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2020
07.10

夜の終わりに 23

午後から始まった会議は2時間を予定していたが、時間通り終りを迎えようとしていた。
質問するのは担当者だけで、社長やオブザーバーのように座っていた役員クラスの人間からは何もなかった。
それは、会社で使われる新しいソフトウェアのことなど担当者以外分かるはずもないからだが、それとは別にここにいるはずのない人間がいることで彼らは緊張を強いられていた。

だがそれも間もなく終わる。だから緊張していた会議室の空気も弛緩し始めていたが、テーブルの中央に座っている男が、「君の説明はよく分かった。だがひとつ訊きたいことがある」と言った。
すると、その場の空気は再び緊張感に包まれ、そこにいる人間は姿勢を正した。

そしてパソコンを見ていた彼らの視線がつくしに注がれた。
何しろ親会社の副社長の質問だ。それに会議の時間は2時間だったが、これまで何も言わなかった男が訊きたい事があるという。だから誰もが固唾を飲んで言葉を待っていた。そしてつくしにも、その緊張が伝わった。

それにしても交際相手は、つくしがパソコンを使って説明している間も、ずっと彼女を見ていたが説明を理解しているのだろうか。
だが、相手は道明寺の副社長だ。だからパソコンの画面など見なくても、訊くだけで理解することが出来るのか。
そして、道明寺司はつくしが付き合い始めた相手だがビジネスはビジネスであり、公私混同をすることはないはずだ。そうだ。今日のこの会議に出席したのはたまたま….だと思いたい。
だから構えて相手の言葉を待った。

「牧野くん」

「はい」

「君はマンションが好きか?それとも庭付きの戸建が好きか?」

「は?」

「住むならペントハウスがいいか?それとも広い敷地に建てられた邸がいいのか?」

「え?」

つくしの交際相手は何を言っているのか。
今のこの状況は道明寺不動産で使われる新しいソフトウェアの説明をしているのであって、つくしの住居に対する見解はどうでもいいはずだ。だから質問の意味が分からなかった。

「牧野くん!牧野くん!道明寺副社長の質問に答えなさい」

慌てた様子で、しかも声を震わせながら、そう言ったのは隣に座っている課長だ。

「え?でも課長___」

「いいからお答えして!ここは不動産会社だ。道明寺副社長が住まいに関心を持たれるのは当然のことだ。君に対して訊いてはいらっしゃるが、ごく一般的な質問だ。だからお答えして!」

「は、はあ….」と意思もなく答えたが、「牧野くん!」と促され言葉を継いだ。

「私はアパートで育ちました。ですから広い庭がある一軒家に憧れがありますが、都心でそれを望むのは贅沢なことです。でも都心では無理でも郊外の田舎に行けば_」

「そうか。広い庭のある家か。心配するな。田舎に行かなくても願いは叶えられる」

「え?」

「俺はいくつか家を持っている。お前が広い庭のある家がいいなら世田谷にちょうどいい物件がある。敷地の広さは50万平方メートルほどだったか。広い庭で花を育てるのも野菜を育てるのもいい。好きに使ってくれ。それからテニスコートもある。プールは屋内にあるが屋外がいいなら外に作ることも出来るがどうする?」

「どうする…..?」

この人は何を言っているのか。
それに何をどうするのか?だからつくしは訊いた。

「あの。道明寺副社長。おっしゃっている意味が分からないんですが?」

「牧野つくし」

と、つくしの名前を呼んだ男は立ち上った。
そしてテーブルを回ってつくしに近づいて来た。

「お前。俺が言ったことをもう忘れたのか?俺はお前と結婚するつもりでいる。だからお前がどこに住みたいか訊いている。ペントハウスにするか。それとも戸建てにするか。
世田谷が嫌なら松濤にも邸がある。あそこも庭は広い。だがあそこは総檜造りの日本家屋だがどうだ?」

「ど、どうだって…..」

「そうか。日本家屋が嫌ならぶっ壊して新しく建てるか?設計は隈研吾に頼めばいい。それとも他の建築家がよければ名前をあげてくれ。すぐに手配する」

隈研吾?それとも他の建築家?

