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2020
08.06

天色の空 6

遺影の父は真面目な顏をしているが、母が見せてくれた写真立ての中の父は笑っていた。
そして父は自分の隣に立つ女性の腰に腕を回し笑顔を浮べているが、女性は誰なのか。
そして生前父が母に言った、「ここにあるものを元の持ち主に返して欲しい」の言葉の意味が分からなかった。


「澪。いつかはあなたに話をしなければと思っていたの」

そう言った母は、「ここに座って」と床に置かれている段ボール箱の前に座るように言った。
だから私は段ボール箱を挟んで母と向き合うように座った。

「これからあなたに私とお父さんのことを話すわね」

母はそう言うと懐かしそうに喋り始めた。

「私とお父さんが結婚したのは私が大学を卒業してからよ。それはあなたも知っているわよね?でもあなたに話したことはないけど、お父さんと出会ったのは高校生の頃だった。お父さんは私が困っているところを助けてくれたの。だから私はその御礼を言いたくて名前を訊いたら、名乗るほどのもんじゃねぇって言って教えてくれなかったわ。
ほら。お父さん自分は浅草育ちの江戸っ子だってよく言ってたでしょ?だから人助けは当たり前だって言ったわ。そんなお父さんを見ていたら誰かに似てるって思ったの。そうしたら時代劇の主役に似ていることに気付いたの。たからその主役の役名からお父さんのことを金さんって呼んでいたわ」

私の父の名前は清之介という。
政治家一家に生まれた天草清之介は困った人を見ると放っておけない性格の人間だ。
そんな父が母の困っているところを助けたと言ったが、父と母の若い頃の何を私に聞かせたいのか。

「私はね。てっきりお父さんも生活に苦労している家の息子だと思った。だって寿司屋でアルバイトをしながら学校に通ってるって言うから私と同じ貧乏な家庭の子供だと思って親近感を覚えたわ。でもそれは私の勝手な思い込みで本当は永林学園に通うお金持ちの政治家一家の息子だったの。それが分かったときお父さんは貧乏な私をからかうために貧乏なフリをしていたと思った。
でも私がそれを指摘した時、お父さんはそうじゃないって言ったわ。お父さんは自分の周りにいるのはチャラチャラと親のお金で遊んでいる女性ばかりで、そんな女性は嫌いだと言ったわ。それに親の敷いたレールの上を歩くつもりはないって言った。貧しくても前向きに生きている私のことが好きだって言ったの。理想の女性に出会ったって言ったの」

私が初めて訊く父と母の出会い。
それは、高校生の頃だと言ったが、それなら道明寺司との交際は?
男性は高校生の頃、母と付き合い始めたと言った。それなら母は父と道明寺司の二股をかけていたのか?

「でも別の男性からも好きだと言われていて自分の気持が分からなくなっていたの。その人もお父さんと同じでお金持ちの家の息子だった。でもお父さんと違って我儘で俺様で誰もその人に逆らえなかった。それにお父さんは困っている人間がいれば助けるのは当たり前だって考えの持ち主だけど、その人は逆で苛めていたわ。だから私も初めは苛められたの」

母の口から語られるもう一人のお金持ちの家の息子とは道明寺司のことだ。
つまり私が会った道明寺司は、かつて母を苛めていた。
それは好きな子ほど苛めたいという子供っぽい感情。だが、母も徐々にそんな男性に惹かれたということか。

「澪。あなたはどうしてって思うかもしれないけど、私はお父さんより自分を苛めていた人の方を選んだの。その人は我儘で俺様だったけど根は純粋で信念を貫く人なの。ぶっきらぼうだけど一途な優しさを持ってる人だったの。それが分かるにつれて私はその人に惹かれるようになった。だから私はその人と付き合うことにしたの。でもその人は高校を卒業するとアメリカの大学に進学したわ。だからアメリカと日本の遠距離恋愛になったけど私はその人と大学を卒業するまで付き合ったわ」

父をふって道明寺司と付き合うことを決めたという母。
だが遠距離恋愛をしてまで付き合った男性とは上手くいかず結局父と結婚した。
それは男性が口にした仕方ない選択をした結果なのか。
そんな私の疑問に母は答えるように言った。

「でも私たちは別れる決断をしたの。それはその人には守らなければならない物が沢山あったからなの。その人には守らなければならない大勢の人の生活があったの。でも私が傍にいてはそれを守ることが出来ない。だって私にはそんな力はないのだから。だからその人とは別れたわ。それからお父さんと結婚したの」

