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2020
07.16

夜の終わりに 26

人生はドラマや映画のように予定調和でないとしても、今日の食事は交際相手とふたりでするものだと思っていた。
だが、そこに加わったのは母親であり道明寺ホールディングス社長の道明寺楓だが、その人は謎だ。それは息子の交際相手であるつくしに対して好意的なのか。そうでないのか分からないからだ。
そしてそんな女性から言われたのは、口直しのソルベについてではなくニューヨークへ行くこと。


「食事が終わったらニューヨークって、一体どういうことですか?私と彼..….司さんとはまだ付き合い始めたばかりで、これから親睦を深める….いえ、お互いを知ることを始めたばかりです。今夜のこの食事も司さんとふたりの交際の方向性について話そうと思っていました。それに今夜お母さまにお会いすることも訊いていませんでした。だから今夜の食事が意味のある食事だとは考えずに来ました。つまり何の心構えもなくお母さまにお会いしています。それなのにいきなりニューヨークに行けと言われても意味が分かりません。もしかしておふたりだけで何か決めたことがあるなら教えていただけませんか?第一これからニューヨークと言われてもどうやって行くんですか?それに明日は日曜だとしても私は月曜から仕事があります」

つくしは早口に一気にそう言い、それから隣に座っている交際相手の顏を見た。

「ねえ、ちょっと。何でも勝手に決めないでくれる?私はあなたと付き合い始めたけど、あなたの言いなりになる女じゃない。それに不動産会社の会議にあなたが居たことも驚いたけど、皆の前で結婚するつもりだとか、どんな所に住みたいとか話すから会社にバレたじゃない。私だってコソコソするのは嫌いよ。でもあなたは親会社の副社長よ?そんなあなたと付き合ってることが会社にバレたらどうなるか、あなたは気に留めなかったかもしれないけど、ただの社員の私は本当に大変なんだから!ジロジロ見られるし、ヒソヒソ言われるし、おまけに妊娠してるのって訊かれたのよ?」


つくしは交際を始めて間もない男とその母親の態度に腹を立てていた。
この親子は他人の話を訊かない。
この親子は物事を強引に進める。
だが、大会社の社長と副社長という立場にある人間はそんなものなのかもしれない。
それにこの親子の周りに、その強引さを指摘する人間がいないことは明らかで、今こうしてつくしが面と向かって自分の意見を言えば一体何を言っているといった顏をしている。
そして母親と息子はそろってつくしを見つめているが、この親子が何を考えているのか。腹の底は読めなかったが、もし読めたとして、意義を唱えても彼らが決めたことが覆されることはないだろう。
そして、どちらの目を見る方がいいかと問われれば息子の方がいい。何しろ母親の目は錐のような鋭を持つこともだが、魔女の瞳のようで吸い込まれそうに感じる。

「あら。牧野さん。あなた妊娠しているの?」

「妊娠なんてしていません!ただ司さんと付き合っていることを知られたとき、会社で言われたんです!」

「そう。妊娠していないの?残念だわ」

は?今、何と?
妊娠していなことが残念?

「わたくしはあなたに早く司の子供を生んで欲しいの」

「あの….?」

ますます分からないこの展開。
それにしても母親の言葉は真面目なのか。それとも冗談なのか。
いや。笑みを浮かべることなく言われたその言葉を冗談と捉えることは出来ない。


「わたくしはニューヨークであなたと司のことが載った週刊誌を見たわ。
その記事を夫に見せたの。すると夫….司の父親は大変喜んだの。何しろいい年をした息子は結婚する気がない。つまりこのままでは孫が出来る見込みはないと思っていたの。
でも司が女性と一緒にいる写真を見た夫は喜んだわ。それからあなたのことを調べたの。
あなたはごく普通のどこにでもいる平凡な女性だったけど夫はそれを喜んだわ。
その理由は、夫が司の結婚相手に望むのは男性に頼って生きない自立している女性。きちんと仕事の出来る女性。反骨精神とまでは言わないけれど、自分をしっかりと持っている女性よ。何しろ夫の母親はそういった女性だったから」