「ちょっと待って!何言ってるのよ?」

つくしは、すぐ傍に立った男を見上げながら尋ねた。

「だからさっきから言ってるだろ?俺はお前と結婚するつもりでいる。だから新居はどこがいいか訊いたまでだ。それに丁度いい。ここはうちの不動産部門だ。その中の物件から好きなのを選んでもいいぞ」

いや、丁度いいと言われても困るし、選べと言われても困る。
それに今は仕事中だ。それにここに居並ぶのは、ふたりの交際など全く知らない人間だ。
それなのにいきなりプライベートな話を始めた男は何を考えているのか。
それに週刊誌の記事のこともある。それについても訊かなければならないが、それこそ今ここで話すことではない。だから取りあえず今のこの状況を何とかしなければという思いで声を上げた。

「あのね!今は仕事中でしょ?だから今その話は__」

「道明寺副社長大変光栄です!我社の物件の中に牧野様が気に入られた物件があれば、我々にとっても喜ばしいことです」

と、唐突に声を上げたのは道明寺不動産の社長。
すると、それをきっかけに役員たちは次々に声を上げた。

「おお。それは素晴らしい。うちには数多くの高級物件があります。牧野様は戸建をご希望のようですが白金台に出来た新築のタワーマンションなどいかがですかな?」

「いや。それよりも広尾の方がよろしいのでは?」

「ですが虎ノ門も捨てがたい」



つくしは彼らの話を訊きながら気付いた。
それは男性には強引な所があることは分かってはいたが、今はその男性に贅沢な追いつめられ方をされているということを。
そして、男性には力があることは分かってはいたが、その男性がストーカー体質だったことを......知った。





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コメント
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dot 2020.07.10 07:35 | 編集
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dot 2020.07.10 09:12 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.07.10 12:51 | 編集
このコメントは管理者の承認待ちです
dot 2020.07.10 13:40 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.07.10 15:43 | 編集
このコメントは管理人のみ閲覧できます
dot 2020.07.10 21:11 | 編集
ふ*******マ様
おはようございます^^
公私混同発言の司、降臨!(≧▽≦)
そして不動産会社のお偉いさん方は流石です。空気を読むことに長けています
そうです。みんな日本のサラリーマンです!長い物には巻かれろ、です(笑)
それにしても、この先つくしはどうなるんでしょうね~。
アカシアdot 2020.07.11 16:06 | 編集
司*****E様
この男。自分の力の使い方を心得ていますね。
結婚を前提に付き合い始めたとはいえ、まだ始まったばかり。
しかし彼は付き合いの長さを気にしません。
野性の勘を持つ男は惚れた女を追いつめます。
そんな男のことをストーカー体質だと言った女はどうなるのでしょうねえ^^
アカシアdot 2020.07.11 16:10 | 編集
イ**マ様
この展開。
ぶっ飛んでいたとしても、司にとっては通常モードだと思います。
それに司の辞書に足踏みの文字はありませんから!(≧▽≦)
アカシアdot 2020.07.11 16:12 | 編集
と*様
道明寺不動産の社長。そして役員の皆さん。
目の前の状況に目が点だったかもしれませんが、空気を読むのは早いです。
さすが日本のサラリーマンですね(笑)
アカシアdot 2020.07.11 16:14 | 編集
ま**ん様
会議の場に誰がいようと関係ありません。
だってここは道明寺不動産ですから!(≧▽≦)
そして、つくしへまっしぐらです。
それにしても、つくしは付き合い始めたのはいいですが、司のパワーにやられっぱなしですね。

拙宅の司は割とシリアス。もしくは御曹司シリーズのように可愛いはちゃめちゃですか?(笑)
そうですねえ。シリアスを書くとシリアスになり過ぎるので、ちょっとアレかしら。と思っていますが、ふたりがそれなりの年齢になると、そういった方向に走ってしまいます。
そして、現在のこのふたりには温度差がありますが、その差が解消される何かがあるのでしょうかねえ(;^ω^)
アカシアdot 2020.07.11 16:18 | 編集
ふ**ん様
声が震える課長(笑)
突然現れた道明寺司を前にすれば声も震え思考も固まるでしょう(笑)
それにしても隈研吾に設計してもらうとは!
え?すごいデザインで、すごく落ち着きそうで、まったく落ち着かない家が出来る!
それに掃除が大変そう(笑) ははは(≧▽≦)確かにそうでしょうねえ。
そして、ストーカー副社長は自分より年上の役員を前に獲物を追いつめるんですから流石です。
ハンター司(笑)獲物をガッチリ捕らえてね💛
アカシアdot 2020.07.11 16:24 | 編集
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