と言った母は、何故か申し訳なさそうに私を見ていたが、何故母は過去に自分がふった父と結婚することにしたのか。

「お父さんとは私がその人と別れた後、偶然街で会ったの。高校生の頃のお父さんは寿司屋になると言っていたわ。だけど怪我で包丁が上手く扱えなくなって寿司屋になることは諦めて通信社で働いていると言ったわ。
そんなお父さんは早く海外に出たいと思っていたの。でも会社は独身の男性を特派員として派遣することを嫌がっていたわ。理由は独身の男性社員が現地の女性と交際して仕事が疎かになることが続いたからなの」

それは海外に社員を駐在させる会社がリスクとして考えると言われることで、優秀な若い男性社員が現地の女性と付き合ったために仕事が手に付かなくなることもだが、深く付き合うことで現地の習慣に染まり、会社を辞めてそのままその土地に残るという事例が往々にしてあるからだ。

「だからお父さんは海外に出るために早く結婚したいと思ってたの。家族がいれば派遣されるからってね」

母はそう言うと、ひと呼吸置いてから再び話し始めた。

「私がお父さんと会ったとき、お腹には赤ちゃんがいたの。
付き合っていた人と別れた後で妊娠していることに気付いたの。でもひとりで産んで育てることに決めたからその人には言わなかったわ。だけど就職したばかりの私は正直なところどうしたらいいのか悩んだわ。そんな時に再会したお父さんは私の表情を見て何か悩みがあるのかって訊いたわ。報道関係の仕事に就いたお父さんは相手の考えを読むことが上手かったの。だから正直に話をしたの。お腹に赤ちゃんがいるってね」

母の口から穏やかに語られる19年前の出来事。
そしてそのとき母のお腹にいたのは____

「あのとき私の話を訊いていたお父さんはこう言ったの。自分と結婚して、しがらみのない外国でその国の文化に触れながら子供を育てようって。家族として暮らそうって。私は迷ったけどそれを受け入れたの。澪。あなたには天草家の血は流れていないの。あなたはお父さんの本当の子供じゃないの」




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コメント
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dot 2020.08.06 07:31 | 編集
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dot 2020.08.06 08:47 | 編集
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dot 2020.08.06 13:30 | 編集
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dot 2020.08.06 17:45 | 編集
涼*様
はい。段々と真実に向かっています。
ただ18歳の娘はその真実を受け入れることが出来るのでしょうか。
大人のようでまだ子供ですからねえ。
それにしても暑くなりましたねえ。
涼*様もご自愛下さいませ^^
アカシアdot 2020.08.06 21:45 | 編集
ふ*******マ様
受け止めるには重過ぎる....
そうですねえ.....
どうなんでしょうねえ....
え?はっきり答えろですか?
はい。では晩御飯は、お茶漬けに決定です!(笑)
アカシアdot 2020.08.06 21:51 | 編集
司*****E様
父と一緒に写っている女性は誰?
澪の思考は大混乱ですよねえ。
多感なお年頃で複雑な両親の関係を受け止めるには、時間がかかるかもしれませんね。
そうです。司の特徴的な髪型は遺伝していませんでした。
長い黒髪は、つくしの若い頃を彷彿とさせたのではないでしょうか。
ノスタルジックな司がいたかもしれませんね。
アカシアdot 2020.08.06 22:03 | 編集
ふ**ん様
澪ちゃんの髪は天パではありません。
長い黒髪です。喫茶店で待ち合わせしたとき、その外見を手紙に書いていました。
金四郎!(≧▽≦)金さんと呼ばれていましたからねえ。
アカシアも確認しました(笑)
そして「元の持ち主」とは.....誰?(^^ゞ
アカシアdot 2020.08.06 22:14 | 編集
で********ん様
こんにちは!お久しぶりです^^
そして、お祝いありがとうございますm(__)m
「時の撚糸」読後感が違ったんですね!
再読ありがとうございます。

そして別部屋の坊ちゃんの記憶が戻った時が心配(笑)
そうですよね。「わりぃ...思い出した」では済まない状況です。
実は戻る瞬間は既に書いてあるのですが、その前が色々とありまして...
早く書かねば、と思いながらスミマセン止まっています(滝汗)

今年の夏はいつもの夏とは違う状況ですが、予防しながら日常生活を送るしかないですよねぇ。
え?アカシアのお話で元気が出る?本当ですか?(≧▽≦)
楽しんでいただけて嬉しいです!
そして金さんが出て来たこちらのお話ですが、もう少しだけお付き合い下さいませ^^
アカシアdot 2020.08.06 22:51 | 編集
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