母親はそこで何かを考え、少し間を置いてから言葉を継いだ。

「それからこの子から訊いているかしら?わたくしは事業を拡大するために高校生だった息子に婚約者を用意したわ。あの頃は夫が病に倒れ、わたくしは必死だったの。なんとか道明寺の家を守ろうとした。事業を存続させるためにはどんなことでもするつもりでいた。
そんなわたくしに司は酷く反発したわ。でも今思えばそれは当然だと思えるわ。
そのことがあったからかしらね。司は結婚に拒否反応を示すようになったわ。
今よりもずっと若い頃、跡継ぎが必要なら養子を取ればいい。試験管の中で作ればいいとも言ったわ。だからわたくしたちは息子の子供。つまり孫を抱くことは出来ないとあきらめていたわ。そんな司が結婚を前提に付き合いを始めた女性がいることを知って夫もわたくしも喜んだわ。特に夫はね」

道明寺楓はそこで話すのを止めた。
そして静かな表情でつくしを見ていたが、その目からは錐のような鋭さは消えていた。
それに見る人を吸い込むと言われる魔女の瞳でもなかった。
そんな母親の話を引き継ぐように息子が口を開いた。

「俺はお前が言った通り時間をかけて俺のことを分かってもらうつもりだった。だが時間をかけることが出来なくなった。その理由だが俺の父親はもう長くない。肺癌であと1年と言われた」

父親の命があと1年。
そう言った男の顏には、かつて母親のことを敵対者と見ていたとは思えない表情が浮かんでいたが、それは親を思う心だ。
かつては親子とは言えない間柄だったとしても、今そこにあるのは道明寺楓を自分の母親として敬っている気持だ。

「死を宣告された父親は俺のことを生きた証だと言った。道明寺の跡取りとして生まれた父親がビジネス以外で得たもので一番嬉しかったのは姉と俺だと言った。
そんな俺が結婚もせずにひとりでいることが心残りだと言った。だからこれから俺とニューヨークへ行って婚約者として父親に会って欲しい」




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コメント
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dot 2020.07.16 07:35 | 編集
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dot 2020.07.16 08:06 | 編集
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dot 2020.07.16 14:13 | 編集
ふ******マ様
おはようございます^^
イチャイチャとは程遠い二人の恋愛。いえ。まだ恋愛まで辿り着いてはいません。
そして余命一年と言われたパパに会ってくれと言われれば....つくしの性格ですからねえ(^^ゞ
そうです。道明寺ジェットコースターは止まりません。
そしてパパは?ということで続きをお楽しみいただければと思います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.07.18 21:37 | 編集
司*****E様
おはようございます^^
本当にパパは余命一年なのでしょうか。やはり思いますよねえ。
そしてつくしは人情家です。事情を聴きニューヨーク行きを決めるのでしょうかねえ。

感染者数が増え続ける毎日で先が見えない状況です。
このままだと爆発的な事態になるかもしれないと言われています。
舞台クラスターが発生したとなると、興行関係は色々と難しいかもしれませんね?
アカシアも某アーティストさんのライブを楽しみにしていたのですが、今年の4月が7月に変更になり、そして再び来年の4月に変更になりました。中止ではなく変更なので、その日まで我慢の子でいたいと思っています。
そして豪雨被災地の皆様の状況に胸が痛みます。毎年どこかで起こる大きな災害。
一日でも早く普通の生活が出来る日が来ることを切に願います。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.07.18 22:36 | 編集
ふ**ん様
そういうことなら、すぐに行きましょう!(≧▽≦)
でもニューヨークで待つのは何でしょうね。
コメント有難うございました^^
アカシアdot 2020.07.18 22:40 | 編集
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