成長を見守るふたり。
これからも仲良く過ごして欲しいものです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:14 | 編集
ふ*******マ様
こんばんは^^
今度こそ脳内溶けています!(笑)
くるくるミニチュア司は社長と獣医師が夢。
社長は想像できますが、司の顏で獣医。どんな獣医になるのでしょうね。
学校の帰り道でいろんな患者さんを救助(≧▽≦)確かにありえますね。
患者をそっと邸に連れ帰る漣の姿が目に浮かびます。
どちらがどちらの首に抱きついたのか?
そうですねえ。英は漣にママを譲ったかもしれませんね?
それに英。パパっ子のような気がします。
え?続きですか?(@_@。またそのようなことを!(笑)
番号は付けませんから!(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:18 | 編集
H*様
こんにちは^^お久しぶりです。
続編を二つ書いてみました。
司ファミリーのその後ですが楽しんでいただけて良かったです。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:23 | 編集
と****マ様
はじめまして^^
「18年離れていた」その言葉を黄門様の印籠のように言う父、司。
でも娘にはあまり効いていない!(≧▽≦)
娘は幼い頃から海外で生活をしていた帰国子女。そして椿さんに似ている。
そんな娘に印籠が効かないのは仕方がないことかもしれません。

司のコピーの双子の男の子。漣くんは獣医師希望。
コギちゃんがご家族にいらっしゃるんですね!可愛いですねぇ。アカシアはお散歩中の後ろ姿が大好きです。
え?コギちゃんを漣くんに見てもらうんですか?道明寺動物病院は女性の飼い主さんばかりになりそうな気がします。
そして司とつくし。40代になっても50代になってもふたりの愛は錆びることがない!いいですよねえ。
共白髪なふたりだと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:29 | 編集
で********ん様
続編を2話ほど書きましたが、双子の坊っちゃんは良い子に育っています。
漣くんの夢は獣医師ですが坊っちゃんそっくりの獣医師さん。
カッコいいでしょうねえ。
え?なんですと?今後の色々が読みたい?(@_@。
アカシア今週は諸々あり、その上この暑さで脳内半分以上溶けてます。
そうなんです。他の連載を進めなければという思いもあり、こちらのその後は……
坊ちゃんズ。どうしましょうねえ(笑)
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:36 | 編集
と*様
こんにちは^^
こちらのお話を楽しんでいただけて大変うれしいです。
それにしても毎日暑いですねぇ。この暑さは異常ですよねえ。
塩分補給のタブレットを鞄に忍ばせ熱中症に気を付けています。
と*様もご自愛下さいませ。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.08.20 21:39 | 編集
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