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2020
08.01

天色の空 1

皆様こんにちは。
今年の夏はこれまでとは違う夏となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
さて、当ブログ本日で5周年を迎えましたが、お忙しい中いつも拙宅にお立ち寄り下さいましてありがとうございます。
本日は日頃の御礼として連載中のお話とは別の短いお話をご用意しましたので、よろしければお読み下さいませ。









< 天色の空(あまいろのそら) >








私は父の言葉を信じることが出来なかった。

「母さんは好きな人がいる。そして私は母さんが好きなその人のことを知っている。
私たちは古い知り合いだ。長い間会ってなかったが数年前に偶然再会した。私がこうなる前にも会ったが、話してみれば彼もまだ母さんのことが好きだということが分かった。だから私が死んだら母さんとその人のことを認めて欲しい。いや違う。母さんとその人が一緒になることを許してやって欲しい」

病室でそう言った父は私の顔を見るとフッと笑ったが、その顔は本当に笑っていたのかと言えば、そうではないことが娘の私には分かる。
何故なら父のそんな顏を今までも見てきたが、それは父の癖である唇の端に無理矢理皺を作る笑いだったからだ。
そしてクールと言われた父の造形は整っていたが、果たして心から笑ったことがあったのか。思い返せばそう思えることが沢山あった。

「お前はもう大人だ。それに賢い子だ。きっと二人のことが理解できるはずだ」

そう言った父の言葉に込められているのは、自分が亡くなった後の母のことを頼むと言っているのだと理解したが、それが父と私が交わした最後の会話になった。

それにしても母に好きな人がいる。
それはにわかには信じがたい話だが、父は嘘をつく人ではない。
そして人は死に際だからこそ真実を語りたがる。罪があるならその罪を懺悔するのは今際の際だからだ。だからこそ死期を悟った父が言ったことは本当だということになり、長年父の傍にいたはずの母の心は別の場所にあったということになる。

それでも、母が父以外の人のことを愛しているということを信じたくはなかった。
何故なら私が知っている二人は仲の良い夫婦に見えたからだ。とは言え、父は仕事の関係で日本にいることは殆どなかった。
つまり夫婦の時間は少なかったということだが、それでも二人はどちらかが死ぬまでずっと夫婦でいると思っていた。そして実際父が亡くなるまで二人が夫婦でいたことだけは確かだ。

けれど母に好きな人がいるなら、これまで私の前にいた二人の姿は偽物だったということになる。
そして、父の言葉に不意に母が見知らぬ人に変わってしまったように思えた。


私はひとり娘で18歳の誕生日を迎え大学に通い始めたばかりだが十分大人だ。
だから私は父の言葉が本当なのか。それとも嘘なのかを確かめる必要がある。
それに父は自分が亡くなったら必ずその人に連絡をして欲しいと言って名前と住所が書かれた紙を差し出した。
だから私は父の四十九日を終えると、その人に手紙を書いた。




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コメント
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dot 2020.08.01 05:30 | 編集
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dot 2020.08.01 06:30 | 編集
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dot 2020.08.01 08:24 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.08.01 08:47 | 編集
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dot 2020.08.01 10:50 | 編集
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dot 2020.08.01 17:59 | 編集
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dot 2020.08.01 20:35 | 編集
も**ち様
お祝い有難うございましたm(__)m
アカシアdot 2020.08.02 22:14 | 編集
ま**ん様
お祝いありがとうございますm(__)m
そして、こちらこそいつもお読みいただき有難うございます。
『天色の空』まだ始まったばかり。
とはいえこちらは短編ですので疑問の解決は早いと思われますが、楽しんでいただければ幸いです^^
アカシアdot 2020.08.02 22:16 | 編集
み***ん様
お祝いありがとうございますm(__)m
いつの間にか5年です(笑)
そしていつもお読み頂きありがとうございます。
それにしても世の中が大変な状況で気が抜けませんよねえ。
そういった状況の中で、拙宅のお話が気分転換になれば大変嬉しいです。
こちらのお話は短編ですので結末は早いのですが、楽しんでいただければ幸いです^^
アカシアdot 2020.08.02 22:19 | 編集
ふ*******マ様
お祝いありがとうございますm(__)m
こちらのお話ですが色々と疑問符がついたと思いますが短編ですので結末は…..
最後まで想像力を掻き立てるお話だといいのですが、楽しんでいただければ幸いです^^
そして、連載中のお話も楽しんでいただけるように書きたいと思いますが、別部屋、お待たせしてスミマセン(;^ω^)
アカシアdot 2020.08.02 22:23 | 編集
澪**ん様
お祝いありがとうございますm(__)m
そして、いつもお読みいただきありがとうございます。
え?こちらのお話が切な過ぎたらどうしようですか?
どうでしょうねぇ。アカシアとしては楽しんでいただければ嬉しいです!^^
アカシアdot 2020.08.02 22:25 | 編集
司*****E様
お祝いありがとうございますm(__)m
いつの間にか5年ですが、いつもお読みいただきありがとうございます。
そしていつも沢山のコメントをありがとうございます。
それにしても時の流れは早いですよねえ。
そんな時の流れの中で拙宅が日々の生活の楽しみのひとつに加えていただけているのであればアカシアも嬉しいです。
こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。
そして、こちらの短編を楽しんでいただければ幸いです(^^ゞ
アカシアdot 2020.08.02 22:29 | 編集
S***8様
お祝いありがとうございますm(__)m
アカシアdot 2020.08.02 22:31 | 編集
s***p様
わー。ありがとうございますm(__)m
拙宅のお話を楽しみにしていると言っていただけて本当に嬉しいです。
梅雨も明けて暑い夏がやってきましたが、今年の夏はこれまでの夏とは違う夏です。
色々と社会情勢が変化していますが、頑張りましょうね!(*^-^*)
アカシアdot 2020.08.02 22:34 | 編集
ゆ**ん様
お祝いありがとうございますm(__)m
いえいえ。読み逃げOKですよ。
日常生活の中の楽しみのひとつとして、お読みいただけていることが嬉しいです。
そして、こちらは短編ですが楽しんでいただければ幸いです。
ゆ***ん様もご自愛下さいね^^
アカシアdot 2020.08.02 22:38 | 編集
ふ***ん様
お祝いありがとうございますm(__)m
枯れた中高年(笑)
本当にねえ。夏なのに部分的ですが顏が乾燥します。え?違う?
そしてアカシアの話。時々人生の終わりの話もありますが、いつも応援ありがとうございます。
左後方からの視線を感じながら書きます!(笑)
早く書け~という声が飛んできそうな別部屋も書きます!(^^;)
ふ***ん様もご自愛下さいませ^^
アカシアdot 2020.08.02 22:48 | 編集
ね*様
お祝いありがとうございましたm(__)m
アカシアdot 2020.08.06 21:39 | 編集
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